ZAZYが『R-1グランプリ』準優勝で抱いた悔恨と野心
3月7日に開催された『R-1グランプリ』決勝、ZAZYはファーストステージ1位で勝ち上がるも、ファイナルステージでゆりやんレトリィバァに破れ2位に終わった。フリップの端がクリップで留まったままになっているという大アクシデントもあった本大会を、本人はどう受け止めているのか。ネタづくりの細部から今後の展望まで聞いた。
R-1のあの数秒は体感で10分くらいあった
――『R-1グランプリ』準優勝おめでとうございます。この結果を自分の中ではどう受け止めていらっしゃいますか?
ありがとうございます。いや本当、優勝できたのにな……っていうところですかね。
――「優勝できるかもしれない」と思ったのはどのあたりのタイミングだったんでしょう。
1本目終わったときはまだ「点数高っ!」くらいに思ってましたけど、そこからみなさんの点数が伸び悩んだというか(笑)。最後ゆりやんが10組目でやって、僕がギリギリ競り勝ったじゃないですか。そこで「あれ? 優勝ちゃうん?」って思ったかもしれません。2本目やるときには完全に「これは優勝や。流れ来てるやん」と思ってフワッフワしてたから、多分クリップも見落としたんでしょうね。
――すでにあちこちで話されてると思いますが、なぜクリップが……。
僕も普段なら最終チェックをするんですけど、あのときはフワフワしてたので。完全にミスですね。めくるとき、最初は糊付けされてると思ったんですよ。そこから「取れへん……クリップやん! クリップ付いとる、取れへん、『あっ』、あ、賞レースで『あっ』とか言ってもうた、フォローしようかな、いやもうめくっちゃったし……」みたいな。あの数秒は体感10分くらいありました。皆さんには見えてないかもしれないですけど、僕一旦ハケて水飲みました。
――早すぎて見えてないですね(笑)。あんまりフワフワしなさそうなイメージなので、意外です。
普段はそんなにしないですね。だからこそ余計に「あっ」って言ったとき、自分の素の部分が出ちゃった! みたいに焦りました。
――とはいえ準優勝という結果は残したわけで、放送後は周囲の反応も変わったんじゃないでしょうか。
そうですね、街を歩いてて……たぶん僕、声はかけづらいんですよ。でも振り返る人は増えたかなと思います。電車乗ってても、僕の顔見てすぐスマホで調べだす人とかいて「ありがたいなぁ」と思いますね。声かけてくれたらいいのに。まぁ本当にただの変な人やと思って振り返ってる人もいらっしゃるとは思うんですけど。
――芸人仲間からは決勝後にお祝いされましたか? ママタルト檜原さんやケビンス仁木さんなど、同居されている「カサグランデ」の面々とか。
いや、全然。「『R-1』おつかれ、プレゼントや」って言って大量のクリップ渡されましたからね。ふざけんな、って。
――いい家ですね。
いい家なんですかね。
フリップネタ人口が増えても「軒並み倒していきたい」
――今年の『R-1』決勝はフリップネタの方が多かったですが、その状況は自分にとって不利か有利か、どう考えていましたか?
そこはそんなに考えてなかったです。フリップの人は例年多いんですよ。ただ決勝まで行く方が少なくて、それは「どうなんやろ」って思ってましたけど。今回決勝にあれだけフリップがいて、「フリップもいけるんや」ってこれから始めるピン芸人の方は増えそうっちゃ増えそうですよね。まぁでも、軒並み倒していきたいです。決勝でもフリップの中では圧勝だったんで(笑)。
――「ピノ目!!」のくだりがめちゃくちゃ好きでした。どうやったら「ピノ目」というワードが出てくるのか、全然想像がつかなくて。
どうやったら……うーん、結構ロジックなんですよね。あの畳み掛ける部分ってテンポが大事で、文字数として入れられるのが2文字から4文字くらいなんです。その中にツッコミワードを入れないといけない。で、僕の場合、遠くの方が見てもフリップがインパクトあるようにしないといけないんで、人物だとだいたい肩より上の絵になるんです。それくらいで描かないと表情が伝わらないんで。
――なるほど、バストアップくらいじゃないと。
バストアップで2文字から4文字でツッコめるもの、ってなったらもう単語なんですよね。「◯◯やろ」みたいにすると長くなるじゃないですか。その結果、「目」とか「歯」「耳」「口」って顔まわりのパーツになっていく。そこにどう何を組み合わせるかというところで、自分の中では一般名詞はやり尽くした感があって、固有名詞で何かないか考えるんですね。その中で「ピノ」は2文字で響きもいいな、「ピノ歯」「ピノ鼻」「ピノ眉」……あ、「ピノ目」かな、と。
それを絵にしてみて「まぁまぁ面白くなくもないな」って感じで作っていきます。あそこが面白すぎても……面白すぎるというか、咀嚼が必要な面白さやったらダメなんですよね。絵で見て一瞬で「何これ!」ってなって次に行く、くらいがいいから。そういうロジックですね。
――顔のパーツ大喜利ですね。
顔のパーツ大喜利、めっちゃやってます。2〜3カ月そんなん考えてたらおかしくなりますよ。
――つくってみてライブにかけて、フリップごと直すこともあるんですか?
