「ジョーカー」の感想。

面白かった。しかし続編はつくらないでほしい。一言でいうとそんな感じ。


※これ以降若干のネタバレ有りです。未見の人はご注意⇩


貧困にあえぎ、精神疾患があり、母親も病弱で、夢はあるが才能がなく、運やツキにも縁がない、物語開始時点で四方八方に追い詰められた主人公が、2時間の尺の中で、一層ぎゅうぎゅうに追い詰められていくつらみの深い映画。

序盤からとにかく不憫と不幸の畳み掛けなので平静に見続けることが難しく、鑑賞中何度も口元に手をあてたり、首が傾いていったり、挙動のバグが多々発生した。だいぶ不審者だったと思う。

一見リアリティ重視のヒューマンドラマ的な映画だけれど、ちゃんとバットマンもしていて、最終的にビギンズを彷彿とさせる、バットマン誕生に至る流れへとしっかり繋がる。
特に中盤以降で明らかとなる、本作ならではのバットマンとジョーカーの因縁は非常に新鮮。
劇中では否定されたものの、終盤の写真の描写を見るに、あの疑惑は正しかったのだと思われる。

社会的弱者が追い詰められていった末に価値観が反転し、世界をジョークと捉える狂人ジョーカーへと開放される脚本はとても現代的で、世相にあった面白いアップデートをしたなぁと引き込まれた。
色々な捉え方はあると思うが、個人的にはダークヒーローの誕生譚として見たので、本物の悪という日本向けのキャッチコピーはちょっと違うかな?と感じた。

模倣犯の心配をする人もいるけれど、どうだろう
日本だと抗議運動への参加人口は増えるかもしれないなーと思った。

間違いなく傑作なのだけれど、好みと合わないところも少しあり。
まず、そもそもだけれどアーサーa.k.aジョーカーの映画はこれきりにしてほしいなあと思った。
大衆に向けて社会的弱者であることを告白したアーサーは、間違いなく民衆のヒーローとして今後祭り上げられるだろうし、誰かの味方として動くジョーカーは、正直見たくないというのが理由。
政治的思想はないともアーサーは語ったけれど、身の上をぶちまけてしまった彼は、これまでの実写ジョーカーのような正体不明の狂人ではもはやないわけで。
どれだけ否定しようとも、彼は「悲劇から立ち上がった英雄」というレッテルを拭い去れないだろうと思う。
というか、やはりラストのTVショーのセリフは、ちょっと気になる点。
人間の臭いがしない、完成されたジョーカーを民衆に見せつけてほしかったなぁ。

もう一つは、途中で子持ちといい関係になると思いきや妄想オチのアレ。
なんでここでアゲた?と思ってたら結局それも反故にされ、アーサーの味方は誰もいなかったことが明らかになるわけだけれど、
この部分だけ「アーサー自身区別のついていない妄想」であることがだいぶいびつ。
序盤にTVショーに出演する妄想はしているけれど、アレはTV見ながらやってる他愛ないごっこ遊び程度のモノであって、子持ち相手にやってた妄想とはちょっと意味合いが違うと思う。
この部分だけ極度の妄想を採用したせいで、これ以降のアーサーの言動すべてに妄想or現実判定がついてまわっちゃうのが代償としてちょっと痛い。
ひょっとしたら制作陣はそのあやふやさをも狙っていたのかもしれないけど、あれだけ恵まれなかったアーサーが、遂に勝ち得たジョーカーとしての異業くらいは、地に足のついた現実のモノとして、安心して見せてほしかった。

といった風に、ちょっと気になるところはあるものの、現代的な風刺もきいた、良い映画でした。劇場ではめちゃくちゃ憔悴しました。

あと、アーサーが一線を超えてからちょこちょこ明確な「笑いどころ」が出てくるのは象徴的でしたね(小男氏が部屋から出れないシーンとか)。ドタバタしたコメディシーンでThe ENDとなるのは、ジョーカーの物語が喜劇と"成った"ことを示すメタ演出のようで、面白かったです。

おわり。


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