ニカラグア海岸から200海里以遠のニカラグアとコロンビアの間の大陸棚境界画定問題本案判決(ニカラグア対コロンビア、2023年7月13日)メモ

Ⅰ 事案の概要

ニカラグアは、ボゴタ条約31条を管轄権の基礎としてコロンビアとの紛争をICJに付託し、以下の2点について判断を求めました。
〇第1:
2012年11月19日ICJ判決で決定された境界線を超えた部分で、ニカラグアとコロンビアのそれぞれに属する大陸棚区域における、両国間の精確な海洋境界線
〇第2:
ニカラグア沿岸から200海里以遠の両国の海洋境界が画定するまでの間に、主張が重複している大陸棚区域、およびその資源利用に関する両国の権利義務を決定する国際法の原則及び規則

なお、2016年の先決的抗弁判決では、コロンビアが①管轄権の基礎、および②請求の受理可能性などを訴え、第2請求については「仮想的な状況へ適用される法を決定するのは裁判所の役割ではな」く、裁判所の機能は「法を宣言することだが、裁判所が判決を言い渡すのは、最低の際に両当事国の間で法的利益の衝突を含む実際的な論争が存在するような具体的事件に関連するときである」として、コロンビアの請求を認めました(先決的抗弁判決、para.123)。
(なお、先決的抗弁判決においては2012年判決の既判力なども問われ、論点盛りだくさんのようです。玉田大「ニカラグア沿岸から200海里以遠のニカラグアとコロンビアの大陸棚境界画定事件 先決的抗弁判決」『神戸法學雜誌』66巻2号、163-186頁に判例の解説があります。)

Ⅱ 判決の要旨

以上を受けてICJは2022年10月4日の命令で、まず以下の第1、第2の問題に取り組むことを決定しました。
①第1:慣例国際法のもとで、基線から200海里以遠の大陸棚に対する国の権限は、他国の基線から200海里以内にまで及ぶことができるか。
②第2:基線から200海里以遠の大陸棚の限界を決定する慣習国際法上の基準は何であり、またこの点について、国連海洋法条約76条2〜6項は慣習国際法を反映しているか。(para. 14)
その上で、③ニカラグアの要求1〜3を検討しています。

①【第1の問題】

裁判所は第1の問題を、さらにAからCの3つのセクションに分けて論じています。

A 第1の問題の予備的な問題
 ニカラグアは主張が重複する部分について裁定すべきだといい、他方でコロンビアはまずは権原の立証をすべきだといいます。
 裁判所は、あらゆる境界画定において、権原が存在するかどうか、および権限がが重複しているかどうかを判断する、という段階が不可欠であるとして(para.42)、ニカラグアの請求を審理する前に、「慣例国際法のもとで、基線から200海里以遠の大陸棚に対する国の権限は、他国の基線から200海里以内にまで及ぶことができるか」という予備的な性質の問題に対処する必要があると言います。
 コロンビアはUNCLOSの締約国でないために、適用される慣習国際法の同定が必要であると判断しました(paras.43-45)。

B 問題となっている海域に適用される国際慣習法
 裁判所は、慣習国際法は実際の慣行と法的信念に基づいて同定されることを確認し、またUNCLOSが慣習法の結晶化に寄与したと評価しました(paras.46-47)。
 とりわけ、排他的経済水域における権利義務を定めるUNCLOSの56条、および76条のもとでの大陸棚の定義が慣習法の一部であることも確認しました(para.52)。

