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やさしいズタイの『ここだけのコントの話をしましょう』 ライス田所&ゾフィー上田編 「愕然としたときどうしています?」

やさしいズ・タイが、コント師と共に語り合う対談企画『ここだけのコントの話をしましょう』。第3回は『キングオブコント2016』(TBS系)王者のライス・田所仁と、コンビとしての活躍はもちろん、最近では数々のコント番組出演で話題を集めるゾフィー・上田航平を迎えた。

2月24日に開催されるやさしいズ主催のコントライブ『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』に出演する2組。そんな先輩芸人とタイが、普段抱えている悩みや疑問、さらにはコント界の未来まで幅広く語りつくした。

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“コントサイボーグ誕生”はあの大会のせい?

タイ:“どうやってコントを作っているか”ってよく聞かれません?

田所:だいたいくる質問だよね。

タイ:上田さんは、ガチャ回しまくっているイメージです。

上田:まさにそう。

田所:テレビでめっちゃ書き込まれているネタ帳を見たけど、“本当かな。テレビ用に作っているんじゃないか”って思った(笑)。だって、すごいことだもん。

タイ:仁さんは違うんですか?

田所:作るは作るけど、多くても月2本を何ヶ月か連続でやったくらい。たまに1ヶ月で10本以上作るっていう話も聞くけど、ま~無理だね。

タイ:量を出してその中からいいのを選ぶのか、数を少なくして質を高めるのか、どっちがいいんですかね?

田所:やっぱり思うのは“年齢”があるのかなって。変な話だけど、脳の回転が鈍くなって、ネタを量産する体力がもうない(笑)。僕も、NSC(吉本の養成所)時代は、毎回ネタを変えて50本くらい作っていたけど、いま若いコント師がネタをたくさん作っているって聞いたときに、作り続けるパワー・脳の回転・若さに違いがあるんだなってすごい感じた。

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ーーでも上田さんとはそんなに年齢変わらないですよね?

上田:僕が36ですね。

田所:全然歳いっているね(笑)。俺38歳だから。

上田:年齢関係ないじゃないですか!

田所:じゃあ上田くんが変態なだけだ(笑)。

上田:僕も体力は落ちてますし、回転も遅くなっていますけど、その分めちゃくちゃ運動しています。

田所:まずは本当の体力を作っているんだ。

上田:(小説家の)村上春樹も、35歳くらいから朝起きて小説書いて、お昼に1、2時間走るって聞いたんですよ。そのシステムを導入したというか(笑)。

タイ:でも、そういうのってマジでありますよね。考えた後に体動かした方が(ボケや設定が)降りてきたりしません? 俺だけかな? 

田所:人によるかもね。俺は運動が苦手だから、ずっと家にこもってネタを作っている。歩きながら作るとかも聞くけど、一切できないし、そもそも喫茶店行って作れないんだよ。

上田:アイディアとかはどこで思いつくんですか?

田所:基本家で漫画読んだり、映画を観たりして、その中からの一部分から考えたりしているかな。喫茶店行くと雑音が多くてガヤガヤしているし、まったく集中できなくてさ。

上田:家って寝ちゃいません?

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タイ:“ちょっと休憩”で寝ちゃうのがヤバいんですよね。上田さんは喫茶店ですか?

上田:喫茶店だね。朝起きたあと、体を起こすためにシャワー浴びて、1時間走って帰ったら、紙とペン持って喫茶店に行く感じ。(気づいたら)“あれ!? もうこんなにも時間が経っている!”みたいなことにもなりかねないから(笑)、2、3時間で帰る短距離走型にしてる。

タイ:終わりの時間決めていますか?

上田:午前中に全部やって、そこからは自由時間。午前中に全部やれば、夜は自動的に眠くなるし。

タイ:子どもの頃からそんな感じなんですか?

上田:いやそんなことない。『キングオブコント』のせいだね。あんなものがあるから、コントサイボーグに……!

