【読書記録】原田マハ『さいはての彼女』
原田マハ『さいはての彼女』読了しました。いいな、私も北海道の酷道をバイクでかっ飛ばしたい。短編集で4作ありますが、一番印象に残ったナギの物語の感想を 主に綴っていきます。
あらすじ BOOKより引用
25歳で起業した敏腕若手女性社長の鈴木涼香。猛烈に頑張ったおかげで会社は順調に成長したものの結婚とは縁遠く、絶大な信頼を寄せていた秘書の高見沢さえも会社を去るという。失意のまま出かけた一人旅のチケットは行き先違いで、沖縄で優雅なヴァカンスと決め込んだつもりが、なぜか女満別!?だが、予想外の出逢いが、こわばった涼香の心をほぐしていく。人は何度でも立ち上がれる。再生をテーマにした、珠玉の短篇集。
男性社会で負けじと踏ん張る女性
物語の主軸になるのは、女性社長や、企業で重要なポストにつく女性、母子家庭のお母さんといった、コミュニティを維持管理する女性たちです。
男女平等が叫ばれる世情ですが、依然として「人や経済を管理するロールモデル」に女性が割り当てられると 物珍しさを感じてしまいます。おそらく『さいはての彼女』はこういった先入観を意識していて、男性社会に負けじと踏ん張る女性が「いかにして心が折れたのか」を丁寧に描いています。
私も男性中心の会社で、ヒラ営業職をやっています。いやホントに些細なことなのですが、営業周りに行っても「事務員さん」って呼ばれるんですよね。男性が営業、女性は事務。体格や基礎体力の差があるので 仕方ないことではありますが、少し悲しい気持ちになります。
『さいはての彼女』の女性たちは、私みたいな何の責任も持たないヒラ社員ではなく、管理職(もちろん母子家庭ママも、我が子の人生を守護するという面で)です。男性社会に適した歯車に成り切れないやるせなさや苛立ちは、想像以上のものだと思います。
ハーレー「サイハテ」に乗ったナギ
『さいはての彼女』は、「社会での役割に疲れ切った女性が辺境の地(=さいはて)へ旅行に行く」以外にも、「ハーレー”サイハテ”に乗ったナギ」というミーニングが込められています。
ナギは耳が不自由にも関わらず サイハテを乗りこなし、周りの人をバイク好きにしてしまう バイクの伝道師みたいな女性です。傷心の涼香と出会った時も、彼女をタンデム(バイクを2人乗りすることだそう。語呂感がいい)に誘い、北海道の酷道でサイハテは風になります。
物凄いスピードで走るサイハテ。涼香にのしかかった肩書や責務は、強風に煽られて次々と剝がれ落ちていきます。いいなー気持ちいいだろうな。
誰も自分のことを知らない土地へ旅行に行くって、私は模擬的な「生まれ変わり」だと思っています。自分の肩書や役割を手放し、何も持たない「無」になる。そして、「無」だと思っていた自分から、元来 有していた性分を見つけ出す。丸っきり違う自分に生まれ変わることは出来ないけれど、ちょっとアップグレードしてみることはできる。バイクだってカスタムすれば、また違った走りを見せてくれる。ナギは涼香に、そんな柔軟さを思い出させてくれる人間なのです。
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