会社員をしながら演劇をしています①

大学の4年間を演劇サークルで過ごした。このサークルは学生生活の大きな部分を占める。楽しい時間だった。大学院にいた2年間は学園祭の番外企画公演だけ参加してはしゃぎ、「これで演劇はおしまい!」と言って上京してきた。SIer会社に就職し、いわゆる上流SEをやっている。

会社の同期に自己紹介をするのに演劇は役に立った。人は多い会社だが、「私もやっていました」という同期はいなかったし、今は観る専門だよ、と言いつつも「役者(やってた)なんてすごいね」なんて言われると悪い気分はしなかった。
特に興味を持ってくれた数名と連れ立ってたまに芝居を観に行くようになった。社会人になっても、こうやって友人ができていくんだなあと思った記憶がある。その仲間内で次第に「自分たちも演劇をやってみたい」という声が上がるようになり、ある活動を立ち上げる。


演劇ワークショップ

「やってみたい」といっても公演企画を打って上演を目指したり、どこかの公演に参加するのはさすがにハードルが高い。自分も含めてそんなバイタリティはなかった。
友人たちのモチベーションは「演劇を体験したいのだ」というのが第一のようだったので、それならばとワークショップを始めることにした。
大体月に一度のペースで3~4時間程度。会社員が貴重な休日を割いて集まるとなると、これぐらいがちょうどよかった。
古巣のサークルでやっていたメニューをベースにしつつも、まずは「演じることを楽しいと思えること」を目標にした。こういったワークショップは自分にとってもやはり楽しいものだったので、メニューのバリエーションを広げることは意識しつつも、基本的には好きなことをやっていた。

やっていくうちに、なんとなくそれっぽいテーマが固まってくる。「日常のコミュニケーションに自覚的になろう」というもの。これまでの経験の中で、「役者としての練習を積むと、日常における自分や他人の言動・所作の意図やおかしみに気づきやすくなる」というのが実感としてあった。この感覚を養うことは、演劇に携わらない人にとっても決して悪くないことだと思っている。
ただし、なんとなくテーマは掲げつつも、あまりこだわらずにやってきたつもりだ。幸い参加者には楽しんでもらえているようなので、変に凝る必要はないと思っている。上記のテーマは、もし何か持ち帰ってもらえるとしたらこんなアイデアがありますけどどうでしょうか、というぐらいのものだ。逆にハッキリとしたゲイン(知識の獲得やスキルアップなど)を期待されるとなかなかツライ。

むしろ、自分自身にとって学びが大きい。
自分はなるべく司会進行に徹し、他のメンバーに体験してもらうことを心掛けてきた。メンバーに対して「次はこうしてみたらどうだろうか」とフィードバックをかける。あるいはコメントを求める。何が違和感で、解消の糸口は何だと思っているのか、否が応でも言語化が必要になる。有り体に言えば、演出的なスキルが多少なりとも養われたのではないかと思う。演出としての経験がない自分にとって、その「場」の責任を持つという体験は貴重だった。

また、たとえ「作品づくり」をしなくても演劇は楽しいのだと思えるようになった(もちろん、「作品づくり」にはやはり代えがたい楽しみがある)。よく顔を知る友人が見たこともない表情をしたり、聞いたことのないような声を出したりするとゾクッとする。次はこんなセリフを言ってもらおうとか、こういう関係性になってもらおうとか、そういうスケベ心も働くのである。

なんだかんだで、2年間で20回実施している。けっこう、すごいことだと思う。
その後、結局自分が役者としての活動を始めて時間がとりづらくなったり、人がなかなか集まらない回も増えるようになったりして今は休止してしまっているが、近々再開させるつもり。

仕事で海外に行ってしまったメンバーもいる。数年、日本には戻ってこないという。旅立つ前には、「戻ってきたときに(会が)なくなっちゃってるなんてことはやめてよ」と言ってくれた。こんなにありがたい言葉はない。

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