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雌伏の春を過ぎ、トットが得た“悟りの境地”――「笑って幸せになってほしい」

今年4月、満を持して東京進出を果たしたトット。しかしその矢先に、緊急事態宣言発令により雌伏して時を待たなければならない事態におちいってしまう。その後の劇場再開でようやく新しい環境に馴染み始めた、現在の2人の胸中とは――。

――今年4月から、活動の拠点を東京に移されました。なぜこのタイミングだったんでしょう?

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桑原:前から考えてはいたんです。毎年年末に「来年どうしようか」って話し合いを2人でするんですけど、そこであらためて話して決めました。

多田:2~3年くらい前から桑原は「東京行かへんか」と言ってはいたんですけど、僕がそんな行きたくなくて。でも去年そうやって話してるときに「ほな行ってみるか」って感じになりました。

――渋っていた多田さんがそこで受け入れた理由は?

桑原:僕が「行きたい」って言ったら最終的にオッケー出してくれました。

――寄り切ったわけですね。

桑原:寄り切りです。

多田:俺、そんな土俵際まで追いやられてた感じではなかったけどな(笑)。全国的にしっかりと売れたいっていうのはみんな思ってるじゃないですか。まぁ一生に一回やし行ってみてもいいんちゃうか、って気持ちになったのが去年でした。34歳で、年齢的には遅いと思うんですけど。

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――そうしてせっかく心を決めて出てきたのに、春には緊急事態宣言が出て劇場も閉鎖になってしまいました。

多田:そうっすよ。最悪ですよ。ほんま、来て2カ月くらいずっと家おったんで、「何しに来たんやろ」って思ってました。

桑原:僕は4月1日に来たんですけど、そのときはまだ「うーん、なんかちょっと気をつけようね」くらいの雰囲気だったんですよね。そこから1週間くらいでもう「家にいたほうがいい」ってなって、近所のスーパーからモノがなくなったりしてました。

多田:僕はその頃、まだ東京の家が決まってない状態で引っ越しの準備だけしてたんです。最低限の荷物だけ持って出てきて、同期の家にでも泊まらせてもらおうと思ってたんですけど、緊急事態宣言が出たからもう一回荷解きして……。結局、そのまま1カ月くらい大阪にいて、5月になる頃にこっちに来ました。

――なかなかしんどい時間をすごしたんじゃないかと思います。

桑原:そうですね。顔見世じゃないですけど、いろんな先輩たちに「東京来ました」って報告して「飲み行こうや」って言ってもらってたんですよ。でも全部ダメになっちゃって。

多田:いま舞台で「東京どう?」みたいなこと聞かれるのがいちばん困りますね。なんにもできてへんから、なんの話もないです。唯一やったことっていったら、GAGの坂本と夜に自転車乗って東京タワー見に行ったくらいです。下から見て「きれいなぁ」言うてそのまま帰ってきました。だから「東京来た!」っていう実感はないですよね。

――6月頃からライブが再開して、やっと東京の劇場に出られるようになったわけですよね。大阪の漫才劇場では比較的“お兄さん”のポジションだったと思いますが、いま∞ホールやルミネ、大宮、幕張など出るようになって、違いは感じていますか?

桑原:そんなには変わらないですけどね。お互い知らない芸人さんとも会うので、すごい新鮮で楽しいです。昨日もマヂカルラブリーさん、うるとらブギーズそれぞれとライブやったんですけど、楽しかったですね。お互い探り探りみたいなところもあって。

多田:∞でMCさしてもらうときは、僕はめっちゃ緊張しますね。どんなこと言う人なのか、あんまり知らないじゃないですか。だから何を渡したら何が返ってくるかがまったく想像つかないんで、ドキドキするんですよ。「そんなボケ方すんねや」とか「こんな人いんねや」とか思います。ドキドキして緊張して空回ってミスしてみんなに迷惑かけるっていうのを、ようやってしまってますね。やらせてもらえるのはありがたいんですけど、やっぱり大阪の漫才劇場でやるのとは緊張感の種類が違うとは思ってます。

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――桑原さんはその点ではあんまり緊張しない、と。

桑原:「楽しんじゃえ」って感じです。

多田:なんやねん、矢沢みたいな。「やっちゃえ」か。

桑原:だって今だけやで、その楽しさは。

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多田:まぁそうやな。だんだんみんなのことがわかってきたらこういう緊張感もなくなってくんねやろなって思うんですけど、なんでも知らないことをやる一発目はむっちゃ緊張してしまいますねぇ。

桑原:そういう人生じゃない?

