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日々読書‐教育実践に深く測りあえるために

坂口恭平『苦しい時は電話して』講談社現代新書、2020年。

 死にたい時は何でも反省してしまっている時である。破壊的な反省をしてしまったと反省もしている。行き過ぎた反省が自殺なので、反省を止めることがポイントなのだが、反省はやめられない。休ませようとする体が、疲れているので休もうなんて少しも考えない頭を支配して、身動きできなくするために、反省ばかりさせているからである。

 何もしたくない=死にたい=何かしたいという矛盾の状態が、死にたい人の日常である。でも、死にたいと話すことはできる。死にたくなっている時は、死にたい、ということしか考えられなくなっている。だから、それを吐ける人には、会いたいし、話したい。命を懸けてでも、死にたいと吐ける人捜したいのである。

 本書には、至るところに坂口さんの携帯番号が明記されている。坂口さんは、「いのっちの電話」という、死にたいという人であれば誰でもかけることのできる無償の電話サービスをやっている。2012年に始め、1日に7人ほどかけてくるそうで、年間2000人を超えるという。もう10年近く続けられている。坂口さんも、周期的に死にたくなる人であり、死にたい時は、毎回、全く同じ状態であることに気づいた人でもあるのだ。

 坂口さんが、「いのっちの電話」を続けている理由は、死にたいと思うことがあなただけに起こっている特別なことではなく、人間にはよくある症状だと気づくことが重要なのだが、一人ではそれに気づくことが難しいからである。死にたくなっている時は、自分で考えることはできるだけせずに、自分から離れて、他人の声に耳を傾ける。坂口さんによれば、みんな死にたいけど、死ぬよりも、何か逃げ道はないかとどこかで思っている。でも、電話をかけてくる多くの人が、他人には言えないと嘆いていた。

 対話する空間がなければ、つくればいい。そうして開設している「いのっちの電話」には、覚悟という言葉では足らないほどに、確信と一貫性がある。

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