田所:人の心を失ってしまった(笑)。

上田:もし俺が優勝することがあったら、最後に「こんな大会があるからだー!」って叫びます(笑)。

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『キングオブコント』誕生前にコント師が思っていたこと

ーー『キングオブコント』で人生が変わってしまったんですね。

田所:優勝したことで一番嬉しかったのって、賞金とか番組に出られたことじゃなくて、“卒業できた!”っていうことですね。まったく同じことをシソンヌのじろうも言っていたし……(笑)。年齢制限もないから、自分次第で無限に出られるのが、なかなか辛い部分でもあるというか。

タイ:僕はこの世界に入ったときから『キングオブコント』があったんですけど、(田所は)ない世界の時からいらっしゃるじゃないですか。その頃、コント師は何を目指していたのか気になります。

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田所:個人的な(主観の)話になるけど、この世界に入った時、もともと『M-1グランプリ』はあったのよ。(自分たちは)コントだけをやっていたから“いやいや『M-1』しかないのかよ~。これじゃあ、俺らのネタが世に出ることはないわ~”って、どこかで言い訳できていた(笑)。でも、2008年のアタマに、芸人の間で「『キングオブコント』ができるかもしれない!」って駆け巡って。その瞬間から足の震えが止まらなくなった(笑)。

上田:そちらだったんですね。“チャンスが回ってきた!”とかじゃなくて。

田所:“もう言い訳できない”ってなったね。俺らそれまで周りから「コント面白い」って言われていたのに、第1回大会で1回戦落ちして。そこから地獄が始まった。“ライスは毎年『キングオブコント』で落ちるコンビだ”っていうのが何年も続いて。

上田:突然レッテルを貼られるわけですね。

タイ:確かにそれってありますよね。“『キングオブコント』に負けた=コントが面白くない”ってなるじゃないですか。

田所:単独ライブでやるコントと競技用のコントってまったくの別ものだからね。それなのに、一緒にされて“コントが苦手な人”って言われてしまう。

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上田の悩みはコント師のあるある?

上田:ひとつ聞いていいですか? 愕然としたとき、どうしていますか? 

一同:(笑)。

上田:例えばネタを書いていて、1日思いつかないのはいいとしても、1週間とか、下手したら1ヶ月とか思いつかなくて。“俺、何をしていたんだろう”って愕然とするときありますよね。

田所:分かるし、めっちゃある(笑)。そもそもネタの作り方すら思い出せないこともあるし。

タイ:本当にそれありますよね。“昔の俺、マジで天才なんじゃね? よく作ったな”みたいな。

田所:本当に枯渇したんじゃないか……って怖くなるときはあるよね。

上田:開き直って自分が楽しむためだけに作っても、結局書けない場合もある。“そっちもダメなんかい”って(笑)。

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タイ:僕は愕然としたとき、佐久間一行さんが好きでこの世界に入ったので、一回佐久間さんのネタを見て“本当に好きなことをやっているな”って思います。そのあと、自分も好きなことをやろうとして……愕然とします。

上田:結局、愕然とするんじゃん(笑)! 聞きたいのはその後なのよ!

タイ:(笑)。でも、一気に回復しないっすね。

田所:コント作るときって、新ネタライブとか単独ライブとか、締め切りがあるときが多いじゃん。「できませんでした」では通用しないから、結局自分の中で納得がいっていないんだけど、相方に台本を渡すとき、まずはむちゃくちゃ言い訳する(笑)。それでもやってみて……愕然とする(笑)。それを繰り返していくしかないかなぁ。

上田:聞いていて希望になったのは、みんな愕然とするんだっていう。

タイ:確かに。僕も、上田さんみたいなお笑いサイボーグでも愕然とするんだと聞いて安心しました。でも、煮詰まって“もう、これでいいや”って出したものが、むちゃくちゃウケたりするから、“もう何? じゃあ俺は毎日手を抜いてていいの!?”って。塾みたいに毎日やっていたのがマジで無駄。“毎日これでいいや、でネタ降りてきてよ!”って思います。

田所:じっくり悩んだからっていいネタができるわけじゃないんだよね~。

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大会優勝後に考える展望とは

田所:(やさしいズもゾフィーも)毎年『キングオブコント』に挑戦しているけど、優勝後、どういうコントをやっていきたいのか聞いてみたい。

タイ:個人的には、僕の書いたコントを(女優の)のんとやりたいです。

一同:(笑)。

タイ:あともうひとつ。コントをビルドアップさせたいです。コントの良さを広げる作業として、ユニットコントの台本を書いて、スーパースターたちを集めてやりたい。

田所:人に提供したいの?