多田:うん……?

――過去のインタビューではたびたび「アウェーに弱いコンビ」と自己分析されていますよね。

2人:弱いです。

桑原:しゃべらなくなります。2人とも、ホームではしゃぐタイプなんで。

多田:ダサいなあ。アウェーでこそ行かんと。

桑原:アウェーで行けてこそプロやし、そういう人が売れるんやなって思うんです。やっぱり、初めての場所でも「見てくれ」「これが俺たちのいいところだ」って自分の良さをぐっと出せる人は強いんですよ。僕らは一切できないですね。

多田:だせぇ~。分析までできてそれ? だせぇ~。

桑原:知ってる? それができんのって、覚悟が足りひんらしい。

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多田:全部わかってるやん。

桑原:なんでホームではしゃぐかって、絶対的にわかってもらえてやりやすい環境だと「スベっても大丈夫」「ミスってもいいや」って思えるから。逆に言うと外ではしゃがないのは、ミスを怖がってるわけじゃないですか。それって覚悟が足りない、つまり気持ちの弱さだから、プロ失格なんですよ。

多田:どういう気持ちで今しゃべってんの?

――でもさっき桑原さんが言っていた「今しかないから楽しんじゃえ」というのは、アウェーを楽しもうとする姿勢ですよね? 今の話だと、わかっててもできない桑原さんと、緊張はするけど出ていこうとする多田さんで、実際のところは逆なんでしょうか。

桑原:そうです。あのー……そう思ってますし、やろうと思ってるんですけど、できるかできないかは別だなって。聞かれたらそういうふうに言うんですけど、舞台に出たらやれない。

多田:やれや。情けなっ。僕はビビりながらも、与えられた仕事はやらなあかんからがんばろうって思ってます。

桑原:多田ちゃんのほうが楽しんでます。

――思考と行動は一致するとは限らないですもんね。一緒に出ている人たちのことを知ると緊張も減ると思いますが、∞ホールの芸人たちとはどんな交流をしてますか?

多田:よくしゃべるのはラフレクランですね。大阪にラフレクランが来ると、きょんが「多田さんの顔見ると安心するわ」ってよく言ってたんですよ。知り合いがいいひん中で知ってる僕がおるから落ち着く、って意味で言ってんねやろなって思ってたら、東京に出てきても「顔見たら落ち着くわ~」って言ってくるんすよ。なんなんやろうか思うたら、きょんもミスするし僕もミスするから、自分の怒られる頻度が減って安心するということやったらしいんですよ。

桑原:先輩やろ、お前(笑)。

多田:えーと、6つ先輩(笑)。みんな楽しそうで明るくて、距離の詰め方上手よな。社交性に長けてる。6年先輩って、僕らで言ったら麒麟さんとかですよ。僕が川島さんにそんなこと絶対言えないですもん。それを言えるキョンの人間性とか、そんなん持ってるのは才能やし素敵なことやなと思います。

桑原:それはお前の持ってるもんでは? お前と川島さんがまず全然違うやん(笑)。

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――どちらかというとその要素が大きそうです。

桑原:多田ちゃん、すぐ仲良うなってすぐナメられるもんな。

多田:ナメられますねぇ。

桑原:それはいいことや。愛嬌だけですべて乗り切ってきてるので。

多田:そんなことないて。でも(愛嬌)ないよりはマシかなと。笑顔で「すんません」言うて許してもらえたなってこと、自分でも多いと思いますね。そうじゃなかったらめっちゃ怒られてたやろなって。

桑原:昨日も『鬼滅の刃』の主人公のこと「ぜんじろう」って言ってたな。ぜんじろうさんは先輩やん。

多田:「ぜんじろう」と「でんじろう」で悩んで「ぜんじろう」出したんですけど、どっちも違うんですよね。炭治郎でした。でも舞台でそういうミスしたときにすかさず「『全集中・スタンダップコメディの呼吸』か!」とか誰か言ってくれたりするんですよね。前にも「ダンボールで何かつくろう」ってコーナーの怒鳴りを間違えて「ダンスホールで何かつくろう」って言ったらみんなすぐ踊ってくれて。

桑原:芸人の愛。よかったな、芸人で。こんなにミスを喜んでもらえる仕事も珍しい。

多田:普通の仕事してたら、すぐクビになってもおかしないですからね。

――愛されてますね。最後に、この社会状況のせいで東京でのスタートダッシュを切りそこねた分を、どうやってこれから仕切り直していくのか、コンビでのプランはありますか?