あります、あります。だからすごい嫌ですよ。一個のフリップ全部描くのに3〜4日くらいかかりますから。『R-1』でやったネタも、最初描いてみたときに主人公の顔がちょっと面白くなかったんですよ。何回かやってるうちに「こいつ、ちょっと唇分厚くしたほうが面白いやん」って気づいて、全部書き直しました。
――漫才もコントも賞レースに向けてネタを手直しするのは同じですが、ZAZYさんのフリップだと物理的にかかる時間が桁違いでしょうね。
そうなんですよ。漫才師の方とかいいですよね、本当に。ライブ当日に舞台袖で何やるか決めたりするじゃないですか。「なんやねん、それ」って思います(笑)。
「あんだけ売れてるんだから、もうええやろ!」
――細かい話ですが、あのイラストは何を使って描いてるんですか?
デジタルでやってます。パソコンで描いて印刷して。それがもう、めっちゃくちゃ嫌ですね。A3に印刷して余白をカッターで切って、スプレー糊買って張り合わせて。スプレー糊が高いし画用紙代もあるし、1ネタにつき基本8000〜9000円かかるんです。そこから手直しを繰り返すんで、今回の『R-1』のネタ1本で2〜3万円かかってますね。もっとかな?
本当はポスター印刷したいんですけど、めちゃくちゃお金かかるしあの枚数はやってもらえないんですよ。霜降りくらい売れてたらやっていただけるんでしょうけど……。だからもう、勝とう勝とうと思ってましたね。ゆりやんは衣装もセットも全部準備してもらってるんでしょう、きっと。あんなに観葉植物用意してもらって、ええよなぁ(笑)。『R-1』4回優勝したくらい売れてるんだから、もうええやろ!
――先月の「月刊芸人」の巻頭企画に出ていただいた際も『R-1』優勝は悲願だとおっしゃってましたから並々ならぬ思いがあったんでしょうし……。
優勝前でしょ!? ほら! ほら出た。ゆりやんは優勝しなくても「月刊芸人」巻頭なんて余裕で飾れる。でもまぁ、例えばkento fukayaが優勝してたらこの枠がkento fukayaだったわけだから、負けたのは悔しいけど、ゆりやんで良かったのかなとは思います。いやでもやっぱり、ゆりやんがめちゃくちゃ面白いことはもう世間もみんなわかってるんだから……本当、ZAZY優勝で良かったですよね。
――ポスター印刷もしてもらえるようになったかもしれません。
いや、『R-1』チャンピオンではまだまだ無理ですよ(笑)。
――でもお仕事は確実に増えますよね。今後やってみたい仕事はありますか?
『すべらない話』とか『IPPONグランプリ』(共にフジテレビ)みたいなガチガチのお笑い番組に呼んでいただいて、どれくらい通用するのか、どんな立ち居振る舞いをするのか、自分で俯瞰で見てみたいですね。あとは子ども番組に出たいです。
それこそ『水曜日のダウンタウン』(TBS)さんで検証してもらえないかと思ってるんですけど、「ZAZY子どもウケ最強説」あると思うんですよ。0〜5歳くらいの子どもの反応がすごいんです。「うちの2歳の子どもがめちゃくちゃ笑ってます」みたいなメッセージいただいたり、エゴサーチで見かけることが結構あって。漫才やコントを面白いと思うには多少知識が必要だけど、リズムやイラストだとわかりやすく脳に直接入ってウケるんかな、と思ってます。
――子ども番組に出てるZAZYさん、見てみたいです。
めちゃくちゃ出たいです。「ZAZYのお兄さん」みたいな枠、つくってくれないですかね。
■ ZAZY
NSC大阪33期生。2011年デビュー。フリップ芸を主としたピン芸人。
「R-1グランプリ2021」準優勝。
■インタビュー動画 「BEHIND THE STAGE」
■撮影協力
テクスメクスファクトリー渋谷神南店
住所:東京都渋谷区神南1-19-3ハイマンテン神南ビル2F
■ZAZY INFO
ZAZY LIVE GOLD『SHINING EMERALDER』
日程:2021年5月1日(土)15:40開場 16:00開演
会場:ヨシモト∞ホール
出演者:ZAZY
■ZAZY official world
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ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希
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