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【読書記録】八木沢里志『純喫茶トルンカ』『純喫茶トルンカ~しあわせの香り~』 心があったまるお話

 八木沢里志『純喫茶トルンカ』『純喫茶トルンカ~しあわせの香り~』読了しました。タイトルと表紙の雰囲気を裏切らない、癒し系の作品。本当に人間が好きな人が書いた作品なんだと思います。
 八木沢里志さんの作品は『君と暮らせば』も読みました。こちらも、ダウナー系お兄ちゃんと勝気な妹の掛け合いが微笑ましい。

あらすじ

 ※徳間書店より引用
 純喫茶トルンカは、下町情緒の色濃く残る商店街の、さらに路地を抜けた袋小路にある喫茶店。場所がわかりづらいこともあり、やってくるお客のほとんどが近所の人ばかり。
 でもコーヒーの味はなかなかのもの。マスターは物静かで無口な中年男性。大学生バイト・修一と一緒にお店をしているのだが、ある日、修一に「私たちは前世でお会いしてるんです!」と突然女の子に声をかけられた!一体どういうこと?

登場人物がみんな地に足を付けて生きている

 『純喫茶トルンカ』のお話は、大学生バイトの修一くんのエピソードから始まります。浮いた話のない修一くんが、ある日「前世の恋人」を自称するトルンカのお客さんから突然猛アタックされる、なんともインパクトのある主人公……では無いのです。
 『純喫茶トルンカ』は登場人物全員が主役で、章ごとに語り手が変わります。1章は修一くん目線で見たトルンカ、2章はマスターの娘 雫ちゃんから見た修一くんの恋の話……というように、登場人物がお互いに作用し合っている。つまり、トルンカという箱庭の中で登場人物が生活しているのです。
 これは相当人間が好きで常に観察しまくってる人にしか書けない群像劇だと思います。私もこんなお話が書きた~い!

人物紹介の滑らかさ

 群像劇って登場人物のバックボーンが重要になってくるので、人物説明がどうしても説明的になりがちという問題を抱えています。『純喫茶トルンカ』はその問題を、初めての恋にタジタジな修一くんを登場させることで解決しています。
 トルンカの面々は、修一くんの恋に様々な反応を見せます。「シルヴィー(前世の名前)」と呼んでからかって遊ぶ人や、デートはいつするのかと盛り上がる人、若人を微笑ましく見守る人……。一見、修一くんは茶化すと面白い愛嬌のある男だという裏付けシーンに見えますが、実際は登場人物の性格紹介シーンです。洋画みたいに滑らかで、思わず感嘆のため息がでました。
 うまく言語化できないな……要は、狂言回しがいない群像劇だと言いたいです。修一くんのキャラ立ちのために存在させられている、物語の舞台装置的な人間がいない、と私は読んで感じました。

毛羽立った気持ちを落ち着けてくれるお話

 恋愛、家族愛、地元愛。どれもストレートに伝わってきて、温かい気持ちで読み終えることができました。菫姉ちゃんのシェードツリーのお話は特に良くて、周りの人との支え合いで生活が成り立っていること思い出させてくれました。人間関係に陰りが見えた時の特効薬として機能してくれるお話です。

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