見出し画像

「速く・上手く」原稿を書くために必要なこと。

先輩編集者の「5つの教え」

 文章を書くことを仕事にしている人にとって、大切なスキルのひとつが「速く書く」ことだ。じっくり時間をかけて大作を書き上げる仕事にも、もちろん意義はあるが、僕も含む「組織ライター」にとって、そういう仕事は稀である。というか、ほとんどない。なぜならば、大抵の書き仕事の場合、僕ら自身のクリエイティビティなど求められていないからだ。

 当たり前だが、創作性よりも、締め切りや納期のほうが優先だ。その他の仕事も山積しているし。さらに言えば、土日はちゃんと休みたい。

 だから、僕たちは限られた時間で、それなりの原稿を仕上げなければならない。

 とはいえ、僕らの会社の編集者がみんな「速く・上手く」原稿を仕上げられるというわけではない。むしろ、ほとんどの人が遅い(気がする)。「書けなくなると、何週間も放置する」という編集者がいたが、皆、そんなもんである。

 ところが、例外的に「速く・上手く」原稿が書ける人が、わが「文藝春秋」編集部にいる。今戸さんという。現在、35歳。現場の編集者のキャップ的立ち位置で、毎月、政治・経済などいわゆる“右トップ記事”(※)を担当する文字通りのエースだ。

(※)電車の中吊り広告で一番右側にある記事。その号でいちばんウリになる記事でもある。例えば、今戸さんは最近、以下の記事を担当した。

 そういえば、以前、こんなことがあった。

「文藝春秋」の校了作業(原稿を印刷所に送る前に完成させる作業)は、2日間にわたって行われる。その1日目に、今戸さんが忙しそうに出かけて行った。政治家の取材だという。「大変そうだな」と思いつつも、「自分には関係ないや」とその日は帰宅したが、翌日に出社してみると、もう昨日の取材がゲラになっていた。

 訳が分からない。「文藝春秋」の記事は、長いもので1万字くらいある。あまりに速すぎる。これだけではない。今戸さんはいつも書くのが速い。一体どうやっているのだろうか。本人に聞いてみた。


【ポイント1】原稿の流れの「型」から入る

――今戸さんは原稿が書くのが速くて上手いですが、その秘訣を教えてください。

特に速くもなければ、上手くもない(笑)。仮に速いとするなら、第1の理由としては、そもそも仕事を積み残したまま休みに入りたくないから。あと、週刊文春の記者だった時が長く、いつ新たな呼び出しを食らうか分からないので、いいか悪いか、目の前の仕事は速く終わらせる癖がついています。

第2には、その週刊文春の記者だった時、毎週のように月曜夜から火曜朝にかけて6000字とか8000字の原稿を書いていたから、かなーと。「速く書く」っていうのは、経験値みたいなもんとちゃうやろか。


――……すいません。それじゃ僕ら後輩にはまったく参考になりませんので、もう少し突っ込んで聞きますね(笑)。速く書くコツみたいなものってありますか?

原稿の流れの「型」から入ることでは。よほどの美文、名文、鮮やかな構成を目指さない限り、僕らが使える文章の「型」は限られているから。村井後藤が話していた「構成」の話と同じで。まずは「型」ありきで、それに合わせて書いていく。ちなみに僕は、村井と後藤がやっている構成イメージの、中間くらいの分量(笑)で、簡単な構成を紙に書き出してるけど。

「速く書く」で、思い出すのは、2018年11月にカルロス・ゴーンが東京地検特捜部に逮捕された時のこと。当時は、週刊文春の編集部にいたんやけど、たしか第一報が入ったのが、火曜の17時過ぎやった。火曜は、週刊誌の校了日。その日のうちに取材をして書かなあかんかったから、原稿の構成に凝っている時間などない。

ただ、週刊誌の記事の「型」ってあるから、大まかな構成はすぐに決めた。ゴーンについては事前に色々調べていたこともあって、結局、4時間で4000字の記事を書いた。あれは「型ありき」やないとできへんかったと思う。


