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食品の増粘剤、CMCをゲル化させる

アイスクリームやシャーベット、歯磨剤(練り歯磨き)などに増粘剤として使われているカルボキシメチルセルロース(CMC)。
セルロースの一部にカルボキシメチル基を導入し、水に溶けるようにした多糖類です。

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カルボキシメチルセルロース(CMC)の構造
*Rの一部がカルボキシメチル基(CH2CO2H)になっています(Wikipedia)

CMCは、インクにも使用されています。
入手もし易いです。

CMCは水に溶かすと粘性の高い液体になります。

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これは5%(重量)の水溶液です。

CMCの粉末はそのまま水に入れると塊になって溶け難いため、砂糖を少し混ぜて水に入れます。
そうすることで凝集をある程度防ぎ、溶かし易くなります。
料理などに使うときは、このような水溶液にして使う他に、最初から原料に粉末を混ぜるやり方もあります。

そして、このCMC水溶液はある条件でゲル化します。

一つは、酸を加えるケースです。
強い酸を加えるとゲル化します。

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写真のように透明な柔らかいゲルになります。
希塩酸を2倍に薄めたものを、CMC水溶液に加えて混ぜました。
CMCのカルボキシメチル基の数や水溶液の濃度によってゲルの柔らかさ(強度)は変わります。

ゲル化の原理は、次のようなものです。

スケッチ-123 (2)

図の左は、中性~アルカリ性の状態です。カルボキシル基が解離しているため、カルボン酸の負電荷による静電反発が起き、CMCの分子鎖どうしは離れます。
一方、図の右側は酸性状態を示しています。
ある程度強い酸性の条件下では、カルボキシル基の水素は結合しています。
すると、静電反発はなくなります。さらに、HとOの間で水素結合が起き、CMCの分子鎖は橋架けされます。
橋架けされることで分子鎖のネットワークができ、ゲル化するんですね。

二つ目は、金属塩を加えることによるゲル化です。
例えば、人工イクラがそうです。
アルギン酸ナトリウム水溶液を乳酸カルシウム水溶液に滴下するとゲル化します。

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2価の金属イオン(カルシウム)がカルボキシル基を橋架けするケースです。
しかし、CMCは乳酸カルシウム水溶液中に滴下しても、混ぜてもゲル化しません。
では、何を使えばゲル化するんでしょうか?
ここで使うのはミョウバンです。

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アルミニウムミョウバン:AlK(SO4)2・12H2O(Wikipedia)

ミョウバンは1価の金属イオン硫酸塩と3価の金属イオン硫酸塩を含む複塩(ふくえん)です。
複塩は、陽イオンや陰イオンを二種類以上含む無機塩のことです。

ミョウバンの結晶や分散水をCMC水溶液に加えて混ぜるとゲル化します。

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酸を加えたときと同じ、柔らかいゲルになりました。
ゲル化のポイントは、3価の金属イオンです。
この場合はアルミニウムイオンですね。

スケッチ-124 (2)

図のように、アルミニウムイオンは3価の金属イオンなので、2価の金属イオンよりも多くのカルボキシル基を橋架けすることができます
また、CMCはアルギン酸ナトリウムよりもカルボキシル基の数が少ないため、2価だと橋架け部位が少なくなり、ネットワークの形成は不十分になります。
1価の違いですが、ゲル化に大きな影響を及ぼしています。

最初にお話ししたように、CMCはアイスクリームやシャーベット、歯磨剤(練り歯磨き)やインクなどに増粘剤として使われています。
入手し易く、手軽で便利な増粘剤・増粘安定剤だと思います。
しかし、ゲル化させることは稀です。

ゲル化させることはあまりないんですが、
CMCのゲル化条件を探り、考えることはゲル化の仕組みを考える上でとても有用だと僕は思います。
前述したように、同じ多糖類であるアルギン酸ナトリウムなどと比較すれば、より理解を深めることが出来ます。

個人的には、寒天やゼラチンに混合して、滑らかなゲルを作ることに使っています。
ミョウバンは野菜などのアク抜きや消臭・殺菌用途でよく使われますね。
研究に使っているのは僕くらいでしょうw



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