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地産地消と学校給食

 学校給食に地元食材を使うためには、なるべく大きな品種を選択したり、出荷期間を長くしたり、収穫物の保存期間を長くしたり、夏休みや冬休み期間の販売先を確保したりする必要があります。さらに、発注がキャンセルされる遠足や運動会、あるいは、天候不順や病害虫の影響といった事態に対応できる過不足調整機能をもつことが必要となります。安全・安心には、コストと手間がかかるうえ、消費者の高い意識と協力が不可欠であり、生産者と栄養士と調理員の苦労が伴います。
 今治市では、センター方式から自校方式へ切り替え、栄養士の全校配置とともに、栄養士と生産者相互の見学会と会議を積み重ね、相互理解を図り、さらに、作り手の育成を目指した「実践農業講座」の開設や農薬や化学肥料の不使用が入園条件である「いまばり市民農園」の開設を経て、有機農業者と農協と保護者と学校を結び付け、学校給食の受注システムにおける協働を成立させてきました。さらに、生産者と消費者をつなぐことでゆうき生協の取り組みが広がり、料理店に生産者を紹介して有機レストランがオープンしています。農協と小さな農家と消費者をつないだ結果、直売所がオープンし、飲食店、加工場、小売店と生産者を結ぶことで、新しメニューや加工品が生まれています。多様な人々を結び付け、小さな取り組みへの一人ひとりの参加を通して、成果を積み重ねているのです。自給を高め、安全で環境を守り育てる食と農は、未来を支える子どもたちと共に育っていくものであり、地産地消は食文化を育むものです。食育は、耕す市民を育て、子どもたちに食べ物の生産を教えることに本質があるというのです。(安井孝『地産地消と学校給食 ― 有機農業と食育のまちづくり』コモンズ、2010年、大江正章『地域の力-食・農・まちづくり』岩波書店、2008年、71‐96頁、参照。)石川県羽咋市では、自然栽培の米と野菜を取り入れた給食を実施するとともに、自然栽培新規就農者支援を行っています。
 これまで学校は、地域の人々を、教育目標を達成するための手段ととらえがちでした。しかし、地域の人々との出会いは一回きりの授業で終わらずに、地域の現在と未来を考える仲間としての関係を新たに築いていく必要があります。地域のよさや美しさを子どもたちに語るだけでなく、地域が直面する課題そのものを、子どもたちと共に学び合うことで、子どもたちにとっては学びが自らの未来を切り開いていくことにつながるのだという確信を体験することになります。地域の課題を子どもたちと共に地域の人々や教師が学び合うことで、地域を見つめ直すことができると同時に、そうした学校の可能性を教師も地域の人々も見つめ直すことができるのです。(拙稿「小規模校から学校を問い直す」日本教育方法学会編『教育方法49 公教育としての学校を問い直す』図書文化社、2020年、84‐96頁。)
 

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