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日々読書‐教育実践に深く測りあえるために

藤江康彦編著『小中一貫教育をデザインする』東洋館出版社、2019年。

 小中一貫教育の本質は、子どもや地域の課題解決に向けて、人材や予算、時間、空間、情報、教育内容といった必要な資源を再配分することにある。近年、小中一貫校や義務教育学校という新たな学校の設置形態によって小中一貫教育が実体化されようとするなか、資源の再配分をするためには「カリキュラム・マネジメント」という発想が必要となる。ここでいう「カリキュラム・マネジメント」とは、教育課程の編成と運用だけを指しているのではなく、子どもの組織化、教師の側の学習指導や生徒指導の体制構築も含んでいる。

 小中一貫教育は、安心して生活することのできる教育環境、個性的に探究することができる環境、繰り返し学ぶことができる環境教育、高度に学ぶことができる教育環境をめざしている。多くの小中一貫校や義務教育学校では、教科や生活科・総合的な学習の時間の9年間一貫したカリキュラムの開発が行われている。小中一貫教育の実質化には学校に基盤をおくカリキュラム開発(SBCD)が必要となる。SBCDは、カリキュラムは「完成」させずに毎年見直していく、修正を重ねていくことが大切である。また、教師自身がカリキュラム開発に携わり、内容の領域は子どもの実体に合わせて決めることが求められる。

 小中一貫校や義務教育学校においては、9学年の子どもを、1年生から4年生、5年生から7年生、8年生と9年生というように、4-3-2というまとまりをつくって組織している学校が多くある。4-3-2制のカリキュラム・マネジメントの意義は、9年間の一貫性や連続性を大切にしながら、他方で子どもの発達段階に応じた複数学年の集団を設定して、子どもの発達の段階制に応じた細やかな支援を可能にすることである。同時に、複数の教師が複数の学年にまたがる教務を協働的に担うことが可能となる。

 新たな学習形態である施設一体型小中一貫校では、教師に異校種の教師や子どもへの理解の深まりがある。職員室が一ついう施設一体型の小中一貫校という環境が、相互の教師の仕事をよく観察する契機をもたらしたためである。さらに、5,6年を担任し、7年生以上を間近でみる経験をした教師を中心に低学年が大事であるという再認識がなされるように、発達的視点に立つ子どもの姿や実践についての理解が示される。小中一貫校の教師には、子どもへの発達的な視点の獲得に基づく子ども理解の拡がりが期待される。「この学年であれば、この程度」、「この子どもはこういう子ども」という思い込みが、幅広い学年の子どもと接することでそうでない姿のあることに気づき、受容していくのである。

 小中一貫校や義務教育学校の学校づくりにおいて重要なことは、文化の違いを前提とすることである。小学校と中学校は、異文化であることを前提に、「文化の違い」をうまくいかないことの理由にはせずに、なぜ自分たちはそうするのか、なぜ相手の校種のやり方に戸惑いを感じるのかを徹底してことばにしていく、さらに、子どもにとっての新たな文化を創ることである。教師が子どもたちの姿から学び、新たな子ども像のもとで小中一貫校ならではの取り組みを蓄積していくことが新たな文化を創造することにつながるのである。

 これからの義務教育は地域との協働も課題となり、地域の人々とともに子どもを育むことになる。コミュニティ・スクールとしての学校は、まず「育てたい子ども像(ビジョン)」を学校と地域とが共有する必要がある。さらに、小中一貫校や義務教育学校をコミュニティ・スクールとして位置づけたとき、学校の役割は拡がり、地域の人々がよりどころとする学校から、地域の人々が出会い直し、学び合う学校となる。小中一貫校や義務教育学校の教師は、文化を創るという人間の学びの本質を経験している。そこに、保護者や地域の大人も参画し、学んでいく。

 小中一貫校や義務教育学校の可能性は学びが連動していくところにあるのではないかと本書は指摘しているのである。

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