妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(⑪拾壱)" 柳生父子を守れ! "
「この柳生但馬守がむざむざと殺されてなるものかあっ!
てやあっ! むんっ! せりゃーっ! ていっ!」
儂は我が身に迫り来る空気のゆがみ(?)の様なモノを
片っ端から斬りまくった
しかし、数が多すぎる!
肩を掠め腿を掠めるそれらが
儂の身体中に傷を負わせていく
「もはやこれまでか…」
儂が諦めかけたその時!
物凄い速さで何者かが駆け寄って来た
そして儂の傍に立つや
抜き放った刀を天空に翳して大声で叫んだ…
「『時雨丸』っ! 水竜巻じゃっ!」
「キシャーッ!」
何という事か!
男の叫び声と共に垂直に翳した刀の切っ先から
凄まじい勢いで水流が迸り出た!
その水流の先端は正しく水で出来た竜の頭であった
水の竜はその勢いのまま儂と男の周りの空中を
まるで二人を守ろうとするかの様に取り巻き
ぐるぐると渦を巻いて回転を始めた
瞬く間に水流の壁が二人の周りを取り囲んだ
「但馬守様! ご無事ですか!」
男は由井 正雪の攻撃により満身創痍となり
地面に膝を付き屈み込んでいる儂の背中に手をかけ
心配そうに声を掛けてきた
「むう… 何とか…な
其方がこの水流の壁を作り出したのか…?」
儂の問いかけにこくりと頷きながらも
心配そうにこちらを見つめている
儂を見つめる眼差しは
まるで見る者全ての心を引き込むかの様な
驚くほどに優しく澄んだものであった
この男は信頼するに値する…
誰に言われた訳でも無く、儂の頭にすぐにそう浮かんだ
「バシャッ! バシュバシュッ! バシュッ!」
おそらく鎌鼬の放った攻撃が
水流の壁に遮られているのであろう…
一つとさえ壁を越えて中まで達するものは無かった
中の儂達二人は完璧に水の壁に防御されていた
「其方… 儂を存じておるようじゃが…」
儂の問いかけに不思議な侍が答える
「拙者は青方龍士郎と申す素浪人…
縁あって御子息の柳生十兵衛殿と沢庵和尚様のお二人に
知己を得ましてございます
それにあの由井正雪とは、因縁の仲にて…」
青方龍士郎と名乗った侍が
由井正雪の方に鋭く厳しい目を向けた
「そうか、其方が『青龍』どのか…
十兵衛から話は聞いておる
不思議な技を使い妖を狩っておるとか…」
儂の問いかけに青方龍士郎は頷いた
「御意でございまする
由井は妖の力を自在に操ります故
たとえ但馬守様であろうと
失礼ながら歯は立ちませぬ
唯一互角に戦えるのは
奴と同じ力を持つ拙者のみでございます」
儂は他にも十兵衛に聞いていた
「しかし、青方どの…
十兵衛から聞いた話では其方と由井の衝突次第で
江戸の町その物が消滅するやも知れぬとか…
それでは幕府も江戸の庶民達も困るのじゃ」
儂は目の前の青方龍士郎の脚に縋り付いても
土下座をしてでも、この妖狩り同士の戦いを
止めねばならなかった
「拙者もそう思うておりました
しかし、このまま由井の思うが儘にしては…」
十兵衛の話では、この男は由井との戦いを
自分から断ったと云う
しかるに、この場において儂一人を救うために
今まさに由井と戦おうとしておる
「儂のために江戸の町を犠牲には出来ぬ…」
********
「むっ!
あれは親父殿の登城用の駕籠…?
和尚! 親父殿の駕籠が!」
俺は馬を早足で走らせながら
後ろに乗る沢庵和尚に大声で呼びかけた
俺は親父殿の警護に付けていた裏柳生からの
狼煙の合図を見た配下の者の報告を受け
後ろに沢庵和尚を乗せた馬を駆って
ここまで走って来たのだ
二人乗りで早駆けをしたため馬が限界だった
俺は馬を乗り捨て沢庵和尚より先に駆け出した
「親父殿… 死ぬな!」
親父殿の駕籠の傍に
バラバラに切り刻まれた人間の肉片が散らばっていた
しかし、もっと俺が驚いたのは
駕籠の置いてある道より少し離れた場所の空中に浮かぶ
大量の水からなる巨大な渦巻だった
水の渦巻が空中に浮かんでおる…
その渦巻は、ある地点を中心にゆっくりと回転していた
まるで何かを取り囲むかのように…
あれは… 妖の技か…?
してみれば、あれは由井 正雪の『妖滅丸』…?
それとも、青方龍士郎の『斬妖丸』…か?
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「青方どのー!
そこに居るのは青方どのかー?」
男の怒鳴る声が水の壁の外より聞こえて参った
あの声は…
「これは倅の十兵衛の声じゃ!」
拙者の足元で満身創痍の但馬守どのが
嬉しそうな呟きを発した
「うぬ… ダメじゃ… 来るな、十兵衛殿…
いかに水竜でも一度に二人を護れは致せぬ」
拙者は焦った…
思いもかけぬ柳生十兵衛の登場であった
父親である但馬守殿は喜んでいるが
今度は十兵衛が由井に狙われよう…
********
「十兵衛えーっ!
のこのこと親父と一緒に殺されに参ったかあっ!
『青龍』の畜生めが貴様の親父殿を守っておる故
貴様から先に血祭に上げてくれるわっ!
某の妖術、喰ろうて見よっ!」
「ズタズタになって死ねい、十兵衛っ!
真空乱れ刃っ!」
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