見出し画像

青色LEDのはなし

今回は青色発光ダイオード(LED)についてお話します(1章まで無料です)。
低消費電力のイルミネーションや照明として広く普及し、2014年のノーベル物理学賞にも輝きましたね。
青色LEDに使われている窒化インジウムガリウムは興味深い特徴のある面白い材料です。
高輝度青色LEDの発明・開発のエピソードには考えさせられることが多く、個人的にも大きな影響を受けました。
青色LED開発の経緯をお話ししながら、窒化ガリウムの特徴について説明したいと思います。
また、後半部分では、かつて大きく注目を集めた青色LED訴訟について、特許法の観点から解説します(発明者の権利や職務発明について詳しく述べます)。

1. 半導体とは?

青色発光ダイオードは窒化物半導体で出来ています。半導体とは、電気をよく通す良導体(金属)と、通さない絶縁体(ガラス、ゴムなど)の中間の性質を持った物質です。電圧や熱、光,、不純物の導入によって電気の通し易さ(導電性)が変わります。
半導体は原子で出来ていますが、原子核のまわりにある電子は、存在できる空間(軌道)が決められています。
電子の詰まった空間(軌道)が集まった帯を価電子帯、電子の詰まっていない空間(軌道)が集まった帯を伝導帯と呼びます。
そして、伝導帯と価電子帯のエネルギー差をバンドギャップ(禁制帯)と呼びます。
下図のように、金属はバンドギャップ(禁制帯)が無いため、電子(赤い点)が自由に価電子帯から伝導体に移動できます。一方、絶縁体はバンドギャップが大きく、電子が移動できません。そして、半導体はその中間。電圧や熱などのきっかけを与えることで、電子を移動させることが出来ます。

画像1

良導体(通常の金属)、半導体、絶縁体におけるバンドギャップ(禁制帯幅)の模式図(Wikipedia)

マイクロプロセッサ、メモリとしてPCやスマートフォンなどに使われるシリコン半導体は、現代社会に欠くことの出来ない材料になっていますね。
電力供給に使われるパワー半導体としても広く使用されています。
半導体が「産業のコメ」と言われる所以です。
最近では、半導体メモリをディスクドライブのように扱う記憶装置、SSD(ソリッドステートドライブ)での利用が広まっています。

画像11

シリコンウェハー(黒く見える円盤がウェハーです。WiKipedia)

画像12

回路基板を実装したシリコンウェハー(Wikipedia)

幅広く使用されているシリコン半導体ですが、可視光域の光を出すことは困難です。
発光ダイオードには別の物質が使われています。

発光ダイオード(Light Emitting Diode=LED)は、電圧を加えると発光する半導体素子です。
そして、LEDはpn接合と呼ばれる結晶でできています。
電子をたくさん持つn型半導体と、電子の無いホールをたくさん持ったp型半導体を合体させて作ります(nはネガティブ、pはポジティブのことです)。
p型半導体とn型半導体それぞれのバンドギャップが、混ぜることで平均化されます。そのままでは電子は動きませんが、そこに電圧をかけると、電子はバンドギャップを越えてホールに落ちていきます。
そのとき、電子が落下した分のエネルギーが光となって出ていくんですね。

画像2

PN接合ダイオードに電圧をかけると、電子がエネルギーの低い位置にあるホールに落ちて結合する(Wikipedia)

最初にLEDを開発したのはイギリスのヘンリー・ジョセフ・ラウンドでした。炭化ケイ素に電流を流し、黄色く光らせました(1906年)。
さらに1962年、アメリカのニック・ホロニアックが赤色LEDを開発。
以降、緑やオレンジのLEDが登場します。
しかし、白色には光の三原色(青、赤、緑)が必要です。
青がまだありません。
世界中の研究者が青色LEDの開発を目指しました。

ここから先は

12,069字 / 9画像
この記事のみ ¥ 500

読んでいただけるだけでも嬉しいです。もしご支援頂いた場合は、研究費に使わせて頂きます。