C 慣例国際法のもとで、基線から200海里以遠の大陸棚に対する国の権限は、他国の基線から200海里以内にまで及ぶことができるか
 ニカラグアとコロンビアの主張を受けて、裁判所は、かつて判決において、UNCLOS56条、58条、61条、62条、73条に規定された排他的経済水域における沿岸国および他国の権利および義務は、慣習国際法を反映しているものと判断したことを想起します(para. 69)。
 para49では排他的経済水域の制度と大陸棚の制度が相互に関連するものであると確認しており、1985年判決でも述べられたように、「排他的経済水域のない大陸棚は存在しうるが、対応する大陸棚のない排他的経済水域は存在しえない」といいます(para.70)。
 大陸棚の制度については、82条第1項が「領海の幅が測定される基線から200海里を超える大陸棚の非生物資源」の開発に関して、国際海底機構を通じて金銭による支払又は現物による拠出を行うと定めており、これは大陸棚が他国の基線より200海里以内に至っている状況では目的を果たしません。
 またUNCLOS の起草過程において、ある国の延長大陸棚が他国の基線から 200 海里以内に及ぶ可能性については議論されておりませんでした(para.76)。
 裁判所は、実行上、大陸棚限界委員会に提出した大多数の締約国が、他国の基線から200海里以内の延長大陸棚を主張しないことにも留意しています。当裁判所は、当委員会での各国の慣行は、たとえそのような慣行が部分的には法的信念以外の考慮によって動機づけられていたとしても、法的信念を示すものであると考えるといいます。さらに裁判所は、他国の200海里以内の海域に及ぶ陸棚の権原を主張した国はごく少数であり、それがなされた場合には、関係国が異議を申し立てていることをも認識しました。条約の締約国でない少数の沿岸国の中で、他国の基線から200海里以内に至る大陸棚の権原を主張した国はないように思われ、国際慣習法を同定する目的においては、各国の慣行は十分に広範で統一的だと考えられます。
 加えて、長期に及ぶこのような国家の慣行は、法的信念の表現であるとみなすことができると評価しました(para.77)。
 以上から、慣例国際法のもとで、基線から200海里以遠の大陸棚に対する国の権限は、他国の基線から200海里以内にまでは及ばないと結論づけました(para.79)。

②【第2の問題】

 第2の問題は、「領海の幅が測定される基線から200海里を超える大陸棚の限界を決定するための慣習国際法上の基準は何か。また、この点に関して、国際連合海洋法条約第76条第2項から第6項は慣習国際法を反映しているか。」というものです。

 裁判所は、同じ海域で権利が重複していない場合には、海洋境界画定に進むことはできない(para.42参照)から、裁判所が第2の問題を扱う必要はないといいました(para.82)。

③ニカラグアの請求

 以上の結論に基づいて、ニカラグアの主張を検討します。

A ニカラグアによって提出された第1の請求に含まれる要求
 ニカラグアは、自国基線から200海里以遠であり、コロンビアの基線から200海里以内の領域における、ニカラグアとコロンビアの大陸棚境界の座標を提案しました。
 しかし裁判所は、「国は、200海里以遠の大陸棚が、他国の200海里以内にまで及ぶ権原を有さない」と言う先の結論より、本要求を退けました(paras.85-87)。

B ニカラグアによって提出された第2の請求に含まれる要求
 ニカラグアは、自国の延長大陸棚の権原が、コロンビアのサン・アンドレス島およびプロビデンシア島の基線から200海里以内の大陸棚権原と重複する大陸棚の領域を画定するための座標を提案しました。
 裁判所は2012年判決において両国がこれらの島々が領海、排他的経済水域、大陸棚の権原を有することで合意したことを確認します。
 そのうえで、第1の問題で得られた裁判所の結論により、ニカラグアはサン・アンドレス島とプロビデンシア島の基線から200海里以内の領域において大陸棚延長の権利を有しないことが確認されます。したがって、この領域には本件で画定されるべき権利が重複する領域が存在しないと判断されました(paras. 88-92)。

C ニカラグアによって提出された第3の請求に含まれる要求

 ニカラグアは、セレニャ礁、バホ・ヌエボ礁、セレナ礁の海洋権益の問題を提起しています。
 裁判所は、これらが2012年判決でコロンビアがこれらに主権を有することが確認されたことを想起しました。
 そのうえで、これらは潜在的には、海洋権原を有する可能性と有さない可能性の双方があるとしつつ、たとえ200海里の海洋権原があるとしても、裁定すべきニカラグアとの権原の重複はないと判断し、ニカラグアの要求を退けました(paras. 93-102)。

以上のように、
第1、第2の請求が13対4の投票で、
第3の請求が12対5で、
それぞれ棄却されました。

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特に慣習国際法の同定方法、とりわけ法的信念の評価方法については、興味がある方も多いのではないかと思います。

誤訳などのご指摘、お待ちしております。

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