見出し画像

フィクション or ノンフィクション ダブルアート・タグ

中1の2学期が始まった

放課後

担任の川﨑先生から教室に呼び出された

「田口、久保田、児嶋、お前らには言うとく」

みんなと目をチラチラ合わせながら

一体何で怒られるのか考えたが

違い過ぎた

「実はな、中谷は重い病気を持ってる、あいつは長く生きられへん」

川﨑先生は中谷の病気の説明をした

「あと2、3年の命かもしらん」

黙り込んだ僕たちに

「あいつは強い奴や」

更に熱い眼差しで

「お前らも支えたれ、いっぱい遊べ」

心の中に刷り込むように言ったあと

「今日言ったことは、一度も口に出すな、今すぐ忘れて中谷と接してくれな」

そう言って川﨑先生は教室を出た

教室に残された僕ら三人は
気持ちを確かめ合うこともなく
無言のまま
言われた事には
一切触れずに教室を出た

川﨑先生が言った事は

三人とも本当に

一度も口に出すことはなかった

もちろん中谷にも一度も聞かなかった

ずっと知らないふりをしていた

全員1年5組で同じクラスだった


中谷は男前で運動神経もよくて喧嘩も強かった

児嶋はお調子者で女好きで喧嘩っ早い

久保田はゲラでビビりのあかんたれ

川﨑先生はハゲでデブで歯抜けだった

だけど面白くて熱くて生徒から信頼されていた

理科を教えていた

先生は授業中

いろんな話をしてくれた

川﨑先生が大学に通ってた頃
仲の良かった教授とファミコンの格闘ゲームをやることになり、教授が負けてばかりでキャラクターの動きが遅いと腹を立て、教授が勝手にファミコンを改造して、格闘ゲームのキャラクターのパンチを速くして強くした話が好きだった

あと過去に担任をした問題児の話で
生徒同士の親が浮気をして、片方の生徒の家族が離婚して、離婚した側の生徒が相手側の生徒に恨みを持ちショベルカーで家に突っ込んだ話は衝撃過ぎた

先生は結婚して奥さんと小学生の娘さんと三人家族で、奥さんが病気で毎日看病していると自分の生活も僕たちに話してくれた

みんな川﨑先生の授業が好きだった

笑いと興味が絶えない時間だった

青春の第一歩で

正しい楽しさを教えてくれた

今でも心に残っている

学んだ理科のことは

全く覚えていない


秋も終わる頃

川﨑先生の奥さんが深刻な状態になって
長期休暇で2ヶ月ぐらい学校に来ていなかった

合唱コンクール本番前

音楽室で自由曲で選んだフェニックスの練習中

ブーンッ ガシャン キキキキキィ~

車の出入りする東門に見覚えのある汚い車が荒い運転で学校に入って来たのが4階の音楽室から見えた

クラス全員が歌うのをやめた

駐車場に停まった汚い車から緑のツータックパンツに白シャツに黒み帯びた赤のネクタイの姿が見えた

その瞬間

児嶋が窓を開けて4階の音楽室から

「川﨑先生~!!」

校内に響きわたる大きな声で叫んで手を振った

他のみんなも窓を開けて

「川﨑先生~!!!!!!」

クラス全員で叫んで手を振った

「お前ら授業中や戻れ!」

川﨑先生は大きな声で4階の音楽室に向かって叫んだ

みんなのざわつき
秋の穏やかな青空が
眩しく見えた

合唱コンクールの結果は

学年5クラス中の2位だった

優勝できず

川﨑先生はクラスのみんなと顔を合わすこともなく帰った


冬になる頃

1時間目の理科

ガラガラ

教室の扉が開いた

「川﨑先生!!!!」

クラスのみんなが驚いた

「しばらくの間、すまんかった」

みんなに向かって深々と頭を下げた

「今日から復帰させてもらいます」

「イェーイ!!!!」

みんな手を叩いて喜んだ

川﨑先生は元気になった奥さんとの闘病生活を赤裸々に話してくれた

先生は自分が見た光景を教室の後ろに映すように語った

「合唱コンクール見たあとクラスに行きたい気持ち抑えて、車に乗った、学校を出たあと景色が滲んで車の運転が大変やった。フェニックスの歌と自分の心境が重なって、、お前らから勇気と感動を貰った、本当に僕の支えになりました。ありがとう」

