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日々読書‐教育実践に深く測り合えるために

増山均『アニマシオンが子どもを育てる』旬報社、2000年。
 
 私たちの生活と子育てのあり方を問い直すヒントを、スペインの生活スタイルと比較するなかで探ってみたいというのが本書のねらいです。
 アニマシオンとは、子どもたち一人ひとりのマニア(anima:魂)を生き生きと輝かせていくこと、生活と活動と集団を活気づけていくことです。学校における教育(エデュカシオン)は、文化遺産や技術を教え込むことを主としますが、それに対し、アニマシオンは、自分たちで自由にやってみること、イキイキ、わくわく、はらはら、ドキドキする楽しい生活や文化の創造を限りなく励ましていくことです。スペインでは、これを子どもたちの人間形成にとってなくてはならないものとして重視しています。さらに、このイキイキ、わくわく人々がともに楽しみ生活していくことこそが、社会の豊かな発達にとって大切であるとも考えられます。アニマシオン、つまり自由闊達な精神と身体の躍動をつくりだしていくことこそが、文化活動の「基本」であり、市民生活と社会を豊かにしていく「基礎」だと位置づけられているのです。
 アニマシオンという言葉は、本書では、単なる教育の技法や読書の方法として狭く理解されるのではなく、一人ひとりが生活と時間の主人公となって、体と心が内側から突き動かされ、わくわくしてどうにもならなくて駆けだしてしまう、そんな生活と社会の原理としてとらえられているのです。
 教育が「ゆとり」を持つには、生活そのものが「ゆったり」しないといけないのではないか。アニマシオンの特徴は、その「余暇」概念にあります。ここでの余暇は、テレビゲームで時間をつぶすというものでも、余暇の時間の内にできるだけたくさんの娯楽を詰め込もうと、もうやたらせわしなく遊ぶことでもありません。
 
 さまざまな活動で忙しい夏休みに、わずか二泊三日程度のキャンプです  
 ら、ノンビリ休養の時間を保障するのではなしに、「自治を育てる指導」
 や「遊びの指導」をしたり、「学校五日制」で生まれた二日の休みにも、
 「体験学習」や「ボランティア」をやらせたりすることが、本当にいいか
 どうかゆっくり考えてみる必要があるでしょう。(49頁)
 
 時間をケチケチしているようで、本当は別の何かをケチケチしていないか。時間を節約すればするほど、生活はやせ細っていないか。そうした警告がありました。
 ここでの余暇とは、何もしない、時間をやり過ごすというではなくて、「内面的なゆとり」「ゆだねること」「沈黙したり、待ったりすることによって、物事を受け入れること、感応すること」「イメージ豊かに創造すること」といった気晴らしの態度です。そうした豊かな生活や文化活動を保障していく環境をいかに子どもたちに押しつけることなく形成していくかが、私たちの生活と子育てを問い直すための課題だと増山さんは主張しているのです。
 

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