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アボガドロと物質量 ~化学の礎を築いた不滅の功績~

毎年10月23日は化学の日(日本のみ)。
アボガドロ定数 6.02×10^23 mol−1 にちなんで制定されたものです。

この定数に名の付いたイタリアの物理・化学者のアメデオ・アボガド口(1776-1856)は、生前は無名でした。
今でこそアボガドロの法則とアボガドロ定数 (定数は彼の死後、他の化学者が定めた)で有名ですが、彼の理論は難解で、発表した論文は見向きもされませんでした。
元素・原子の考え方すら定まっていなかった時代なので、理解できなかったのは当然かもしれません。
高校の授業でアボガドロ定数や法則が出てきてから化学が嫌になった方も多いのではないでしょうか。

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アメデオ・アボガド口(Wikipedia)

彼の業績で特筆すべきなのは、
分子の概念を提案した(酸素などの原子は単独では存在せず、二つの原子でできた分子として存在する)」
ことだと思います。

また、アボガドロの理論を元にして決められたアボガドロ定数と物質量は
原子・分子を一個ではなく、一定の個数が集まった塊(mol)として捉えることで扱いやすくしました。

アボガドロの理論によって、これまで化学者によってバラバラだった原子量の計算方法が統一され、分子と原子、元素の違いが明確になりました

この業績が認められるまでは、原子論を唱えたイギリスの化学・物理学者のジョン・ドルトンなどが主張した考え方が根強く残り、化学者によって使用する原子量がバラバラでした。

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ドルトンはこのように考えていましたが、実際には、2体積の水素は1体積の酸素と反応して2体積の水(水蒸気)を生じます。ドルトンの考え方はこの反応において矛盾しています(矛盾しない反応もあります)。
ここで、アボガドロの分子説を適用すると以下のようになります。

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しかし、当時は分子の存在自体が疑問視されており、アボガドロの説はなかなか受け入れられませんでした。

業績が認められたのはアボガドロの死後、1860年に開催された世界初の化学者の国際会議においてでした(この会議の主要テーマは原子量でした)。
会議の中、イタリアの化学者・政治家のスタニズラオ・カニッツァーロがアボガドロの業績を紹介し、原子量・分子量計算の重要性を説きます。
以下の周期表ストーリーでも触れましたが、この会議に出席していたメンデレーエフはカニッツァーロの講演に感銘し、原子量の重要性を痛感します。それが周期表作成のヒントになったんですね。

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スタニズラオ・カニッツァーロ(Wikipedia)

アボガドロの法則は
同一圧力、同一温度、同一体積のすべての種類の気体には同じ数の分子が含まれる」というものです(名前はアボガドロの死後に付けられました)。
そして、前述した分子の提唱もしています。
酸素や水素などは原子で存在するのではなく、二つの原子から成り立つ"分子"として存在する
とても重要な考え方です。

アボガドロ定数については、日本化学会HPに分かり易い説明がありました。

原子,分子は極めて小さく,軽いものですから,一つひとつの質量を測定することは不可能ですが,一定の個数を単位として捉えていくと便利です.ダース(12)やグロス(12ダース)という単位で大量の鉛筆を捉えますが,化学では原子や分子をモル(mol)という単位で捉えます.例えば水素2 molと酸素1 molが反応して2 molの水ができます.これを化学式で表すと下のように簡単に記されます.(O2の前の1という係数は省略されます)
2 H2 + O2 → 2 H2O

日本化学会HPより(http://www.chemistry.or.jp/kagakunohi/2014/10/602-1023-mol1.html)

大量の分子や原子を1molというセットで考えると、とても扱いやすくなります。
molという単位で表した数値が物質量ですね。

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水素は1mol当たり1g。水素分子は2g。私たちがよく使う塩化ナトリウムは58.5gになります。
ちなみに、水素の原子量を1と定めたのはドルトンで、水素を基準として他の原子の原子量が決められました。

化学において最も重要なのがアボガドロの法則とアボガドロ定数だと思います。イメージし難いこともあり、化学を学ぶハードルの一つになっています。

僕の経験上、分かり易い化学反応とセットにすると、イメージし易くなります。
合成反応をやるとモル計算の通りになるので、反応前後の物質変化も含めて印象に残り、達成感も味わえます。
比較的安全な実験を授業に取り入れ、楽しく教えられるとベストだと思います。
文章と計算だけだと、分かり難い上にイメージし難いのが困ったところです。
高校や大学の基礎実験では、ステアリン酸の単分子膜でアボガドロ定数の計算をする実験を行う事があります。
分子の大きさや個数といった基本を実感するのに最適だと思います。

生前は認められることの無かったアボガドロですが、その業績は化学と物理を大きく発展させ、あらゆる分野に貢献しています。

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