見出し画像

第1回 ダンジョーさんの卵

SANTi×ひとの物語。
GELATERIA SANTiを軸に出会ったひと・もの・ときを、ライターが紹介いたします。更新は隔週水曜日。

ダンジョーさんのこと

「ダンジョーさんの卵」
「ダンジョーさんのレモン」

SANTiの人気フレーバーの一つ、レモンクリームのつくりかたを聞いているとき、かならず「ダンジョーさん」の名前があがります。

「自然養鶏でそだてられたふわふわのにわとりが生む卵」
「卵1個は150円」
「循環農法だから、畑でレモンもとれる」

卵とレモンとダンジョーさんについて聞くにつけて、「ダンジョーさん」と「春夏秋冬」にまつわる妄想が広がりました。けれどそれはしばらくの間、映画のなかの田園風景のようでした。

その壇上さんの「春夏秋冬」にて、先日SANTiの研修を開いていただきました。その時の様子をおはなしいたします。

研修スタート


SANTiから車で1時間ちょっと。
小田原の市街地から山をずっとのぼった細い道の奥に「春夏秋冬」があります。
「鶏がつつくから」とのアドバイスをいただいて、事前に準備した長靴にはきかえて、研修スタートです。SANTiからは店主家族とスタッフ3人の6人がお邪魔しました。

研修では、壇上さんが直々にご案内くださいました。園内を回りながら、飼料の調達や発酵の過程、発酵飼料を選んだ理由を、実物を見せながら説明してくださいます。養鶏場にも入っていって、そこでじっくりと壇上さんと、鶏たちのくらしを伺いました。

発酵飼料は、おいしい。


はじめに壇上さんが紹介してくださったのは、春夏秋冬の発酵飼料

通常の養鶏では、「配合飼料」という、保存しやすい海外の安価なものをベースに使っているそうです。畜産業者が家畜に与えることが前提で配合製造されている…と、飼料会社では紹介されています。

一方、春夏秋冬では、日本の産業で「商品ラインからはずれてしまったもの」が飼料の材料になっています。これはゴミという意味ではありません。日本酒づくりのとき削られた籾殻や米粉、お菓子を作るときに出る材料の皮、賞味期限を迎えショーケースに並べられなくなった食品など、人間の食べるものと直結したものたち。
食べ物の匂いはします。けれどゴミの臭いがしない。
それらを、専用の機械で熱して発酵させたものが、鶏たちのご飯になるのです
壇上さんは飼料を紹介しながら教えてくれました。

ゴミと資源は違う。変な形で捨てたら変な形で戻ってくるし、都合よく戻ってきてほしいなら手間をかけて手放すべきだ。そうすれば、利益になって戻っても来る。
それに、製造上発生した「ゴミ」が、そのままただのお荷物になるのではなくてなにかいいことに利用されていることを知ると、製造者も売り手も元気になる。「春夏秋冬の卵」として自分の手元に戻ってくることが、製造者の研究意欲やがんばりにつながるのだ。

このお話のときにSANTiのパティシエスタッフが大きくうなずきました。
残ったお弁当の中身を捨てるお母さんの背中や、道端にころがったままの落とし物や、冷蔵庫の傷んだ食材を見て見ぬ振りをするときの気持ち。そういうものはそのまま救われないで終わると思っていたのに、壇上さんはそれをすくいとって、卵に生まれ変わらせている。そんな円環が確かにある。

春夏秋冬では、鶏たちのフンも発酵させて、農作物の飼料にしています。
循環が、壇上さんによっておおらかで明るい方向に回されているのです。

つつきたいくちばし ふわふわのおしり

つづいて、平飼いの養鶏場にお邪魔しました。

春夏秋冬の雌鶏たちは元気に餌をつついたり、羽を広げたり、砂浴びをしたりして、ときどき雄鶏がきれいな声で鳴きます。「人が多くて緊張してるから鳴いているんです。雄が周りを警戒して、安全だよーと鳴いてくれると、雌は安心して餌を食べられる」と壇上さんが言いました。
(緊張してるんだ…じゃあじっとしていよう…)
そう思って棒立ちになっていますと、雌鶏はわたしたちの長靴もこつこつつつきます。

鶏はつつくのが本能。あの小さな体で大きな卵を生むので、いっぱいつついていっぱい餌を食べる。けれど通常の養鶏場では、食餌や環境のストレスから「しりつつき」という共食いが発生して、つつくことが悪く作用する。それを解決するために、「デビーク」といってくちばしを焼き切る処置がされる。

壇上さんのこのお話を聞いている間も、皆の長靴はつつかれ、鶏たちは鳴いています。
ふと、SANTi店主が前に「春夏秋冬の鶏はおしりがふわふわなの」と言っていたことを思い出しました。人間による凶暴で不自然な状態に遭うことなく、ふわふわのおしりで過ごす鶏たち。すごく自然体。生き生きとして、個性的。

  ▲PHOTO by 松本純

壇上さんは鶏たちのことだけでなく発足や運営のご苦労も飾らずにお話くださって、この鶏の自然体を確保するためには多くの人間の覚悟が必要なのだということを、強くお伝えくださいました。

狭いレーンに鶏が並んで、卵がレールをくるくると転がっていく…という養鶏場を「先進国の普通」だと学校で教わってきた私には、何もかもが新鮮で、硬い先入観がほぐされていくような気持ちがいたしました。

研修を終えて


SANTiのレモンクリームは、春夏秋冬の卵とレモンを使っています。あわいクリーム色で、見た目はレモンに直結しませんが、ショーケースのふたを開けた瞬間からさわやかなレモンが香り立ちます。
ジェラートの1フレーバーが抱きこんでいる物語をじかに見聞きした今、レモンクリームを盛る手にもいままでとちがう気持ちがこもります。おいしさと覚悟とおおらかさが、いろいろな形でSANTiのお客様のもとへも届くよう、大切に盛り付けていこうと思います。

▶︎今回の思い出フレーバー:GELATERIA SANTiのレモンクリーム
 春夏秋冬さんの平飼い卵の卵黄とレモンを使ったさわやかなフレーバー。冬に登場。
▶︎TOP PHOTO by YUKA KASAYA

________________
GELATERIA  SANTi
 神奈川県鎌倉市御成町2−14

SANTi×ひと written by akico
________________

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?