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8月某日 原稿合宿in城崎③

 旅とは冒険のようなものだと思っている。知らない町に飛び込んでいくけれど、いずれは帰らなければならない。期限付きの冒険だ。

 今回は、経路が冒険であった。だが、滞在期間はみんなで決めたスケジュールの中で動いた。家族旅行より自由度は高いが、一人旅にはない制約がある。ハイブリッドな旅だったように思う。

2日目

目覚め

 私は大抵夜の9時から10時には布団に入り、朝5時半に一度目が覚める生活をしている。そのリズムに身体が慣れているのか、カーテンの隙間から差してきた日の光が眩しかったのか。この日も5時半に目が覚めてしまった。

 フォロワーたちを起こさないようにひっそりと窓の外の写真を撮ったり、本を読んだり、目をつむって長編の主人公に思いを馳せたり、ごろごろしながら一人の時間を楽しんでいた。

 私は旅先で見る夜明けが好きだ。家族との旅行でも一人目覚めてぼうっと窓を眺めていた。静かな始まりを感じさせる景色を見ていると、心が落ち着くのである。

ワンピースとごはん

 さて、それぞれ起き出したところで黒ワンピースを披露した。事前コーディネイトでは茶色のベルトをしていたためか、夫に「中世にいそうだね」と言われた例の服である。ベルトを替えたりペンダント(「余ったから」という理由で母から送られた物)をつけたりしてフォーマル寄りに仕立てていたからか、「ピアノを弾いてそう」という感想をいただいた。ありがたい。でも本当に家で着たときは「燭台を持って書庫を夜な夜な警邏する中世の修道士」だったのだ。『薔薇の名前』に登場する人物のようで、私は嫌いではなかったのだが……。もしかして本棚の前に立っていたからそういうイメージだったのかもしれない。

 たまたま全員ワンピースという出で立ちで、涼やかな印象だった。
 朝食では、ご飯のお供がたくさん揃っていてわくわくした。しその実ときくらげの佃煮と壬生菜の漬物がおいしくて白米をもりもり食べた。鮭のほぐし身もおいしかったな。スクランブルエッグはとろとろで、啜るように食べた。

 宮島ではカラスも神獣だったとか、神社の話をしていたような気がする。食べているときは基本、聞き役に回ってしまうのだが、楽しかった。

午前の執筆

 昼食を食べる時間を決めて、いざ執筆タイム。

 まずはカップリング小説に手をつけた。大体の流れはすでに決めていたので、書くだけではあったのだが、キャラクター性しか知らなかったために難儀した。大まかな口調や趣向からなんとかひねり出す。手探りで1186字進んだ。流れが決まっている短編は進みが早い。

 少し休憩してエピローグの続き。これを書いたら終わり、というところまでできていたのでひとまずざっくり書きたいところまで書く。この日中には終わりそうだ。昨日から+1027字進む。あまり眠れなかったからか、うとうとしながら書いていた。我に返ったときに修正はしていたので、まあ問題はないだろう。

 散歩に行っていたきさいさんから「コウノトリを見た」との報告を聞く。近くに人口巣があるようで、うろうろしているらしかった。お宿探索をしていた高坂さんも見たとのこと。私も見たい! その願いが叶うことになるとは、このときは思いもしなかったのである。

ぶらり昼食散歩

 清掃が入る前に、ということで早めに部屋を出る。曇っていて風が心地よい。と思ったら雨がパラパラと降ってきた。私が外に出ると大抵雨が降るので驚かなかった。まあ、そんなこともあるやろなと思いながら傘を差す。温泉街へ出る道も大分行き慣れてきた。

 本日の昼食はそば。チェックイン時間の前だからか、お昼時でもあっさり座れた。どれもおいしそうで迷ったが、山菜そばにした。冷たいおそばが食べたくて。食前茶がそば茶で嬉しかった。

 ライトノベルの話をしたり、SFの話をしたり。実はあまりライトノベルを読んでいない身だったので、ふむふむと聞いていた。ライトノベルのSFは読んだことがないかもしれない、と思っていたけれど『塩の街』が電撃文庫だった。「アリソンとリリア」シリーズはアニメで見ていたような。途中までしか読めていないが、『バッカーノ!』シリーズは結構好きだった。コバルト文庫はまあまあ読んでいた。と、あの時話しそびれたことを書いてみる。

 帰りがけに記念写真も撮り、旅をしている感覚を味わう。知らない町がだんだん知っている町に変わっていくところが長期逗留の醍醐味だと思う。
午後の執筆と雑談
 午後の始めは、カップリング小説に注力した。1560字進んでフィニッシュ。息抜きの方を先に終わらせてしまったが、もう一つもすぐ終わりそうだからよしとする。

 このフェーズは雑談しながら進めていた。TRPGの話を中心に、あちこち話が飛んで楽しかった。行きたいと思っていたシナリオについて話を聞いたり、TRPGに対するスタンスを話したり。SNS上では飛び飛びになってしまいがちな話を腰を据えてできたのは嬉しいことだった。歌詞を書いたことある人がいたことも嬉しかった。歌詞も詩も、短歌も俳句もエッセイも。雑談も定型文も時候の挨拶も。私は言葉全般が好きだから、書くことで記録を残しているのだと思う。

