復活した分子構造模型
化学者にとってはお馴染みのHGS分子構造模型。
2015年、製造元の日ノ本合成樹脂製作所が廃業し、入手不可能となります。
大学教育などで必ず使われる分子模型だけに、当時は大きな話題になりました(高校や予備校で使っている先生も居ます)。
類似品はありましたが、クオリティはHGS分子構造模型に遠く及びません。
そして2017年、別の企業の努力によってHGS分子構造模型が復活します。
復活した分子模型も日本の企業が手掛けているもので、丸善出版を通して販売されています。
他社の分子模型はどれも今一つだったので、一安心と言ったところでしょうか。
HGS分子構造模型にはいくつか種類があります。
復活したのは一部だけですが、必要十分なラインアップだと思います。
今回は、最もハイエンドのモデルとなる、B型 有機化学研究用セットを使います。
仕切りのある半透明のケースに部品と説明書が入っています。
大学で化学系を専攻した方にはお馴染みだと思います。
説明書には、各部品がどの元素や結合に対応しているかが分かる表が付いています。
そして、定規も入っています。
この定規で、原子間の距離を測ることができます。
単位はpm(ピコメートル)です。
肉眼どころか、数百倍の顕微鏡でも確認出来ないサイズです。
ピントが合っていませんが、Made in Japanの刻印があります。
今時、日本製にこだわる人は少ないと思いますが、従来品と同様、日本企業が製造していることが分かります。
それでは、分子を組み立ててみます。
黒や赤のブロックに棒を差し込んで分子を組み立てます。
これは水(H2O)です。
赤色のブロックが酸素原子です。
これくらいだと作るのは簡単です。
ブロックから棒を外すとき、付属の着脱用ゴムを使えば簡単に外すことが出来ます。
こういうツールが入っているのは嬉しいですね。
続いて、エタノールを作ってみます。
エタノールは最も広く使われているアルコールですね。
炭素や水素を繋げていきます。
少し硬めですが、硬すぎて入らない部分や、緩くて外れやすい部分はありません。
最初、炭素と水素を繋げる棒を間違えていたので、作りなおしましたw
正しくは、ピンクの短い棒でつなぎます。
色分けされていると分かり易くて良いですね。
完成したら、分子を色んな角度から眺めます。
そして、回転させることも出来ます。
エタノールのメチル基 (CH3) などは、実際に回転しているんです。
単純な分子だとあまり変化がありませんが、複雑な分子だと大きく構造が変わることもあります。
分子がどんなふうに構造を変えているのか、直に確認できるところが分子模型の良いところですね。
次はエチレンです。
二重結合を持っている分子です。
青い曲がった棒で二重結合を作ります。
このエチレンがたくさん繋がってできた高分子がポリエチレンです。
二重結合の一つがエチレンどうしの結合に使われます。
これがポリエチレンです。エチレンどうしがつながると、こんなふうになります。
6つしか繋げていませんが、実際には、千以上のエチレンが繋がって出来ています。
最もシンプルな構造の高分子で、幅広い用途に使われています。
「おゆまる」の記事でもご紹介しましたが、成分表示にPEとあるのがポリエチレンですね。
ポリエチレンも回転させることが出来ます。
複数の炭素を回転させると分子鎖が曲がって形が変わります。
ただ、このような構造にはなりません。
なぜなら、分子同士が接近しているため、不安定なんです。
そのため、ジグザグの形を取っています。
そして、ポリビニルアルコール。
液状糊やスライム作りでお馴染みですね。
ポリエチレンに似ていますが、水酸基(OH)が付いています。
赤いブロックの部分ですね。
水酸基がたくさんついているため、ポリビニルアルコールは水に溶けるんです。
一方で、加熱してもポリエチレンのように柔らかくならず、融けてしまいます。
まったく違う性質の高分子です。
ポリビニルアルコールも、このような形は取りません。
分子が接近しないように、ジグザグの構造を取っています。
