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『BLUE GIANT』は嫉妬させない

小学生の頃、僕は少年野球チームに入っていて、
野球マンガの『MAJOR』が大好きだった。
大好きだったんだけど、主人公・茂野五郎のことはあまり好きじゃなかったというか、
嫉妬のようなものをずっと持っていた。

だって、五郎は父親がプロ野球選手で、
幼稚園生のころから才能があって、才能に裏打ちされた自信があった。
五郎はリトルリーグ、中学、高校と各時代でライバルを圧倒して、
そして勝ち進んでいった。

僕は茂野五郎に限らず、
昔からマンガの登場人物に嫉妬してしまうことがあって、
それは「みんな生まれながらに才能とか環境に恵まれてるじゃん」
っていう諦めのような感情だった。

現実に目を向けてみても、
少年野球チーム、進学塾に通う同級生等とだって
明らかに生まれながらの運動神経や学力の違いがあるように思えた。
「僕だって茂野五郎みたいな才能があれば、それは努力するよ」
なんて不貞腐れたりもした。
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「BLUE GIANT」シリーズのヨーロッパ編
『BLUE GIANT SUPREME』が完結した。

アルトサックスジャズプレイヤーの宮本大は、
これまで僕が見てきたマンガの登場人物の、
どのスポーツ選手とも、戦う戦士たちとも、アーティストとも違った。

連載当初、大がはじめてサックスを持った時から、
特に才能があるような描写はなくて、
ただひたすら練習する姿が描かれていた。

大が恵まれているとすれば、
大のことを信じて応援してくれる家族がいたことだけだと思う。
(貧乏な家なのに大の兄が借金してサックスを買ってくれた)

そこから大はとにかく、どんな時も吹き続けた。
仙台から東京へ上京して、東京からヨーロッパで仲間を集めて、
そして新シリーズでジャズの本場に向かったが、
新しい街に着いた初日も、
すさまじいライブをした翌日の朝も、
オフで観光に行った日も、絶対に練習を休まなかった。

大はヨーロッパ編で、
優れたドラム、ベース、ピアノと出会ってバンドを組むが、
終盤で大ひとりが急成長してしまい、他メンバーを圧倒してしまう。
その時、ベーシストが語ったのが、才能の話でもなんでもなく
「大は4人の中で一番、圧倒的に楽器に触れている」
というものだった。

「楽器に圧倒的に触れている」
それは
「こんなに練習していたら、それはこれだけ凄くなるよな」
っていう、どうしようもないぐらいの説得力がある。

大は、お金も全くないし、いい年齢で童貞だし、
楽器の練習のために多くのことを犠牲にしている。
この努力が「成功」につながるのか、まだ誰もわからないけど、
でもここまで人生捧げてるんだから、
それは「音」っていう結果ぐらいは出るよな、
出て欲しいよなと思う。

その努力の結果が、ライブ会場の観客を魅了したとして
そこには嫉妬する余地なんて1mmもない。
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僕は好きなことを仕事にできているけど、
まあセンスみたいなものとは遠いなと思う。
で、たいした努力もせずに
「どーせ俺なんて」と不貞腐れることもある。

センスや環境を言い訳にしても、
言い訳はどこへも連れて行ってくれないから
せめて黙々と練習ぐらいしなきゃいけないと
まあそんなことを考えたりもした。

大がアメリカのジャズファンを圧倒しますように!




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