見出し画像

はじめに|私たちのとうびょうき:死んでいないので生きていかざるをえない|青木志帆・谷田朋美

「とうびょうき」と聞いて、あなたはどのようなものを思い浮かべるだろうか。

子どもが突然がんを宣告され、つらい抗がん剤治療の末に奇跡の回復を遂げる物語だろうか。あるいは働き盛りの男性が、聞いたこともない難病を宣告され、少しずつ運動機能が奪われ、最後に亡くなる物語か。

「とうびょうき」といえば、このように「元気」か「死」かの2択しか用意されない。そうしたわかりやすいストーリーが勇気と感動を与え、より好まれるからだ。

しかし、慢性疾患(※)のある私たちの日常は、そのような結論からは程遠い「グレーゾーン」の中にある。完璧に元気になれるわけでもなく、かといってすぐに死んでしまうわけでもなく、「死んでいないので、生きていかざるをえない」。そして、グレーな私たちは、生活のさまざまな場面で、社会との間で、軋轢を抱えている。理解を求めようにも、何をどう理解してもらったら自分が楽になるのかもわからない。 ライフステージのさまざまな場面で、世間が求める「ちゃんと」ができないことによる自己不全感ともやもやを抱えて生きている。

そんな私たちが「とうびょうき」を書いたらどのようなものになるだろうか。もう「治る」ということが期待できないので、今さら病と闘う「闘病記」もないだろう。では、病から逃げているか、と言われると、まぁそういう側面もないわけではないので「逃病記」かな。慢性疾患のある人たちの生きづらさに光を当てるような「灯病記」になれば、いいなぁ。そもそも、私たちのような「治らない」存在を社会はどのように受け入れることができるのか、「病」を問い直す「問病記」もあり得るかもしれない。

なにはともあれ、「とうびょう」を行ったり来たりしながら、ままならないいのちを生きていくための言葉を二人で紡いでみたいのである。

2023年3月8日 青木志帆・谷田朋美

※慢性疾患:治療をして短期間に治癒が期待できる、風邪やがんなどといった急性疾患に対し、完治は難しく、長期にわたって継続的な通院や服薬を必要とする病気のこと。たとえば、治療法が確立していない稀少な病気である難病や、人工透析を必要とする病気、重症の更年期障害、偏頭痛など、さまざまな病気が含まれうる。

青木志帆(あおき・しほ)……弁護士/社会福祉士。2009年弁護士登録。2015年に明石市役所に入庁し、障害者配慮条例などの障害者施策に関わる。著書に『相談支援の処「法」箋―福祉と法の連携でひらく10のケース―』(現代書館、2021年)。共著に日本組織内弁護士協会監修『Q&Aでわかる業種別法務 自治体』(中央経済社、2019年)など。

谷田朋美(たにだ・ともみ)……新聞記者。1981年生まれ。15歳の頃より、頭痛や倦怠感、めまい、呼吸困難感などの症状が24時間365日続いている。2005年、新聞社入社。主に難病や障害をテーマに記事を執筆してきた。ヨガ歴20年で、恐竜と漫画が大好き。近年は「東京卍リベンジャーズ」に沼落ちした。立命館大学生存学研究所客員研究員。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?