アニメ「バビロン」感想

こんばんは。
久しぶりにシゲキックスというお菓子を食べました。
私はこれが好きでねえ…やめられなくなりますね。
ではレビュー書きます。
ネタバレを含みます。

アニメ『バビロン』

★★★★☆

小説が原作だと思われる本作。
あらすじは「日本に作られた、新法の実験的施行を目的とした行政特区で、自殺を認める法律が作られて騒動になる」みたいな話です。
「生きることは善いことなのか?」というのがテーマになっているということで、アニメとしてはなかなか攻めた内容だと思います。
実写の映画とかだとありそうな話ではありますが、けっこう力業な展開も多く、その辺がアニメだからこそできるところかもしれないなと思いました。
媒体として実写には実写の、アニメにはアニメのいいところや得意なジャンルがある中で、本作は隙間をついてる気がします。
同じことは漫画や小説にも言えますが、それぞれに得意な表現があって、それを適才適所でやるのも王道だけど、ちょっとニュアンスを輸入したりするのも面白いものですよね。

本作では件の行政特区『新域』の初代域長となった男が、その治外法権的な域長特権とすげえ政治的手腕をもって、「自殺法案」をぶったて、それを発表する際に実際にいきなり人がなくなる様が放送されるので、これはいかんだろということで主人公の刑事が彼を何とか逮捕できんのかと奔走することになります。
関係ないけど「新域域長(しんいきいきちょう)」ってなんかいきいきしてますよね。
この主人公が「正崎善」といういかにも正義っぽい名前なので、おそらく本作における「正義」を象徴するキャラクターなんだろうなと思います。
こういう手法は作品の見方がわかりやすくて、個人的には良いと思います。
つまり「生きることはいいことなのか?自殺を認める―もとい推奨さえするような法、社会の在り方は善か悪か?」という命題に対し、正義の象徴たる主人公が最終的にどういうジャッジを下すか、拒否するのか、認めるのかで、どちらが正義だとこの作品では結論づけるのかが表現されるということです。こりゃあわかりやすくていいシステムだ。
とはいえ通常多くの作品で名前にかかわらず主人公がこの役を担っていると思うのですが、それをさらにわかりやすく、強調する表現ということですね。

が、このシステムは本作ではあまり機能していなかったような気が個人的にはいたします。
というのも「なにが正義かはわからんが、正義とはなにか考え続けることこそが正義なんじゃん?」的な、一理あるけど一般論にとどまり、本作の命題へのダイレクトな返答にはなっていない感じの回答がかなり序盤にされてしまい、その後は殺された仲間の復讐のためという動機で行動しているので、その先に思考が進んでいないように思えたからです。
いやしかし、「生きることはいいこと?」というのは作品紹介文にかかれていたことであって、作中で言っていたかは忘れたので、もしかしたらそんなことは最初から問題にされていなくて、私の言ったことはすべて的外れな可能性もありますが。

そして先述の殺された仲間なのですが、殺された手法というのが問題で、
なんと「耳元でなんかささやかれただけ」なのです。
この辺が力業だなあと思った所以なのですが、自殺法案をぶち上げた域長には、手駒として「めちゃくちゃエロい女性」という設定の女性がおり、
この女性はあまりにもエロすぎるからという理由で、耳元でささやくだけですべての人間を意のままに操ることができるのです。
ちょっと何言ってるかわからないかもしれませんが、ほんとにそんな感じなんです。信じてください。
これにより域長は、邪魔になる人間を消したりなんだり、やりたい放題なのです。
彼女に仲間が殺されたことにより、主人公も域長とか自殺法案とかより、彼女に復讐することにとらわれていくようになります。
このバランスブレイカーの出現により、ちょっと当初思っていたのとは違う話になってくるので、観ていた人は肩透かしを食らう可能性があります。
少なくとも、彼女の存在は「生きることは本当にいいことなのか?」という命題とは関係なさそうなので、ストーリーラインとしてはきれいとはいえないかもしれません。この法案を実現するために必要だから登場させたキャラクターだったが、書いていて楽しくなっちゃったとか、書いていた成り行きで存在が思ったより大きくなってしまったとかそういう感じなのでしょうか。
とはいえ個人的には本作視聴時には見るのやめよとかは思わなかったので、こういうハプニング感のあるストーリー回しというのも小さくまとまってなくて、これはこれでまあ楽しめなくもない…かもしれません。先の展開は想像できないですからねこうなってくると。

そして後半は日本を飛び出して、世界にこの「自殺法案」の波は波及していくのですが、ここも個人的には評価したい所です。
海外にまで話を広げるのは大変なので敬遠したくなるところですが、ちゃんとやってて偉い。
さらに本作では、アメリカ大統領がメインキャラクターとして出てきて、首脳会議とかまで書いちゃうのですごいです。
知らないけど首脳会議って絶対こんな感じじゃないだろとか思いますけど、実際のところは知らないので物語として楽しむことは可能。
大統領とかも、大体口元までしか書かないパターンか、実在の大統領のパロディキャラにしとくのが定石ですが、本作ではオリジナルキャラクターとしてその生い立ちから描くのですごいです。
お話に必要とあらば敬遠せずになんでも書いてしまおうというこの気概は大いに評価していきたいものです。
キャラクターとしても好感が持てて個人的には嫌いじゃないです。

が、この大統領が最後に出す結論、先述の「生きることはいいこと?」から転じて「善いこととはなにか?」という質問に対し出す答えについて、ここがおそらく観た人の中では議論を呼ぶところだと思うのですが、
主人公の持論「正義とは何か考え続けることが正義」というのを下敷きにした上で、まあなんだかんだで、「『続くこと』というのが良いことなのだ」という結論彼は出します。
まあよって生き続けた方が良いという含みなんですが、
主人公もこれを最後に採用し引用するので、本作の結論としてはこれということなのでしょう。

しかしこれは…揚げ足をとるようですが、そもそも宇宙に生命は存在しなかったわけで、その状態を続けた方が良かったのかとか、熱的死が最善なのかとか、例えばいじめがあったらそれが続くのは明らかによくないとか、うーむちょっと納得しかねる部分は多いように思います。
恐らく、主人公の目的が復讐となり、テーマから外れてしまったものの、「考え続けるのが正義」という言は再利用しつつ、かつ「生きるのはやっぱりいいことだ」という結論につなげたかったために主役級の新キャラ、大統領を立ててのこういう発言になったのではないかと推測するのですが、ちょっと結論ありきの締めな感はいなめません。

しかしながら、漫画においては「プロは一番つまらない回を最終回に持ってくる」なんていうとおり、最後の結論が多少納得いかないものであってももう放映は終わりで、そこから視聴率が下がるなんてこともないので特に問題はないのかもしれません。
いやもちろん円盤の売上とかもあるからノーダメではないでしょうし、さいごまで完璧なものが作れたらそれに越したことはないのですが、人はみな配られたカードで勝負するしかないので、そういう意味で個人的にはここまでよく書ききったなという点を評価したいです。

むしろ結論が納得感が薄いおかげで、個人的には自分で考えることができた感もあります。
続くことはいいこと…というのは暴論にしても、確かに「いいこと」というのはなんだろうなァ…生きるのはいいことで死ぬのは悪いとされているけどそれはなぜかなあ…と。

こういう思考を投げかけてくれたという点においても、本作は個人的に有意義だったかなと思います。

ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?