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思ったこと、考えたこと。

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日常のなかで思ったこと、考えたことなどを、綴っていこうと思います。
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記事一覧

大丈夫。僕たちには、まだ言葉がある

拙編著『つながる読書 ──10代に推したいこの一冊』(ちくまプリマー新書)に寄稿していただいた、詩人・草野理恵子さんのエッセイをわけあって読み返す。 「どこにでも落ちているいいものはなーんだ?」 ぽろぽろ落涙する。 草野さんの綴る言葉は、詩でもエッセイでも、言葉というものへの信頼を、きっと回復させてくれる。「大丈夫。僕たちには、まだ言葉がある」と思わせてくれる。 『つながる読書』、本当に良い本に仕上がったと、あらためて思う。 全国の中学生高校生に読んでほしい。小学生

「ハンセン病文学」と私 〜大江満雄編『詩集 いのちの芽』(岩波文庫)刊行を祝して〜

 まず初めに、「幻の詩集」とも言われた『いのちの芽』の岩波文庫での復刊にご尽力なさった、国立ハンセン病資料館の木村哲也氏、岩波書店の皆様に、心より、お祝いと感謝の言葉をお届けしたい。 志樹逸馬との出会い 恥ずかしながら、私が「ハンセン病文学」と出会ったのは、つい数年前のことだった。そのころはまだTwitterのアカウントを持っていて、いつものようにだらだらとタイムラインをスクロールしていたら、誰かがリツイートした、石井正則氏のツイートにふと目がとまったのだった。いや、正確に

ゲス騎士と文学

 ものは試しと、「貴族の令嬢が騎士と恋に落ち、あれこれあるも幸せに結婚する」というベタベタ展開のマンガを読んでみた。  この「あれこれ」におおいに絡んでくる登場人物に、二人の恋路の邪魔をするゲス騎士がいる。  ゲス騎士。  この、「あらゆる方位から残念なキャラで、ただひたすらに父親の権威を笠に着て威張り散らす、無論、騎士としての能力も人望も皆無」なゲス騎士は、嗚呼、ヒロインの令嬢を好いている。あの手この手の謀略を尽くし、愛しの君を我がものにしようと悪手に悪手を重ねるのだ

命は軽くとも

先日、都内の中高一貫校で、生徒の皆さんとお話しさせてもらう機会を頂戴した。議題は、読書についてだった。 私は、こんなことを話した。 他にもあれこれと話したが、どうやらこの話が、子どもたちの胸にはいちばん響いたらしい。感想を寄越してくれた子の多くが、この話に言及していた。 私も、書いていこうと思う。 この子たちへと、もっときちんとバトンを渡せるように。

【本の紹介】高井ゆと里編『トランスジェンダーと性別変更』(岩波書店)

 岩波書店から刊行された、高井ゆと里編『トランスジェンダーと性別変更』は、編者合わせて5人の執筆陣から成る一冊です。「岩波ブックレット」シリーズゆえ、80ページほどの分量で活字も大きく、専門性の高い内容については、著者たちがわかりやすく解きほぐしながら解説してくれます。高校生くらいから、十分に読める難易度かと思います。  読了後、私の胸には、さまざまな思いや記憶が去来しています。それらをまだうまく言葉にまとめることはできないのですが、いま、このときに私の思うところを、sta

【国語トーク】大人のためのジュニア向けレーベル!

【国語トーク】「読んだ本の内容を忘れちゃうんです…」

国語とか現代文とかを教えていると、しばしば、こんな質問や相談を受けることがあります。すなわち、 だなんて。そしてそうした質問や相談に対する私の第一声は、 おお、なるほどなるほど。実は私も! です。 というわけで、今回の【国語トーク】、お題は「読んだ本の内容を忘れちゃうんです…」。どうぞお聴きください!↓↓↓ 【自著の宣伝】 『無敵の現代文』(かんき出版) どうしても読んだ本の内容を覚えておかねばならないときは、やはり[要約]が効きます。学参ですが、広く大人の皆様に

【国語トーク】複数テクスト問題について思うこと

もはや、なし崩し的に世の中に受け入れられた感すらある現代文の[複数テクスト問題]について、私はやはり、懸念を抱いています。これまでもあちらこちらで発言してきたことですが、出題の仕方によっては、"思考力"なるものとは対極的な方向へ行ってしまうのではないか、と。 【自著の宣伝】 『14歳からの文章術』(笠間書院) 伝わる文章を、いかに構成するか──というテーマについて、豊富な具体例や対話などを通じて楽しく学べる一冊です!