先生は理科の教科書を持って開いた

「さぁ、授業をはじめる」

3ヶ月ぶりの授業は

ほとんど先生が釣りにハマった話だった


冬になった頃

三者面談

「お母さん、田口と一緒に釣りに行きたいんですが良いですか?」

「えっ!?」

「来週の水曜日、夜の11時に集合して夜中の3時までには家に帰しますので」

「え、、でも、、」

「送り迎えはしますので」

「いや、その、そんなんいいんですか?」

「僕が全て責任持ちますので大丈夫です」

オカンが僕の顔を見てから

「じゃあ、わかりました」

「ありがとうございます」

川﨑先生は僕に向かって笑顔で頷いた

「お母さん、中谷も連れて3人で行きますんで」

「あ、中谷くんもですか」

「すみませんが、この事は内緒でお願いします」


水曜日 夜11時

待ち合わせ場所のセブンイレブンの前に

中谷が先に待っていた

「中谷~」

「おう」

「ほんまに行くとは思わんかったな」

「そやな」

「お前の親も反対せんかったんやな」

「全然大丈夫やったわ」

「ていうか明日、学校やで」

「ヤバいな」

ブーンッ キィ~

「おう、すまん遅れて、後ろ乗ってくれ」

川﨑先生の汚い車が走る

先生の好きなオフコースが掛かっている

夜の景色が流れていく

先生と中谷と三人でいるのが不思議な感覚だった

釣り場の近くに着き

荷物を持って

駐車場から少し歩いた

工場中の立ち入り禁止の看板前

「田口、中谷、これ越えれるか?」

立ち入り禁止の金網フェンス

僕たちはフェンスを乗り越えて立ち入り禁止の敷地内に入った

先生から荷物を預かり

その後、先生がフェンスを乗り越えようとしたら

一瞬、先生の顔が懐中電灯で照らされた

「お前ら!伏せろ」

先生が懐中電灯を避ける様にしゃがんだ

「ちょっとここ居ってくれ」

先生は懐中電灯が光っていた方に歩いて行った

「おい、中谷」

「なに」

「もしかして警察かな」

「わからん」

「先生、捕まったらどうする」

「めっちゃオモロいな」

「オモロないわ」

「アッハハハハハ……」

「静かにせぇ」

「アハハハハハ……」

「なに笑てんねん」

先生が戻ってきた

「危ない危ない警備員やったわ」

「中谷が警察に捕まったらオモロい言うて笑ってました」

「アハハハハハ……違います違います」

「中谷、お前は悪いやつやなぁ」

警備員が居なくなったのを確認して先生もフェンスを乗り越えた

「さぁ行くぞ」

荷物を持って警戒しながら釣り場まで歩いた

普通の中学生では体験できない
凄く貴重な体験をしている事に
気づきながら歩いた

「絶対この時間には警備員おらんはずやねんけどな」

その先生の言葉に
何回も来てるんやと思いながら
先生が担任で良かったと思った

「着いたぞ」

まだ開通されていない完成目前の明石海峡大橋の真下だった

僕らは世界一の吊り橋に興奮した

その間に先生が釣りの準備をしてくれた

僕と中谷は大量に釣れた

メバルにカサゴやアイナメ

大きな魚がたくさん釣れた

先生は全く釣れてなかった

「さぁ、そろそろ帰ろか」

3人で釣った魚を分けて持って帰った

「お前ら明日、絶対に遅刻すんなよ」

車で家の真ん前まで送ってくれた

「先生ありがとう」

家に着いたのは約束通り3時前だった

先生は次の日かなり眠そうに何度もあくびをしていた

中谷は休んでいた


冬休み

中谷の住んでる中学校前のマンション

10階の階段から

サッカー部の練習を見ながら

久保田と児嶋と中谷と4人で話をしていた

「俺、みんなと2年になれへんわ」

みんなの驚いた顔と目を合わせないように中谷は下を見た

「俺、引っ越すねん」

中学校の4階の音楽室から吹奏楽部の練習の音が鳴り響く

久保田も

「嘘やん」

児嶋も

「嘘やろ」

僕も

「嘘やんな」

しか言えなかった

中谷に何も聞けなかった

頭によぎった言葉は

無理矢理消した


つづく

■ダブルアート プロフィール
タグ真べぇのコンビ。2008年結成。
タグの特技は作詞、ティッシュ配り、耳を動かせる。
真べぇの特技はモノマネ・歌・作曲、けん玉、歓送迎会の司会と幹事。

ダブルアートINFO

====
著者/ ダブルアート・タグ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?