光を反射しない「暗黒ゴムシート」

真の黒には高級感があります。
これまで、全ての波長の光(99.9%以上)を吸収する真っ黒なシートが世界中で研究開発されてきました。
開発されたシートはどれもカーボンナノチューブなどの炭素材料を使ったものです。
穴が空いていると錯覚してしまうほど黒く、写真で見てもその黒さがよく分かります。
しかし、指で触ると簡単に剥がれ、崩れてしまうという欠点がありました。

昨年、産業技術総合研究所から発表された「暗黒シート」は、ゴムで出来たもので、今までのシートと違って丈夫です。
黒くするためにカーボンを混ぜていますが、それだけでは全ての波長の光を吸収するシートにはなりません。

暗黒ゴムシートの表面に秘密があります。
ゴムシートの表面には沢山の細かい溝があり、その溝の中に入り込んだ光を閉じ込めてしまいます。
このため、ゴムシートは光を反射しません。
その結果、真っ黒に見えます。

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写真左が市販のゴムシートと暗黒シートの比較で、右は暗黒シートの表面を電子顕微鏡で見たものです(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2019/pr20190424/pr20190424.html)

暗黒シートは照明の光を反射していませんね。真っ黒です。
電子顕微鏡の写真は、シート表面に無数の溝がある様子がよく分かります。

以下は暗黒シートの説明動画です。

暗黒シートは樹脂の型にカーボンブラックを混ぜたシリコーンゴムの原料を流し込み、樹脂表面の溝を転写しています。
細かい溝は、樹脂材料にイオンビームを照射することで作っています(サイクロトロン加速器のイオンビームを使用)。

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暗黒シートの光を閉じ込める仕組みと作り方(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2019/pr20190424/pr20190424.html)

昨年、動画で説明している雨宮さんに展示会の産総研ブースで直接お話しを聞くことが出来ました。
「加速器を使っているので、簡単には作れないんですけどね」
と苦笑いされていました。
しかし、一度型を作れば、その型で多くのゴムシートを作ることが出来ます。シートは何度も曲げたり、粘着テープを繰り返しつけて剥がしたりしても性能は劣化しないそうです。

個人的には、光を閉じ込める溝の構造が興味深いです。溝のエッジを鋭くし、斜面を急峻にする。そして、斜面はナノメートルレベルで滑らかにしなければ100%近い光吸収率にならないと解説されていました。

展示会では暗黒シートをあまりじっくり見られませんでしたが、もし入手できるなら、光を当てたり、他の黒い物と比較してみたいですね。

読んでいただけるだけでも嬉しいです。もしご支援頂いた場合は、研究費に使わせて頂きます。