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桑原:たしかに、「大変な時期に来ちゃったな」ってすごい思ったんです。家おって孤独やったし、お客さんの前にこんな長いこと立ってないのも初めてやったし。だけど思ったんです、自分たちだけじゃないなって。日本中が大変な時期でつらいんだって。そう考えたときに、「売れたい」とかって自分の欲を満たすんじゃなく、みんなに喜んでもらいたい。

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多田:(不思議そうな表情)

桑原:笑って幸せになってほしい。そのために芸人がいるんだとあらためて気づきましたね。

多田:悟り開いたん? 何? えーと、東京よしもと文化人枠で入ってるの?

桑原:ちゃうちゃう……なんか変な空気になった(笑)。

多田:言ってることはめっちゃわかるし、すごい真っ当で素敵やねんけど。僕としては、一生懸命がんばってひたむきに楽しむだけかなって思ってます。東京でゼロからスタートで大変なこといっぱいあると思うんですけど、腐ったら負けやし、そうならないように毎日がんばっていかな。「わー」言うて、来てくれた人が楽しんでくれたら。

桑原:わー言いたい?

多田:言いたいっすね。わー言いたいっす。

――わー言いたい、とは……?

桑原:「わーわー言うてますけども」って芸人がよう言うやつ?

多田:言いたいですよ! だってわーわー言える仕事やねんもん。みんな言えないでしょ、普通に仕事してて。だからライブ見に来て明るい人ら観たらテンション上がりますやんか。勝手に口角上がると思うんですよ。

桑原:たしかに、「土曜日のお笑いライブまで仕事がんばろう」とか「やっと来られてストレス解消になった」とか、そういう声を聞くと本当に社会貢献というか、人のために……。

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多田:待った待った待った、また文化人モード入っとるわ。お前もわーわー言うて?

桑原:夢の仕事してんねんから、毎日。目をキラキラして生きていきたいなとは常に思ってます。キラッキラして、「楽しいです」って言っていきたいですね。そういう人になりたいです。

多田:……そうやな(笑)。

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■トット
高校の同級生の多田智佑(左)、桑原雅人(右)コンビ。2009年結成。NSC大阪校27期生。

■インタビュー動画 「BEHIND THE STAGE」


トットINFO

TOKYOトット許可局
日程:2020年11月17日(火)20:40開場 21:00開演
※オンライン配信あり。配信開始21:00 配信終了22:00
※見逃し視聴は配信開始から24時間後まで
会場:ヨシモト∞ホール(東京都)
概要:人気漫才師トットによる主催ライブ!
トットが考えた企画をゲストと一緒に行い、その企画は今後もやっていくべきなのか・もうやらずに捨てるべきなのかを判断します。
出演者:トット、ダンビラムーチョ、そいつどいつ

オンラインチケット

トットーク
日程:2020年11月26日(木)19:00開場 19:30開演
※オンライン配信あり。配信開始19:00 配信終了20:30
※見逃し視聴は配信開始から24時間後まで※
会場:ルミネtheよしもと(東京都)
概要:トットがお送りする60分のトークライブ
出演者:トット

オンラインチケット


【月刊芸人ポスター発売情報】

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11月号特集のトットのポスターが数量限定で発売決定!
よしもとグッズくらぶ、およびヨシモト∞ホール内よしもとエンタメショップにて販売予定です。
「月刊芸人の写真が好き」という声を多数いただいている、撮り下ろし写真のポスターです! 
お手元でじっくりご覧ください!

▼販売場所
①よしもとグッズくらぶ 
11月13日(金)13:00より発売開始
www.yoshimoto-goods.com

②ヨシモト∞ホール内 よしもとエンタメショップ
(〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町31−2 渋谷BEAM B1F)
11月20日(金)15:00より発売開始

※予定販売枚数に達し次第、受付終了となります。

販売価格 1,000円(税込)
サイズ:B2ポスター
購入制限:お一人様2枚まで



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ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希
スペシャルインタビューMOVIE:CAMSIDE


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