【国語トーク】「おすすめの詩や詩人を教えてください!」と言われたら?

国語や現代文の授業で、「詩、読もうぜ!」みたいな話をすると、「どんな詩がオススメですか?」とか、「読んだほうがいい詩人を教えてください」みたいな質問を受けることがあります。 嬉しい。 とても嬉しい。 とても嬉しい……のですが、私、こうした質問に答えるのがめちゃくちゃ苦手なんです。なぜって、 詩ほど、個々人で好き嫌い、わかるわからないが別れる文章もなかなかにない! と思うゆえ……。 というわけで、stand.fm[ちゃんねるヨージ]【国語トーク】の第2弾は、「『おす

【国語トーク】国語と文体について。

 先日、threadsでこんなことをつぶやきました。 https://www.threads.net/@koike_yoji/post/C2Wdu20PkBg/?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA==  どうしてこんなことを考えたか……と言うと、そのきっかけは、伊波敏男『ハンセン病を生きて』(岩波ジュニア新書)を読んだことです。  なぜこの一冊を読んで「国語」と「文体」というものについて考えたか。ご興味を感じられた方は、以下の放送をお聴きいただければと思います。

「うみかじ」1号を読んで

 それにしても、誰か──しかも、会ったこともない、顔を見たことすらない人の「日記」を読むとは、いったいどういうことなのか。  書く人も、印刷物にそれを載せる以上、読み手の存在を意識していることは間違いない。  とはいえ「日記」が「日記」である以上、そこに刻まれる言葉は極めてプライベートなものであり────などと考えながら「うみの辺野古日記。」(「うみかじ」1号に所収)に目を通しているうちに、ふと、目にとまる一節に出会った。  日付には、10 月29日(土)とある。  

2023年に出版した自著

2023年に出版した自著は、以下の3冊になります。 『現代評論キーワード講義』(三省堂) 受験参考書です。現代評論を読み解くうえで重要な100のキーワードについて、それぞれ見開き両ページで解説しています。何より、読み物としての"面白さ"あるいは"読み応え"にこだわりました。また、200冊を超えるブックガイド、それにミニ辞書なども掲載。高校生や受験生が、受験勉強を通じて知的好奇心や社会の未来への関心を高められることを企図しています。そして……願わくは、高校生、受験生のみなら

さ…る…と…か…に…

初めて一人で読めるようになった絵本は、『さるとかに』だった。もちろん音読だったが、よほど嬉しかったのか、幼い私は、 などと、一字一字を拾い上げながら声に出し、親や、親戚や、来客に"読み聞かせ"をしたものだ。 親も、親戚も、来客も、「すごい、すごい」「ご本を読めてえらいねぇ!」と褒めてくれた。 黙読、ということを意識したのは、小学校一年生のときだ。家に遊びに来ていた同級生が、古田足日の『大きい1年生と小さな2年生』を、声を出さずに読み耽っていた。それを見た私の親が、一緒に

「あはれ」について

中学生のとき、抜き打ちの「古文単語テスト」が実施されたことを覚えている。 無論、まったく対策などしていなかった。 だが、さすがに0点は取りたくない。 さはれ──などという古語はもちろん知らなかったが──と心を固めた私は、とある作戦を決行した。 そういえば、古文の授業でやたら「趣き深い」という言葉を耳にした記憶があったのだ。 ならば「趣き深い」──と言われても当時の私には、この現代語自体の意味がよくつかめなく、いわばシニフィエなきシニフィアンとして脳裏に漂う音にすぎな