かくれんぼ

また君が髪を掻き上げる
シャンプーのただ優しい匂いがふわっと空気に混ざる
少し襟足が長くてサラサラな髪
私はそれに指を通す
指が覚えるまで 何度も何度も
一度も染めたことない綺麗な髪を
汚さないように、壊さないように
忘れないように


都会のアパート 二階の角部屋
もわっとした空気 月明かりのベランダ
溝にはセミの抜け殻
あぁ、もう夏がきている

君の右手にはエナジードリンク
そればっかり飲んでるよね
わたしはいつものブラックコーヒー
また同じように君がきゅーきゅー笑う
星を掴んだ君の左手が
少しの煌めきを残して消えていく

ずっと考えていた
この日が来てしまうことを
明日が来れば、君は
考えても埒があかなくなって
私はもやもやしてるのに
君はいつものように笑ってて
最近出てきたお腹に軽くパンチした

分かってるんだよ
君だって本当は怖いんでしょ
でも次に朝日を見たら
もうそばにいられないのに
抱きしめることもできないのに
隣にいるだけで
こんなにも心臓は暴れてるのに

後悔なんかしたくなくって
その大きな体の正面に飛びついて
匂いを鼻腔に溜めるように首に顔を埋める
ダイエットしないとって言ったのに
最後までぷよぷよのお腹だったね
お酒とタバコに焼けているはずなのに
あの頃と少しも変わらない優しい声が
鼓膜を幸せにする
生まれ変わっても覚えていられるように
少し自信はないけれど

最後に見えたのは
少しブサイクで綺麗な君の泣き顔だった
そんな顔見るのは初めてで
どうしたらいいか分からなかった


草案:2016年冬 完成:2017年夏

加筆・修正:2020年7月9日雨

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