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「本当にアイツは頭がキレるなあ」
「いつも、キレッキレだよな」
そう言われていた同期のAの姿を本社で見なくなって、久しかった。どうやら、長期で休んでいるらしい話は聞いていたが、その理由は知れなかった。

「人事部付」
同期の名簿が更新されて、現配置名がそういう記載なのであれば、必然的に察するしかなかった。やっぱり、メンタルダウンでもしたか。しょうがないのかな、あんなに優秀な奴だっていうのに。

もともと積極的に人付き合いがするたちではなかったが、Aとどこか気があっていたBという同期がいた。そいつとたまたま出張に同行することになったので、なんとなしに話を振ってみた。

「A、どうしてんのかな」
「A?別に、アイツは元気だよ」
「あれ、そうなの。俺はてっきり…」

よくよく話を聞くと、Aは現在長期の育児休暇を取っているらしい。そんな話は初めて聞いた。イクメンといえど、さすがに1年以上の育児休暇は珍しかった。

男性の育休取得は当たり前になってきたとはいえ、最長でも3ヶ月くらいだった。さすがにそれ以上となると、周りにも負担がいく。

「アイツ、取れるだけ育休取ったら、そのまま仕事辞めて、専業主夫になるつもりなんだよ」
「え、マジで?」
「そう。まあ、ぶっちゃけ奥さんの方が稼ぎがいいからな」

そういえばAの奥さんはメガバンク勤務のキャリアウーマンだと聞いたことがある。とはいえ、思い切ったものである。

「稼げる方が稼いだ方が効率的なんだと」
「そうだけど、さすがにもったいなくないか。あれだけ、デキる奴なのに」
「アイツ曰く、単に仕事がデキるからやってるのと、自分でやりたいからやってるっていうのは、大違いなんだと」

「まあ、それはな」
「結局、自分の子供を育てる以上にやりがいのある仕事はない、っていうのがアイツの結論だってことだな。今しかできないってことで」

そう言われると納得する。子供が小さい時に思いっきり親として関われることは、子供の生育にも重要なことだと聞く。Aほど優秀ならば、子供が大きくなったあとでも、何かしらの職にはありつけるだろうと踏んだわけか。

「アイツは、物事の優先順位をつけるのが得意だったからな」
「確かに」

Aしかり、本当にデキる奴は、とっかかりが早い。やる仕事とやらない仕事を瞬時に峻別して、あとはバシッと全力で取り掛かる。Aならそらをやり切るのだろう。妙な納得感を覚えた。

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