「あの白いヤツだ・・・」伝説となったガンダムとアムロ~機動戦士ガンダム 第32話「強行突破作戦」感想
シャワー室に行った連中
今回はジオンのモビルスーツの襲来から話が始まる。おそらくは前回のラストから10分程度しか経過していないと考えられる。
ブライトの「シャワー室に行った連中」という言い方がなんとも味わい深い。若干の苛立ちを醸す絶妙の表現である。
マーカーが「援軍ですかね?」といぶかしんでいるように、単騎でホワイトベースに接近するというのはそのねらいが分かりにくい。
ジオン側がどういう意図で単騎攻撃を仕掛けてきているのか、それはこの後判明する。
セイラの不調
第30話「小さな防衛線」でシャアと再開して以来、悩み続けているセイラ。今回も同様である。ただ、今回はセイラの様子がおかしいことに周囲が気づき始める。
下がっていくセイラはうつむいて、がっくりと肩を落とし、本当に不調そうだ。
モビルアーマー・ザクレロ
今回の単騎襲撃は、ジオン兵デミトリーの独断での行動だった。前回モビルアーマー・ビグロのパイロット・トクワンの仇討ち戦である。
今回登場したザクレロはこんなナリである。うーむ、悪役キャラだ。
久々にドレンの名前が出てきた。ドレンといえば左遷前のシャアの部下として常に行動を共にしていたジオン兵である。実に第11話「イセリナ、恋のあと」以来の登場である。
ドレンとシャアのコンビが今回もホワイトベースを追い詰めるのか。
シャアは「ここは我々の庭」という。宇宙空間はジオンが制空権を握っており、連邦軍がおさえているのはルナツーくらいである。
ホワイトベースは見かけ上は進路を月にとっているので、ジオン軍の制空権内を航行しているわけだ。
第5話「大気圏突入」で、ジオン軍の勢力圏内に降下してからジオン軍と戦い続けたように、ホワイトベースは敵勢力内で孤軍奮闘する運命にあるようだ。
ガンダム・・・。
ザクレロに対しハヤトがガンタンクで出撃。アムロもガンダムで出るがこれはいったい・・・。
Gファイターの後部とガンダムの合体型。ガンダムの下半身はGファイターの中に入っているのか、それともガンダムは上半身だけか。
ともかく、あまりカッコいいとはいえない。おそらくは玩具販売の大人な事情による登場であろう。
ただ戦闘力はなかなかのようだ。ガンダム(上半身)によるビームライフル・ビームサーベル攻撃とGファイターのスピード・機動性とを合わせた、宇宙戦闘向きの形態だ。ザクレロをあっさり撃破。
アムロのいう「こちらのコンピューターで簡単に動きが読めた」というのは、ザクレロはテスト段階のモビルアーマーで動きが単純なため、ガンダムのコンピュータで容易に分析できたということか。
なお、この戦闘でガンダムは右腕を損傷するが、それが後ほどガンダムの出撃の遅れの伏線となっている。
「生意気だね、お前」
スレッガーも「赤い彗星」のシャアのことは当然知っているはずだ。ここでのアムロとのやりとりはシャアをかなり侮っているように感じられる。
スレッガーは、シャアのことを情報としては認識していても、実際に戦闘した経験は前回1回しかない。
対してアムロをはじめホワイトベースのクルー達はサイド7以降、シャアから逃げ続けてきた。その怖さを身をもって知っている。連邦軍でシャアの実力をもっとも知っているといっていいだろう。その認識の差が出た会話である。
そこにセイラが入ってきてアムロと交代。スレッガーがセイラをナンパしようとしたところでアムロが「中尉、主砲の方いいんですか?」「ブライトさんに怒られますよ、戦闘中です」である。
これにスレッガーが「生意気だね、お前」とド直球の返答をする。ガキの正論にナンパを邪魔され少々ご機嫌斜めのご様子だ。
シャアとドレンの挟み撃ち
現在、ドレンはキャメルというラクダ味の艦隊に所属しているようだ。アニメで見ると3隻のムサイを率いている。階級も少尉から大尉に上がっている。
シャアの部下ということで一緒に左遷されたのかと思っていたが、昇進したものだ。
