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#2 フィクション or ノンフィクション ダブルアート・タグ

19歳の春

静かすぎる夜

着慣れない黒いスーツで

会場に並べられたパイプ椅子に座って

線香の煙の先にある遺影を眺めていた

「久保田、、、」

「なに、、」

「中谷、、、どうしてんのかな」

「、、、わからん」

「最後に会ったん、、中2になる前やな」

「、、そうやな」

「明日の葬式、、来るんかな」

「、、、わからん」

久保田は話している間

棺桶の中にいる児嶋の顔を見ていた

頭によぎった

放課後
川﨑先生から教室に呼び出されて言われた事を

「田口、久保田、児嶋、お前らには言うとく」

「実はな、中谷は重い病気を持ってる、あいつは長く生きられへん」

「あと2、3年の命かもしらん」

「あいつは強い奴や」

「お前らも支えたれ、いっぱい遊べ」

「今日言ったことは、一度も口に出すな、今すぐ忘れて中谷と接してくれな」

黙り込んだ僕たちに
熱い眼差しで
心の中に刷り込むように言った
川﨑先生の言葉

あの時

先生が教室を出てから

教室に残された僕ら三人は
気持ちを確かめ合うこともなく
無言のまま
言われた事には
一切触れずに教室を出た

あの時から

川﨑先生が言った事は

三人とも本当に

一度も口に出すことはなかった

もちろん中谷にも一度も聞かなかった

ずっと知らないふりをしていた

中谷は引っ越して

本当に

三人とも

川﨑先生が言った事には

一切触れないまま

何年も経った

児嶋は20歳になる一週間前に死んだ

4月1日エイプリルフールにバイク事故

4月2日に19歳で亡くなった

児嶋の死に顔を見る久保田の目は赤く

悔しさで悲しみきれない涙を流していた

僕は

声に出さず

「中谷、お前は、今、、」

頭によぎった言葉は

無理矢理消した

パイプ椅子から立ち上がり

新しい線香に

火をつけて立てた

「線香の火は、絶やしたアカンで」

児嶋の死に顔を見ながら久保田に言った


「コンビニで夜食買って来たわ」

永野がカップヌードルと飲み物を買って来た

「みんなで食べようや」

久保田の肩をやさしく叩いてから

コンビニの袋から児嶋の好きなスコールとガブリチュウのグレープを棺桶の中に入れた

永野は中2からブルーハーツで仲良くなって

高校ぐらいから一緒にパンクに夢中になった

パンク雑誌DOLLを見て

CDやレコードを買って

好きなバンドをライブハウスまで見に行った

友達の好きな物にすぐ興味を持つ好奇心旺盛で気のいい奴で

児嶋がバイクにハマると永野も直ぐバイクにハマった

「ほんま、えぇ奴やったな」

永野が児嶋の棺桶とパイプ椅子を向かい合わせに置いてから座りカップヌードルを食べる

「そうやな、、ほんま喧嘩っ早い奴で、人間だけやなくて、猫とかカラスとも喧嘩しとったな、めちゃくちゃな奴やったけど、涙もろい所もあったな」

僕も児嶋の棺桶とパイプ椅子を向かい合わせに置いてから座りカップヌードルを食べる

「児嶋、中学の卒業式で一番泣いてたな、ついこないだ、苦労かけたお母さんに家建てて恩返しする言うてたし、、俺、児嶋に、、」

久保田は棺桶の中にいる児嶋の死に顔を見たまま膝から崩れ落ち体を丸めて腕で涙を拭った

「俺、児嶋に、最後、、死ねって言うてもうてん、、、児嶋と一緒にモノポリーの話で盛り上がって、、今度勝負しようって言うてさ、、俺が絶対に勝つって言い合いになって、、じゃあ俺に負けたら、、死ねよって、、、児嶋に言うてん、、、それが最後の会話ってさ、、、」

永野は児嶋の棺桶とパイプ椅子を向かい合わせに置いた

「冗談で言うたことやろ、、気にすんなや、、最後まで、、冗談言うたろうや」

永野は久保田にカップヌードルを渡した

「そうやな、ありがとう」

永野と

僕と

久保田は

棺桶と向かい合わせに

パイプ椅子に座って

カップヌードルを食べて

朝になるまで

CDラジカセで

ブルーハーツや

ユニコーンを

掛けながら

線香の火を灯し続け

児嶋の思い出を語った


児嶋の葬式

中学校の卒業以来だった

「一緒に酒飲めるの楽しみにしとったのに」

児嶋に手を合わせて

僕たちに

一言だけ交わして

川﨑先生は帰った

19才のまま

13才のまま

2人と告別した

中谷は来なかった


19才の梅雨

僕は夜の街に引き込まれ過ぎて

黒い春から抜け出せなくなっていた

だけど

胸の奥にある夢が小さく光り始めた

そんな時に

永野が

交通事故で

記憶喪失になった


つづく

■ダブルアート プロフィール
タグ真べぇのコンビ。2008年結成。
タグの特技は作詞、ティッシュ配り、耳を動かせる。
真べぇの特技はモノマネ・歌・作曲、けん玉、歓送迎会の司会と幹事。

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著者/ ダブルアート・タグ

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