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メルヘン宇宙~いろんな星のショートショート~ オフローズ・宮崎駿介

よしもと神保町漫才劇場所属 オフローズ・宮崎の連載第三回。
いろんな星で起こるお話を一回読み切りで展開していきます。
今回は、”三日坊主の星”で巻き起こる物語です。


第三回『万星放浪記~三日坊主の星~』


「あのーすみません」
「はい」
「この星の観光ガイドの方ですよね」
「あーすみません。もう辞めちゃったんですよ」

「えっと、困ります。私はこの星の取材で来たので……この星を案内していただく契約だったと思うんですが」
「じゃあ契約破棄で。すみません。私は次の仕事に行かないと」

「えっと、困ります。その場合、違約金を払っていただかないと」
「えっと、困ります。今日暮らしていくのがやっとなんですから」
「では案内を」
「わかりました。案内ですね。この星のことが分かれば良いってことですね」

「……はい。少しだけこの星のことが分かってきました」
「じゃあ私の仕事場まで移動しながら案内しましょう」
「ものすごく自分勝手な提案ですがそれでお願いします。今は仕事はなにをされているんですか」

「昨日からはじめたんですが、殺し屋です」
「それはまあ。大丈夫ですか。いろいろと」
「いやー前から憧れてはいたんですがいざなってみると大変ですね。明日には辞めようと思ってます」
「えっとその様子も取材させていただけるということで」
「まあ大丈夫だと思います。そのときには私は辞めてるんで」

「はあ。それにしてもこの星はなんというか……」
「汚いですか」
「良かった。その自覚はあるんですね」
「馬鹿にしないでくださいよ。殺しますよ」
「……」
「殺し屋ジョークですよ」

「……なんでこんなにゴミがいっぱいあるのに誰も掃除しないんですか」
「掃除をしても追いつかないんです。ここにあるモノは全部三日前までは立派な物だったんですよ。でも今は全部ガラクタです。ケーキ屋が辞めると余った材料が、スポーツ選手が辞めると余った筋肉が、政治家が辞めると余った法律が、この星のどこかに捨てられるんです」

「……この生暖かいモノはなんですか」
「それは……なんでしょうかね。お土産に持って帰ってください」
「……一応いただきます」

「あっあそこがこの星の名所の一つ、【おっきい家】です」
「【おっきい家】ですか。有名な方が作ったんですか」
「いえいえ全然。誰が作ったかなんて知りません。みんな有名になるときには辞めてますから。ただ三日であそこまでおっきい家を作ったのはすごいですよ。三階にまで届きそうな勢いだ」
「あの家には屋根が付いてないですが」
「屋根なんて三日じゃ間に合わないに決まってるじゃないですか。面白い人だ」

「……以前はどんなことをされてたんですか」
「私ですか。そうですね。いろいろやってあまり覚えてないですが印象に残っているのは
警察、医者、父親とかですかね。あっ記者もやったことありますよ。大変ですよね」
「……ありがとうございます。父親も三日で辞めたんですか」
「辞めましたよ。あれが一番大変でした。なんせ家族を守らないといけないですからね」

「辞めたらご家族はどうなったんですか」
「どうなったんですかね。道のゴミになったか、なにか他のことを今でもやってるか。懐かしいですね」
「心配ではないんですか」
「いやー辞める度に全部捨てちゃうんでね。記憶はありますが、なんの感情も残ってません」
「それはなんだか虚しい気がしますが」
「なに言ってるんですか。人生一回きりですよ。やりたいことをして死にたいじゃないですか」
「……それはまあ」

「あっ着きましたよ。ここがターゲットのアジトです」
「ターゲットは何者なんですか」
「一昨日から幅を利かしているギャングのボスです」
「それは明日になれば解散してるんじゃ」
「野暮なこと言いなさんな。この星の人間はね、結果的には三日で辞めちまうがやってるときは真剣なんだ」
「それは失礼しました」

「もうすぐここに戻ってくるはずです。戻ってきたところをズドンです」
「銃で撃つんですか」
「当たり前じゃないですか。殺し屋ですよ。殺しますよ」
「……」
「ジョークですよ」
「ジョークで銃口を向けないでください」
「来ました。あのボスっぽいやつがたぶんボスです」
「アバウトですね」
「私も顔を見たのははじめてなんでね。危ないんで下がっててください」
「……大丈夫ですか」
「殺しますよ」


~~~


「いやーやってしまいましたね。お恥ずかしい」
「……大丈夫ですか」
「これはもうだめですね。医者をやってたんで分かります」

「……もしかして知り合いだったんですか」
「面影が残ってましてね。あれは多分私の息子です」
「そうだと思いました。最後なんかギャングジョークみたいなの言ってましたし」
「客観的に見るとあんなにつまんないんですね」
「最期に気付きたくないことでしたね」
「まあ息子に殺されるってのも悪くないですね」
「いや最悪ですよ」

「ちくしょう。まだやりたいことがいっぱいあったのになぁ」
「なんですか」
「一番はキャバ嬢です」
「それは一回死んだ方が早そうですね」

「……最期のお願い聞いてもらえますか」
「……なんですか」
「さっき拾ってた生暖かいモノ、私にくれませんか」
「……いいですけど」
「ありがとうございます」
「……どうぞ」

「……あー」
「……なんで泣いてるんですか」
「……これドッグブリーダーの犬への愛情でした。死に際に犬に思いを馳せるのも悪くない」
「いや最悪ですよ」
「良い記事にして……くださ……い……」
「……絶対良い4コマにします」


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著者/オフローズ・宮崎駿介
絵/オフローズ・明賀愛貴

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