シャアの作戦は、ドレンのムサイでホワイトベースの前方を押さえ、合わせてザンジバルでホワイトベースを追撃、挟み撃ちにするというものである。
ザンジバルにムサイ3隻の合計4隻で襲撃すれば新造戦艦ホワイトベースといえども撃破できるはずだ。
作戦内容とは全く関係ないが、この2人の会話、久しぶりに会った先輩・後輩という感じで味わい深い。2人の信頼関係も存分に出ており見ていて清々しい。
「私は認められない、兄さんのやり方」
シャアの目的はザビ家への復讐である。すでにガルマを亡き者にし、今もなお虎視眈々とそのチャンスを狙っているはずだ。
セイラはシャアのねらいに気づいている。しかし、セイラは「私は認められない、兄さんのやり方」という。
ジオン軍と連邦軍という敵と味方に分かれ兄妹が争うというなんとも皮肉な展開だが、それに加えて、兄妹で意見が食い違うという非常に複雑な展開になっている。
ただセイラが賛成できないのは「兄さんのやり方」であって、その目的そのものには否定的ではないようだ。
セイラもザビ家に対しては思うところがあるということだろう。
本筋とは関係ないが、このシーン、無重力なので本が浮いている描写なのだが、セイラの苦悩の表情のためセイラが念力で本を浮かせているように見えてしまう。ほんとどうでもいいが。
「私はどうしても生き延びたいんだから」
セイラは「どうしても生き延びたい」とアムロにいう。これはいったい何だろうか。
アムロもブリッジ同様、最近のセイラの変調に疑問を持ち始めた。もっともその意味するところにはまだ気づいていない。
まだ小さな違和感といった程度だが、こうした描写があとあとのストーリーにボディブローのように効いてくるはずだ。
ムサイ接近!
ホワイトベースがドレン率いるムサイの接近を察知した。ブライトは即座に強行突破を決意する。
攻撃態勢にはいったホワイトベースは実にかっこいい。
対するドレンはムサイからドム6機を出撃させる。前回シャアがとったのと同じ作戦だ。
スレッガー出撃
今回のホワイトベース側の体勢は、Gファイター2機、ガンキャノン、ガンタンクの合計4機である。のちほどアムロのガンダムも出撃する。
前回ただ一人ザンジバルに主砲を直撃させ、その腕前を見せつけたスレッガー、今回はGファイターで出撃である。戦闘機の操縦技術の方はいかがであろうか。
「暴れてさっぱりしてくる」
セイラもスレッガー同様Gファイターで出撃である。
アムロは「セイラさん、おかしいですよ?」といぶかしがってはいる。ここでセイラが「ザンジバルから発進したモビルスーツじゃないでしょ?」と言っている点が、セイラの心情を読み取るヒントとなっているのだがアムロがそれに気づく様子はない。
おとり作戦成功
前回、おとりとしてジャブローを発進したホワイトベース。本体であるティアンム艦隊は無事大気圏を突破した。おとり作戦成功である。
ホワイトベースは本隊の2時間前に出発しているので、ホワイトベースが宇宙に飛び出し、ザンジバルと砲撃戦を繰り広げ、ザクレロを撃破するあたりまでの出来事はわずか2時間程度のことだったわけだ。相変わらずなかなかのハードスケジュールである。
戦闘開始
いよいよ戦闘開始である。
ドムの先制攻撃をかわし、カイが砲撃。見事ドムを撃破。「やったぁ!」と無邪気に喜ぶカイ。
しかし、その爆発に隠れてドム2機が接近戦を仕掛ける。これはジェットストリームアタックか!?
この攻撃でスレッガーのGファイターが被弾。今回スレッガーの出番はこれでおしまいである。前回とはうってかわって精彩を欠く結果となってしまった。
対照的にセイラはビーム砲1撃でドム2機を一気に撃破。自分でおもわず「うまい」と言ってしまうほどである。
カイとセイラで合計3機のドムを撃破。しかし、その間に別の3機のドムがホワイトベースに取り付いてしまった。
すでにミサイルの直撃を4発受けている。さすがにムサイ3隻、ドム6機との戦闘は多勢に無勢か?
ここにシャアのザンジバルが到着してしまえば、ホワイトベースは撃沈されてしまうだろう。
果たして!?