【ポイント2】人物モノは「情熱大陸」理論で

――やはり、今戸さんも書く前に記事の構成は作っているんですね。

作ります。週刊誌であれば、

①冒頭を印象的なエピソード・場面にして、
②次にそのテーマを巡る状況を説明し、
③「ところが」「実は」で話を転換させ、
④新事実を提示し、
⑤当事者の反応を描き、
⑥それが示す社会的な意味を最後に提示する

を整理できていれば、それなりの文章になるのでは。これに取材の内容を当てはめていく。事件などの“取材モノ”だけでなく、「人物」を描く場合もたいていは同じです。

さらに言えば、これは活字の記事に限ったことじゃない。たとえば、「情熱大陸」なんかも、かなりオーソドックスな構成で作られている気がする。

①「今」の話があり、
②その人の置かれた近況を紹介し、
③幼少期に遡り、
④「今」につながるエピソードに触れ、
⑤再び「最新」の話に戻る

雑誌やウェブの記事で「人物」を描く場合だって、この書き方をしていれば、かなり速く、ある程度の完成度の原稿が書ける、たぶん。


――おお、凄くわかりやすい。「情熱大陸」理論ですね。

テレビが好きなだけやで(笑)。でも一方で、僕は、文章を書くことにおいて大して才能もないので、「型」みたいなところからなかなか抜け出せない。だからこそ、なんやけど、この「型」を超える筆力の文章に出会えると、グググーッと引き込まれてしまいます。


――そこに、僕ら編集者ではない作家やライターが書いた、創造性あふれる文章の必要性があるわけですね。でも今回は、組織ライターがいかに速く書くか、ということをテーマにしているので、まずは「型」ありきだと、非常に効果がある、というわけですね。

そうやろうなぁ。


――他に、心がけていることは何かありますか?

せやなぁ……記事を書くよりも先に「タイトルを作ること」とか。


――ん……? もう少し詳しくお願いします。

雑誌の場合は、最終的にタイトルを決めるのは編集長。特に週刊誌の場合、タイトルが決まってから原稿を書く場合がほとんどです。でも、その前に、自分の中で「こんなタイトルはどうか」「これは小見出しになるな」というのを考えてみる。

なぜなら、タイトルにとられる話は、その原稿の中で「いちばん面白い話」やろ、基本的には。自分の考えていたタイトルと、編集長の決めたタイトルがズレる場合も多々あるけど、そこは、より読者に近い視点とも言える編集長の決めたタイトルを信頼して書いてみる。その「いちばん面白い話」が強調されるように見えるように構成を作れば、面白い原稿になるんとちゃうかな。

というわけで、ウェブ媒体で何か書く場合も、原稿を書くより先に、「いちばん面白い話」はどこか、を意識して、自分でタイトルを決めてみてはどうでしょうか。タイトルに合わせて書くことで、原稿はよりキャッチーに、より速く書ける、とは思います。


【ポイント3】取材時に「+α」を聞いておく

――なるほど! タイトルから逆算して「面白い話」を意識するわけですね。

ただ、そのためには、大前提として、取材のときに必ず「新しいこと」「ニュースになりそうなこと」「相手が自分からはあえて話さないようなこと」を、きちんと聞かないとダメだと思っています。

僕らのインタビューの対象になる人は、Twitterなど、少なからず自分でも発信している人が多い。でも、それと同じになってしまってはわざわざインタビューする意味がないやろうし。

だから必ず「+α」を聞き出すようにしている。それがタイトルに取られたりもする。そもそも、大物であればあるほど、「+α」を聞かれても、「おー、それはなぁ……」と想像以上の答えをしてくれることが多い。文藝春秋の編集者はみんな同じような経験しているのでは。


――忘れがちだけど、基本中の基本ですね。書く以前に、取材が大切。

それと、誰かにインタビューするときは、その人ならではの面白い表現にチェックを入れるようにする。独特の言い回しとか、しゃべり方のクセとか。昔は、というか、今も、そういうところを丸めると、原稿を直されます。あと、取材相手が「例えば・・・」と切り出した話を端折らない、とか。

