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芸人が語る「お笑いライブ」の醍醐味~そいつどいつ松本竹馬~

東京・渋谷に構える、東京よしもとの芸歴9年目以上を中心とした今一番ホットで注目すべき若手芸人が活躍する劇場「ヨシモト∞ホール」は、4月より出演メンバーと公演内容をリニューアル。

今回、ヨシモト∞ホールで看板芸人として活躍する若手芸人「ムゲンダイレギュラー」20組に、”お笑いライブの醍醐味”をコラム形式でお届けします。

第6回目はそいつどいつ・松本竹馬
芸人それぞれのお笑いライブの醍醐味をお楽しみください。

『お笑いライブの醍醐味』


僕が思うお笑いライブの醍醐味、それは生で見るからこそ感じることのできる温度だ。

素人時代、僕はよくテレビで芸人のネタを見てて、「こいつら面白くねーなー。」「オレの方が面白いネタ書けるのにー。」とか思ってた。
でも芸人になるために上京して、初めてお笑いライブを生で見たときに、その考えが一変した。

テレビで見たときに僕が面白くないと思った芸人が、面白くないと思ったネタをやっていたんだが、それが生で見るとバカみたいに面白かったのだ。

その現場の空気感、声の届き方、実際に見る表情、周りの笑い声…
二次元から三次元へ。
生で見るとこうも違うのか。強烈に刺さった。

そして芸人が面白いことを届けようと発している熱。
それがとにかく熱くて、僕は気がつくと腹を抱えて笑っていた。
そして思った。
今までなんてもったいなかったんだと。


昔飲んだ女の子が言ってた。
「私、芸人のネタで笑ったことない。」
「ネタとかよく分かんない。」
まあ、そういう人もいるだろう。
漫才やコントの違いすら分かんない人だって多いはずだ。

その女の子からしたら、芸人の4、5分ある長いネタなんかよりも、10秒から15秒程度のTikTokやインスタのあるある動画の方がよっぽど笑えるらしい。

多分、ネタを見るという集中力がないんだろう。
そして芸人のネタを集中して見るという環境になったことがないのだろう。

でも、お笑いの劇場に来れば、「集中してお笑いを見る」という環境には近づくことができる。
特に満席の劇場とかなら、周りがしっかり見ている分、自分も集中できる環境になるだろう。
勉強するために図書館に行くのと同じだ。
笑うために劇場に行く。

それで面白いと思ってもらえなかったら仕方ないが、「芸人のネタでは笑えない」と全否定する前に是非一度生で見に来てほしい。
画面越しじゃ感じることのできない生の温度を是非体感してほしい。

そいつどいつ-4


そして、もう一つのお笑いライブの醍醐味。
それはその場で偶然に産まれることのあるブームメントの予感だ。

かつてコーナーライブの何気ないくだりから産まれた流行語やギャグ、キラーフレーズはたくさんある。
その誕生の瞬間に立ち会う可能性もあるのだ。


僕も一度とんでもないものを見たことがある。
それは「needs」というコーナーライブでのことだ。

「needs」は昔から続く伝統的なコーナーライブで、芸人が30-40組くらい出て様々なゲームに挑戦する。
ごった返した舞台にはお客さんの数よりも多いんじゃないくらいの芸人が出ていて、それだけの人数のため、ほぼみんなが一言くらいしか喋れずに終わる。
その中で前に出て、自分を出せるのは本当にごく一部で、爆笑なんか取った日にはもう英雄だ。

僕なんか自分達の代でリーダーになるまで、ほぼ「needs」で活躍した記憶がないし、なんならリーダーになってからもない。

でもそんな「needs」にはどんなときでも中心になる大スターがいた。
そう、バビロンの千葉さん(写真・左)だ。

バビロン'19©400400

千葉さんは僕の2期上の先輩で、ビンタされてよし、Tシャツ破られてよし、ケツバットされてよしの天性のリアクションスターだ。
千葉さんが「いたっ!」とか「なんでだよ!」とか言うだけで、何故かみんな笑ってしまう。

インスタでは「はらいっぺい」とかいう世界一面白くないギャグをシリーズ化して何個もあげていて、それが一周回って深夜に見ると超面白い。
元気のないときは大体それを見て笑ってるので、再生回数のほとんどは、僕だろう。

「needs」も創設した大御所作家、山田ナビスコさんからは、次世代のリアクション芸人として、ダチョウ倶楽部、出川哲朗と共に名前をあげられており、将来を有望視されている。

しかし最近、40歳間近になり自分の人生を見つめ直し、なんか病んでいる。
バビロンさんのチャンネル、バビロンのニューラジオではとうとう「芸人やってて楽しくない」なんか言い出す始末だ。
僕らから楽しいを取ったら何も残らないのに、楽しくないとか言い出してるのだ。

でもそんな千葉さんに僕はたしかにあの日、笑いの神を見たんだ。

そのときの「needs」は稀にみるグダグダで、あまり盛り上がっていなかった。
先輩達が考えたくだりもなかなか不発に終わり、もちろん後輩だった僕たちは何もできずただ見ているだけだった。

