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葉山港のこの防波堤まで来た。たぶん10年ぶりだろうか。なにかの機会がないことには、ここまでこない。なにしろ、ここまでくるのにちゃんとした電車もないので、アクセスが悪い。

以前、横須賀に住んでたときに、おろしたてのクロスバイクで2時間かけて葉山まで走って行った。あのときは体力があったんだろう、往復4時間。その時の仕事もクソだった。いったい何を求めていたんだろうか。

そして、この葉山港の防波堤で夕暮れまでずっと光る波間を見つめていた。あの時の自分とあんまり変わっている気分はしない。

今回は奥さんが湘南に別荘のある知人にお呼ばれしたので、葉山までついていった。挨拶だけすませて、そそくさと退出すると海岸線をずっと歩いて行った。俺はただ単に、前と同じようにあの防波堤から海を見つめていたかったからだ。

沖には色鮮やかなウインドサーフィンや一人用セーリングヨットが、まるで熱帯の魚群のようにそこかしこに光る波の上を走っていく。えんじ色のポロシャツで揃えた大学生の集団が道路脇にセーリングヨットを引っ張っていく。

背中にはWASEDAと書いてある。日焼けした肌とこぼれ落ちる玉のような汗が眩しい。そういえば、今日お呼ばれした奥さんの知人夫婦も早稲田大学のヨット部で知り合ったとのことだ。

なぜ、また俺はここにいるのか。以前の俺とどう変わったのか。だけどこの海は変わらない、この光る波間の向こうにあるものも変わらない、10年変わらず、そしてずっと前から。

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