タイ:コントを書いていると、“これ、俺たちがやるより、あの人たちがやった方が面白いんだろうな”っていうのがめっちゃあるんですよ。この間、僕が台本を書いてユニットコントをやったんですけど、誰かを目当てに観にきた人が、同じくらいの知名度の芸人を知らないってことが余裕であったので。“だったらユニットコントをやりまくった方がいいじゃん”って。みんなに知ってもらえるし、“生で見るコントが面白い”ってなってくれるし。

上田:壮大な話の後で悪いんだけど、僕は……世界。

田所:マジか(笑)!

上田:外国人とユニットコントをやりたいです。感覚が違うのは分かるんだけど、でも同じところも絶対あるし、“いまの沈黙の間って面白いよね”とか、気まずい雰囲気を笑っちゃう感覚とか、外国人の方とやったら興奮しそう。だからいま、英会話を習っていまして。

タイ:準備を始めてるんだ。

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上田:でも、いろいろ喋っていたら根本が違うって思い始めました。たとえば俺らって、遠い人だと「知り合いの人が」とか「2、3回喋ったことがある人が」とか細かく分けますけど、外国の人からしたら「そんなの“マイフレンド”でいいじゃん」ってなる。

あと、例えば、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイが対談したとき、日本語字幕では、年下のアン・ハサウェイが敬語を使っていますけど、でも本当は敬意を持ってタメ語で話しているじゃないですか。この感覚って俺らには一生理解できないんですよ。

そういうのを踏まえて“面白い”を作らなきゃいけない挑戦をしたくて……。だから、“『キングオブコント』優勝は別にいいや”って気持ちにもなっているんですけど、こういうのを公言すると“逃げている”って言われるんですよね。

タイ:そうそうそう!! そうなんだよな~。

上田:ある程度仕事をもらえているし、生活もできているから、“あとは好きなことやる”で別にいいじゃないですか。それで間違ってはいないんですけど、(大会に)出ないことで逃げているように見えてしまうし、出るからには勝ちたいし……。

タイ:めっちゃ若手のときは「『キングオブコント』優勝してぇ」って気持ちなんですけど、(今は)やりたいこともある。そのために、どちらかに重心おいた方が早く成功する確率は上がるんですけど、『キングオブコント』好きだし、戦うのも楽しいから出るっていう。今は、両方に重心を置かなきゃいけないから、すごく難しいんですよね。何なんですかねこれ。

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上田:ずっと高校野球をやらされていて“もういいだろう”と(参加者は思う)。だけど(部外者から)「高校で野球やっているのに甲子園目指さないことってあるの?」って言われちゃう。「いやいや、今、楽しいんです」って返しても「またまた、虚勢張っちゃって。ビビってんでしょ?」みたいな。いざ甲子園に出て負けたら「弱い」って言われるし(笑)。


ーー田所さんは優勝してからコントの作り方は変わったんですか?

田所:そうですね。優勝してからは好きな分数でコントを作れるし、最初のフリが長くていいし、自由な作り方にはなりましたけど、目標はなかなか見つからないですね。

上田:……行きますか?

田所:海外か~(笑)!

タイ:みんなで世界回って、美味いもん食って、最高っすよ!

田所:確かにコント師みんなで行くなら楽しそう(笑)。

上田:5年後までに英語できるようにして、2026年、突然コント師が海外に行くっていう計画を立てましょう(笑)。

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3人が思い描く“コント師が報われる未来”

ーーYouTubeで、やさしいズさんのコント【牛丼最強理論】がバズっていますよね。

上田:確かに。めっちゃ再生されている。

タイ:株トレーダーが反応して“価値に対してすごく重要なことを言っている”って。違うところで面白がっているみたいで(笑)。何か牛丼の仕事とか入らねーかな。

上田:YouTubeって意外とそういうのがハマるかもしれないよね。


ーーたとえば、やさしいズさんだと牛丼ネタやヤンキーキャラが知られていて、ライスさんだと『キングオブコント』で優勝した「~してくれい」のコント、ゾフィーさんだと同大会で披露した腹話術師のコントなどがありますが、強烈な作品を残すと、そればかり求められる風潮があります。コント師にとって色がついてしまうのはどうお考えですか?