そして終盤のモノボケのコーナーもあまり盛り上がらずに終わりそうになったとき、誰かが千葉さんを前に出した。

「なんで、オレなんだよぉ!」

いつも通り、わめき散らす千葉さん。
なにか盛り上がってないときは、みんな苦し紛れに千葉さんを前に出す。
みんなも心の奥では、もう分かってるのだ。この状況を打破できるのは千葉さんしかいないと。

千葉さんがわめいているときに、誰が後ろから千葉さんのTシャツを破る。

「なにしてんだよぉ!」

いつものテッパンのくだりだ。
でもそれでも、会場はあまり盛り上がらない。

誰かが千葉さんにビンタをした。

「いってーなぁ!」

ダメだ。盛り上がらない。
それほどまでに今日の会場は冷えている。

そんなときだった。
誰かがご乱心したのか、モノボケで使っていた小道具のバットを手に取った。
そして、思いっきり千葉さんのお尻を打った。

パンッ!
破裂音が響き渡る。
千葉さんは本当に痛かったのだろう。
「いっ…」と言うと、目を見開き、ケツバットした誰かを見つめると、こう叫んだ。

「どういう……」


そこまで言いかけたとき、会場に緊張が走った。
誰もが千葉さんの次の言葉を予想したのだ。

「どういうお笑い?」

千鳥ノブさんの「クセがすごい」に次ぐ代表的なフレーズだ。

お笑いの世界では、パクリというのはとても冷める。
それも売れている大先輩のキラーフレーズだ。
今、千葉さんが咄嗟にそれを言ったら、大パクリ野郎になってしまう。
芸人のギャグやフレーズを無闇にパクって連発するそこらへんの大学生と一緒だ。

「どういう…」まで言って、千葉さんも瞬時にそれに気づいたのだろう。
やばい、このままでは先輩のフレーズをパクってしまうと。

時間にしたら、0.5秒から1秒だろうか。
千葉さんも頭をフル回転させたはずだ。
そして、そこから千葉さんが次に絞り出した言葉は、誰もが予想しなかった言葉だった。


「どういう……どういう?」


「どういう」の2回、言いだった。
「どういう」まで言いかけて、色々考えて、結局もう一回「どういう」を言ったのだ。

普通なら「どういう…こと?」とか「どういう…ボケ?」とかに逃げてしまいそうなのだが、千葉さんは「どういう…どういう?」と2回言ったのだ。

これを聞いた瞬間、千葉さんの咄嗟の葛藤とかも全て見えて、僕は破裂して笑った。

悪いけど、客席がウケてたかは覚えてない。
でも僕は、そして周りにいる芸人達はとにかく笑ったのだ。

もちろん、千葉さんの「どういう…どういう?」が流行語になるとか世の中で流行るキラーフレーズになるなんて思わない。
でも僕の中では、ずっと流行語大賞だ。


こういう自分だけのブームメントを見つけることができるのもお笑いライブの醍醐味だと思う。
だから是非一度、生でライブを見に来てほしい。

そして、僕を破裂するくらい笑わせた千葉さんは、責任は一切持てないが、芸人を続けるべきだ。
千葉さんが辞めなきゃいけない世界なんて、それこそ「どういう、どういう?」だ。



■そいつどいつINFO

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そいつどいつ第4回単独ライブ「みんな、しあわせ」
【日時】2021年6月12日(土)開場15:45|開演16:00|終演17:00
【料金】配信¥1,200(GoTo割引)

2度も公演中止になってしまった単独ライブ、満を持して開催します!約1年でさらに変化したそいつどいつを存分にお楽しみください


■ヨシモト∞ホールINFO

ムゲンダイチャンピオンシップ~2021 SUMMER~

日時:2021年7月4日(日)開場17:45/開演18:00/終演20:00
会場:ヨシモト∞ホール(東京都渋谷区宇田川町31-2 渋谷ビーム内)
料金:前売3,000円/当日3,500円/配信1,440円(GoTo割引)
※配信チケットのGoto割引料金は、変更の可能性がございます。
※全席自由
出演:アイロンヘッド、うるとらブギーズ、オズワルド、蛙亭、空気階段、コットン、ZAZY、サンシャイン、スパイク、そいつどいつ、大自然、ダイタク、ダイヤモンド、男性ブランコ、ダンビラムーチョ、TEAM BANANA、ネルソンズ、やさしいズ、ゆにばーす、レインボー、他1組(この日の直前に行われる「ムゲンダイユースカップ決勝」の優勝者) 計21組
内容:ヨシモト∞ホールの看板芸人「ムゲンダイレギュラー」が全組総出演する、半年に一度のネタバトル
優勝特典:賞金30万円、ほか副賞あり
先行発売     :2021年6月5日(土)11:00 ~ 6月7日(月)11:00
一般発売     :2021年6月9日(水)10:00~


■そいつどいつ松本過去記事




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