 ふと窓の外を見た高坂さんが「コウノトリかな」と声を上げ、全員でグラウンドを見下ろす。そこにはコウノトリが3羽とトンビが1羽いた。念願のコウノトリの出現に原稿そっちのけではしゃいでしまった。動物がいる風景は癒やされる。思わぬ幸運に恵まれた。


コウノトリとトンビ


2羽のコウノトリ



 やる気は失せていたものの、なんとかエピローグを140字加筆して終わらせた。とりあえず執筆は終わってほっとした。最初から書き直すため、残りの時間は最初から読み直す作業をしていた。昔の私文章上手いな、ボツだけど。などと思いながらpomeraの画面を見つめていた。当たり前だが、読み返すときは大きな画面の方がいいとわかった。

 他にも、人がいるときにプロットはできそうにないこと、決まった手順に沿った執筆はよく進むこと、などがわかった。執筆は一人だとさぼってしまうため、人がいるところの方がはかどる。

最後の夕食

 午後の執筆が終わり、夕食の時間。昨夜食べ損ねた海鮮蒸しと天ぷらを賞味する。せいろに入っていたのは、貝(ムール貝?)と海老、かぼちゃとブロッコリー、ヤングコーン。それらを卓上コンロ(青い燃料を使うもの)の上にのせてひたすら蒸した。生活にもせいろを取り入れようか迷っているので、いい実験になった。せいろ蒸しはタイミングが大事(燃料が終わるまで放置してしまい、蒸しすぎた)。天ぷらはさくさくで本当に美味しかった。五目ご飯もゲットして楽しくご飯を食べていたのだが、ある人が話に出てきた健康状態が私に酷似していてどきりとした。私も食生活を見直さなければ……。

フォントかるた大会

 ごはんのあとはフォントかるた大会! 私が持ち込んだ、「フォントかるた」というカードゲームで遊んだ。市ヶ谷にある印刷博物館で購入して以来、誰とも遊んでいなかった秘蔵の品である。フォントに見識のある人たち(?)と遊べてよかった。と言いつつ、私もフォントにはあまり詳しくない。とりあえず取ってはどのフォントかを確かめるところから始まった。


並んだ取り札


フォントかるた


 競技かるた経験者がいて、遊びといえども白熱したバトルになった。私は視力のハンデがあったため、とりあえずパッとわかる「の」の字が特徴の札を集めていった。竹フォントのことが好きで、その札だけはいつも視界の端に入れていた。読み上げ役を変えて3巡もするとなんとなく慣れてくる。畳の上ということもあり、結構盛り上がった。小説を書いている人も、漫画を書いている人も、本が好きな人も楽しめるかるただと思う。広い部屋に泊まるときに遊ぶのがおすすめだ。

最後のお風呂とまったり時間

 早めの入浴だったからか、1日目よりは人が少なく、快適に入れた。入る前にクレンジングのボトルを探していたら、親切な人が声をかけてくれた。ありがたい……。眼鏡がないと無力なのである。大きな甕のようなお風呂が気持ちよかった。半露天では誰も人がいなかったので、ぷかぷか身体を浮かばせて遊んでしまった。

 きさいさんがTRPGに参加している間、ラウンジでまったり雑談をしていた。地酒が飲めるということで、たっぷりの水と一緒に席に運んでいたのだが。段差があることに気づかず、足を引っかけて水をこぼしてしまった。「どうしよう……」とうろたえていると、高坂さんがやってきてフロントに声をかけてくれた。ありがたや……。スタッフの人に拭いていただいて、申し訳なさとありがたさでぺこぺこしていた。宿に慣れてきて、気が抜けてしまったらしい。たくさんの人に助けられて生きていることを実感した。あのときはありがとうございました。

 おのおのドリンク片手に、創作の話からイベントの話、ぶつかりおじさんについての話など、たくさんの話をした。創作を始めたきっかけなんかも聞けたので嬉しかった。

 部屋に帰って少しの作業をして、寝る。明日帰りたくないな、と思いながらも健やかに眠りについた。

執筆進捗まとめ


 1日目
 執筆時間:1時間50分
 執筆文字数:1347字
 2日目
 執筆時間:3時間35分
 執筆文字数:3913字
 
 結果
 長編のエピローグ:2522字で完成
 フォロワーのPCカップリング小説:2776字で完成
 長編の主人公について:プロットノートにまとめた
 長編読み返し:2章まで  


 宿にいる時間が長かったのにも関わらず、2日目は時間が早く過ぎ去った。集中できていたということなのだろうが、少しもったいない気もしてしまう。原稿合宿は旅行ではなく、原稿をするための合宿だと割り切る必要があるだろう。一人でするとすれば、近場のホテルで缶詰、ぐらいが妥当かもしれない。気分転換に散歩ができるところがいい。

 さて、次回からは原稿合宿の趣旨が変わり、私の一人旅が主となる。変えるまでが原稿合宿ということでご容赦願いたい。

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