タイ:一度、ヤンキーって色がついたので、単独ライブのときはめっちゃ悩みましたね。

田所:普段僕らはキャラコントなんてないけど、たまたま作ったもので『キングオブコント』を優勝したので、キツイのはキツイですね。ほかのコントは全然違うし、あのイメージがついてしまうのはしんどいときがあります。

上田:(世間は)ゾフィーが人形との3人組だと思っていますからね。


ーー(笑)。バラエティーでも人形を持って出られていましたよね。

上田:営業とかならいいんですけど、テレビに出るとき、こっちは緊張しているのに、人形持って喋らなきゃいけないし、横のヤツ(相方・サイトウナオキ)はツッコまねーし、“こんなの2つも持っていけねーよ。どーすりゃいいんだ!”って(笑)。

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ーー『キングオブコント』が生まれたことで、世間のコントの見方も変わってきていますし、レベルも高くなっていると思います。コントの未来って今後どうなっていくと思いますか?

タイ:極論を言うと、今のままだと早くて20~30年後くらいに能みたいになっちゃう可能性がありますよね。能を馬鹿にしているわけではなくて、本当に好きな人だけが見る伝統芸能になってしまう。それはそれでいいんだけど、世界に行ける可能性もあるんだから、もっとコントの間口を広げて、ライブでやっているコントの面白さを伝えた方が発展するような気がします。そしたらみんなで、世界に行けるようになると思うんですよ(笑)。漫才は2人とか3人がいいとされていますけど、コントの強みって2人よりも10人のほうが面白いときがあるじゃないですか。だからコンビとしてはもちろん、ユニットもあっていいのかなって思います。

上田:日本ってまだ鎖国しているというか。「海外行きます!」って言っても「かぶれてんな~!」って行きにくくさせる傾向が強い。これをブッ壊せるのかは今後次第ですよね。

田所:「あのコント師好き」ってなると、通として扱われちゃいますけど、それも魅力なのかなって思います。ただ、遺していかなきゃいけないものなので、コント師が損をしない世界を作っていきたいです。コントっていうものは素晴らしいし、下世話な話、お金を稼げるってなったら報われる気はしますけどね。

タイ:食えない伝統文化になるのが一番目も当てられない。食える伝統文化なら全然いいですけどね。

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ーー上田さんは、ユニット「コント村」を作って、コント師が食べていける世界を願っていらっしゃいますよね。

上田:前よりは食えそうな感じがしているんですけどね。結局、いま『キングオブコント』の決勝行って優勝しなくても、テレビに出られることがあるじゃないですか。今までは“優勝しても食えないんですよ”っていう印象が強かったから、どうしても大会のイメージ的に“お金がない人が集う”みたいになっちゃっていましたけど(笑)、それがだんだんなくなってきたように思います。“決勝行ったら食えるようになる”っていうのは、モチベーション的にかなりデカイですよね。


ーー深い話までありがとうございます。2月24日、この3組でライブをされるんですよね。

タイ:『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』っていうタイトルなんですけど。 

田所:素晴らしいタイトルだね。

タイ:(田所は)赤坂への順路を知っているんで、いろいろお聞きしたいですね。

上田:確かに(笑)。

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やさしいズ
NSC東京校16期。佐伯元輝タイの同期生コンビ。2011年結成。
ライス
NSC東京校9期。田所仁関町知弘の高校時代の同級生コンビ。2003年結成。
ゾフィー
株式会社グレープカンパニー所属。上田航平サイトウナオキのコンビ。


■ライブINFO

『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』
会場:ヨシモト∞ホール
日時:2021年2月24日(水) 開場16:40|開演17:00
出演:やさしいズ、ライス、ゾフィー

「ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる」


■月刊芸人 やさしいズタイの『ここだけのコントの話をしましょう』


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ライター/浜瀬将樹 撮影/瀧川寛

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