ガンダム出撃
いよいよガンダムの出撃である。
ガンダムの出撃がここまで遅れてしまったのは、今回の冒頭、ザクレロとの戦闘で右腕を損傷し、その修理に時間がかかっていたためだ。このあたり、ストーリーテリングが自然で、ドラマの作り方が実にうまい。
ブライトから「ドムには構うな」と言われているにもかかわらず早速1機のドムを撃破するアムロ。
ここでホワイトベースがムサイ1隻を撃破。残るは2隻だ。
しかし、ホワイトベースもビーム砲の直撃を受ける。
「あの白いヤツだ・・・」
ガンダムが見当たらないことに困惑するドレン。
そこに「高熱源体接近」の報が入る。ドレンの「スワメル!よけるんだ!」という叫びもむなしく、スワメル艦は爆散。
ここでドレンは「あの白いヤツだ・・・」とガンダムの襲撃を確信する。
このシーンのガンダム・アムロの描写が実にいい。
まずは彗星のような白い閃光が宇宙空間に一筋現れる。
その閃光をクローズアップしていってガンダムの姿が描写される。
さらにクローズアップして、コックピット内のアムロを映し出す。このアムロ、目をあえて描かないことで無機質・無感情な印象を与えている。
最後にアムロの横顔である。アムロは無表情でまっすぐ正面を見据えている。
この一筋の閃光からアムロの横顔まで、情緒的な演出もなくセリフもない。ただ淡々と任務をこなすパイロットとしてのアムロを描いている。
第29話「ジャブローに散る!」でのウッディの言葉を体現しているかのようだ。
ドレンのムサイに一気に接近するガンダム。
ムサイのブリッジを一刀両断。ドレンは船外に放り出された。少々面長なガンダムの背後に、放り出されたドレンが小さく描かれている。
ラスト、ドムの横薙ぎがガンダムの盾を切り裂いたかと思えば、その下に隠し持っていたビームサーベルで太刀をかわし、見事ドムを撃破。
ザンジバル到着前に決着である。
サイド6へ
行手を遮るムサイ3隻を強行突破し、挟み撃ちを免れたホワイトベース。しかし、その代償は大きかった。ミサイルやビーム砲の直撃を受け満身創痍である。
そこにシャア率いるザンジバルとの接触の可能性が出てきた。この状況ではザンジバルに勝ち目はない。そこで中立サイドであるサイド6に向かうことに。
Wikipedia情報は主権国家を想定した中立概念を紹介している。機動戦士ガンダムの世界のサイドは主権国家ではないので直接的な援用はできないが、サイド6の立ち位置を理解する上で大いに参考になるだろう。
スレッガーは「戦闘行為は南極条約で禁じられているし、うまくいけばホワイトベースの修理もできる」と言っているが、上記の中立概念からすると戦艦の修理や燃料の補給といった便益を受けることは中立義務違反になる可能性が高い。そのあたり、スレッガーの見通しは少々甘めである。
サイド6に向かう決定に対しミライが「でもブライト、サイド6に向かったってどうなるというものでもないし」と意見する。ブライトが「気になる事でもあるのか?ミライ」と聞いても「い、いえ、別に・・・」と歯切れが悪い。
ミライとサイド6とくれば婚約者である。
ミライの奥歯に物が挟まったような対応は、前回ブライトの前でフィアンセの存在を暴露され、ブライトと微妙な空気になってしまったいきさつがあるので、サイド6に行けばまた何か起きてしまうのではないかという不安の表れか。それとも婚約者との間でもともと何かあったのか。次回、要チェックである。
なお、スレッガーがブライトを少尉と呼んでいるが、ブライトは中尉である。これは単純ミスだろう。
第32話の感想
今回、セイラの苦悩と、周囲がそれに気づき始める様子が描かれていた。シャアとセイラが今後どうなっていくのかまだ予想もできない段階だが、ここ数話で丁寧に伏線をはっているといったところであろう。
また、ガンダムの存在がジオン軍にとって無視できない存在となった回でもある。淡々と任務をこなすアムロの姿は、一切の感情が描かれないことでかえって不気味さを醸している。ジオン兵にとってこれ以上の恐怖はない。
ドレンがガンダムの姿を探しているところに「高熱源体接近」の報が入る。一筋の閃光がムサイに接近、あっという間にムサイ2隻を撃沈してしまった。今回のアムロの活躍は、シャアのルウム戦役での活躍と対をなすものである。
第2話「ガンダム破壊命令」で、シャアがホワイトベースに強襲をかけた際、パオロはルウム戦役でのシャアの戦績を引いて「逃げろ」と指示を出す。
機動戦士ガンダムではルウム戦役については詳しく描かれていないが、シャアが「赤い彗星」として生ける伝説となった戦闘だ。
今回は、連邦の白いモビルスーツとそのパイロットが伝説となった瞬間を描いた回といってよいだろう。
さて、次回は第1話以来、アムロの父親であるテム・レイの再登場である。第1話のラストでサイドに空いた穴から宇宙に放り出されてしまったテムだが、どうにかこうにか生きていたらしい。
母親との再会(第13話「再会、母よ・・・」)はアムロの思春期の葛藤が見事に描かれていた。
アムロは父との再会で何を思うのか。そのあたりに着目してみたい。
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