見出し画像

945

「あ」
「どうした?よそ見してる場合じゃないぞ、これ早く仕上げて」
「あの、か、係長」
「どうしたの、ちゃっちゃとデータあげて、あの課長にメールしないと」
「いや、なんか今、向こうからメールがきていて」
「なにー?どうしたのよ」
「その、あっちの課長がお亡くなりになったって」
「え?」
「はい」
「亡くなったって、え、死んだってこと?」
「はい、みたいです」
「だってこの前も怒鳴り込んできて、お前らこの案件早く仕上げろよ、俺だって切羽詰まってるんだって、ガハハってあの豪快な感じで言ってて」
「ええ、そうです」
「死んだって、なんで。」
「土曜日に自宅で倒れられて、そのまま病院に搬送されて、帰らぬ人に…と書いてあります」
「ええ?うわ、マジかあ」
「ですね」
「50くらいだっけ、年」
「ですね、僕の親父のちょっこっと下って感じでしたね」
「そうか、まあ君くらいだったらそれくらいの年齢にはなるわな、いや、でもそうか、それだったら、あの課長に謝るためのこのメールもいらねー、ってことか」
「それどころじゃないすっよね、向こうは」
「だろうな、たいへんだよ、今頃」
「なんとも言えないっすね」
「ああ、そうだなあ。」
「なんか、気抜けったっすね」
「今日はもう帰るか、なんか仕事できるような気分じゃなくなったわ」
「ですね」
「なんだかんだ言って、いい人だったもんな。怒られるときはむっちゃ怖かったけど…」
「わかります」
「いやホント、命より大事な仕事なんて、この世の中にないからね、もう無理だって思ったら、仕事なんかほっぽり出してどっか旅にでも出ればいいのよ、怒られはするけど、命までは取られないんだからさ」
「ですね」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?