写真は水酸基どうしが近くなっていますね。
少し分り難いですが、CH2の炭素鎖も曲がって接近しています。
これなら水酸基どうしの距離があり、炭素鎖も曲がることなく真っすぐになっています。
これが一番安定な構造なんですね。
続いて、ベンゼン環。
ベンゼン環は緑の棒でつなぎます。
ベンゼン環は平面構造ですが、これだと平面になりません。
同じ見た目のシクロヘキサンがこんな感じになり、複数の立体構造を持ちます。
一方、ベンゼン環は炭素同士をつなぐ結合が1.5重結合になっているため、シクロヘキサンと違って平面になります。要するに、炭素間の結合がシクロヘキサンよりも強固なんです。
この1.5重結合は、単結合と二重結合を交互に配置して表現することがあります。
そこで、少し大変ですが、二重結合を交えて組んでみます。
これだと平面構造になりますね。
かつては、このように二重結合と単結合の組み合わせで考えられていました。ベンゼン環の6つの炭素間結合のうち、3か所が2重結合で、その位置は常に変わっているという考え方です。
しかし、今ではこの考え方は間違っているとされています。
実際には6か所の結合は全て等しく、1.5重結合になっています。
このような構造を共鳴構造と呼びます。
今も便宜上、単結合と二重結合を交互に配置した構造を描くことが多いです。
今度は多糖類にチャレンジしてみました。
人工イクラ作りに使われるアルギン酸ナトリウムを作ろうとしたんですが、
酸素のブロックが足りないため、一つだけになりました。
アルギン酸ナトリウムは、ウロン酸(マンヌロン酸やグルロン酸)がたくさん繋がってできた多糖類です。
なので、このような構造が数千以上繋がっていることになります。
糖は少し複雑な構造をしているため、使うブロックや棒の数が多くなります。
4つ以上作って繋げるには、有機化学研究用セットが3つ以上必要ですね(^^;)
ちなみに、この部分がカルボン酸ですね。
C=OとOHです。
アルギン酸ナトリウムは、OHの部分がONaになります。
そして、安価な分子模型も購入してみました。
Amazonなどで販売されているものが沢山ありますが、どれもほぼ同じです。
違うのはパッケージやブロック・棒の数ですね。
購入したものは透明なケースとありましたが、届いたのは不透明なケースでしたw
中を開けると、チャック付袋に部品が無造作に入れられています。
そして、一つ一つのサイズが大きいです。
パーツは豊富ですが、色んなものが一つにまとめられています。
繋げてみると、やや緩く、すぐに外れる部分もありました。
その分、原子を繋げるのは簡単でした。
エタノールを作ってみたので、
HGS分子模型で作ったエタノールと比較してみましょう。
全然違いますね。
大きさが倍くらい違います。
サイズは違いますが、形に不自然な点はありません。
回転もします。
ただ、HGS分子模型よりも不安定です。
結合が緩いことに加えて、原子を繋ぐ棒が柔らかいことが原因だと思われます。
揺らすと分子全体が少し波打ちます...
価格は安いんですが、正直お勧めできません。
HGS分子模型を買った方が良いです。
今回使った有機化学研究用セットは定価7700円しますが、
A型の有機化学入門用セットは定価1760円で購入できます。
高校化学で学ぶ基本的な分子を一通り作ることができるので、買うなら入門用だと思います。
正直なところ、僕は学生の時以来、使っていませんでした。
頭の中でイメージしたり、図を描く方が速くてやり易かったんです。
分子を組んでバラすのが結構手間だったので(^^;)
これは人によりけりだと思います。
復活したのを知り、使ってみたくなったので購入しました。
実は、学生のとき買ったものは使わなかったので欲しい人にあげましたw
分子を手で触って見ることの出来る格好の教材ですが、好きな分子を組んで飾っている方も居ます。
そういう使い方も出来ますね。
読んでいただけるだけでも嬉しいです。もしご支援頂いた場合は、研究費に使わせて頂きます。