それから、せっかくインタビューや対談をしているのだから、原稿にするときも、臨場感を大事にしたい。本題とは関係ない雑談であったり、ちょっと躊躇いがちに切り出す様だったり、そういう要素はしっかり入れ込みたい。

その点、月刊「文藝春秋」の場合、うまくまとまっているけれど、スラスラ読めすぎて、話している人の顔が浮かんでこない記事が時にあるような気がする(笑)。他人のこと、言えないけど。


【ポイント4】数字を出す時は「必ず比較」

――僕はそれをよく言われるんですよね……(涙)。

それはまとめるのが上手いからでは。

あと、これは「速く書く」とは別の話になっちゃうけど、原稿に数字を出す時は、必ず比較するようにしています。例えば、「5万個」とか「0・5秒縮めた」とか「500人到達」とか、数字だけ出しても普通の読者には凄さが分からない。

でも、「平均は3万個のところ、5万個だった」とか「●●選手でも0・5秒縮めるのに5年もかかった」とか、「昨年は350人だったけど今年は500人に到達した」とか、とにかく誰でも知っていることと比較して、「凄さ」を見せる。そのためには、「調べもの」を疎かにしないこと。取材して、調べて、素材を集めてから、書く、という感じ。


――文章的な技術としては、どうでしょう?

雑誌記事の場合、一文は短めにするほうが読みやすい。一文の読点はできれば2つ、多くて3つ以内くらいに収めるようにしている。盛り上げどころは必ず「改行」を入れて、しかも、そこの一文は他より短くしている。そうすると盛り上がりが伝わる表現になるのでは。

あとは、編集長やデスクに「赤字」で直された原稿を取っておいて、時々見返すようにしています。自分の悪い癖が見えてくるから。時に「おいおい、それは違うやろ」と思う直しもあるけど、総じて第三者(編集者)の目が入ったほうが文章は良くなる、というか、圧倒的に分かりやすくなると思います。他者に読んでもらう、という作業は必須かと。


【ポイント5】「いつ」を意識して「なぜ」を描き切れ

――今戸さんは、週刊誌時代はデスクもやっていました。どんな文章が「いい」と思える文章ですか?

「おいおい、それは違うやろ」と思われていたかもしれませんが、5W1Hが盛り込まれている文章です。いろんな人の文章を見ていると、意外にも「いつ」が盛り込まれてない文章は多い。「そのうちに・・・できるようになった」とか書いている人は結構多かった。これだと、ボヤっとしていて分かりにくい。

でも、「いつ」がはっきりしているだけで、その時置かれた状況、そこからの変化とか、一気にエピソードが物語性を帯びてくる。「いつ」をちゃんと意識していれば、「なぜ、その時に、そういう変化が起きたのか」という「なぜ(動機)」の部分も、しっかり描き切れると思う。「なぜ」がボヤっとしていると、これまた読んでいて消化不良なので。どやろ?


――なんか今回は、マジな感じのすごい文章論を聞いた気がします……。

それは言い過ぎちゃうか(笑)。


――最後に聞いておきますね。文章書くのは昔から好きですか?

小学生の頃は好きだったような記憶もあるけど、それ以降は別に好きというわけではなかった。

逆に言えば、特にこだわりがなかったから、白紙の状態のまま「この書き方やと面白く分かりやすく伝わる」ということを、少しずつ体得しつつあるのでは、と思っています。

 今戸さんは今回、かなり実践的な話をしてくれた。すぐにでも使えるスキルが多いと思う。そういえば、約10年前、僕が新入社員で週刊誌の編集部に配属された時、初めて一緒に組んだ先輩が今戸さんだった。当時、文章の書き方は一切教えてくれなかったが、このタイミングでようやく教えてもらえて感無量である。

◆◆◆

 村井は、Twitter @MuraiGen1988  でも情報発信しています。よろしければ、フォローをお願いします。

◆◆◆

 僕らが作っている「文藝春秋digital」の記事は、こちらから読めます。月額900円で「文藝春秋」の特集記事が読み放題。よろしければ、ぜひ覗いてみてください。

この記事が参加している募集

noteのつづけ方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?