先輩と後輩から対等な“相方”へ、9番街レトロが語るコンビ結成後の変化
『月刊芸人』6月号の巻頭特集は、神保町よしもと漫才劇場にて活躍する9番街レトロ。2019年にコンビ結成後、ヨシモト∞ホールから拠点を同劇場へ移して3回目のネタバトルで、当時のランキングシステム最上位へ。コンビ結成と同時に開設したYouTubeチャンネルも上々な彼らのインタビューを、前後編に分けてお届けする。
前編は、撮影コンビ結成のいきさつや当時の状況、先輩と後輩から相方という平等な関係に変わったことで起こったことについて掲載。東京・浅草にある「花やしき」で撮影された素晴らしい写真とともに、楽しんでいただきたい。
いちばん仲のいい先輩後輩から相方へ
――雨の中、花やしきでの撮影はいかがでしたか?
京極風斗(以下、京極):着いた時、どしゃ降りやったんで、これ大丈夫なん?ってちょっと思いましたけど、6月号と聞いていたので狙って雨の日に撮影してる感じを出しときました。最後のアトラクション、カメラマンさんと3人で乗ったんですけど、カメラマンさんはでかいカメラを落とさんようにするために養生テープでぐるぐる巻きに手を固定して撮ってくれてましたね。
なかむらしゅん(以下、なかむら):僕らのためにアトラクションを動かしてもらえるなんて嬉しかったですね。このご時世、遊園地にもなかなか行けないので、いろいろと楽しませてもらいました。
――おふたりは2019年にコンビを結成されましたが、なかむらさんが京極さんに誘われたんですよね?
なかむら:大阪の漫才劇場で毎月やってた、芸歴3年目以下の芸人が出るライブで仲よくなって。いちばん仲がいい先輩やったんです。
京極:元々、こいつの前の相方と仲よかったんです。当時、僕はガラス張りで通行人が見えるバーで働いていて、こいつの前の相方を誘ったら飲みに来てくれたんですけど、その時パッと外を見たらめちゃくちゃイカつい2メートルくらいある大男ふたりのあとを、こいつが手をこすりながら歩いてて。
なかむら:地元の先輩と遊んでたんです。声は聞こえてなかったやろ?
京極:うん、なんて言うてたん?
なかむら:「勘弁してくださいよぉ~!」って(笑)。
京極:そんな顔はしてたわ。あのときのなかむらが印象に残ってます。
なかむら:京極は先輩なんですけど、イカつくて目つきが悪くて。「おい、なかむら」って言いながら絡んでくる感じもあって、怖いなっていうのが第一印象でした。初めて一緒に京都へ遊びに行ったときもまだ怖くて。おいしいうどん屋に連れていってあげるって言われて、1時間半くらいプレゼンしてくれたんですけど、辿り着いたら閉まってたんです。で、隣のうどん屋さんに連れて行かれるっていう。
京極:そっちも食べログの評価が高かったから。
なかむら:あれ、意味わからんかった。むっちゃまずい中華とかやったらまだ何か言いようがあるけど、隣もうどん屋で、しかもおいしいんかい!って。
京極:(笑)。後輩やからどこまでも付いてくるやろうと思って、京都中を連れ回ったんです。コンビを組んでから、「あれがいちばんしんどかった」って言われましたね。僕のことが怖かったとか言うてますけど、その日、こいつはちょっと遅れてきたんですよ。大阪から京都へ向かう京阪電車に乗って喋ってたら、いきなり横からブワーっていう音が聞こえてきて。え?と思って、なかむらを見たらヒゲ剃ってたんです。
なかむら:髭が人より濃いんですよねぇ。
京極:常識はちゃんとあるし、人の目とか結構気にするヤツなのに、何してんねんと思いました。あとで聞いたら、ヒゲ剃るのも後回しにするくらい急いできたっていうアピールをしたかったらしいです。その頃は、それくらいの(ちょっと微妙な)距離感でした。
なかむら:僕はちゃんと後輩してました。あ、カフェラテいただきますね。(と聞きながら、ガムシロップを入れて)いる?
京極:いらない。京極はガムシロを入れない。これ、絶対に書いてください!
手提げ2個で上京したなかむら
――東京に活動拠点を移したのは、何か理由があったんですか?
京極:僕が先に前のコンビで出てきてたんですよ。解散しても大阪に戻るという選択肢はなかったので、なかむらをこっちに呼んだんです。前のコンビで、僕はカリスマっていうキャラクターをしていたというか。まぁ、今も自分のことをカリスマやという認識でいるんですけど。
なかむら:え、どういう認識!?
京極:(笑)。大阪におった頃、ある先輩に「東京に行きたいと思ったことあります?」って聞いたら、「マジでもっと早く行っておいたらよかったわ」って言われたんです。その言葉を聞いて、だったら早めに東京へ行っといたほうがいいんかなと思って東京に来たんですけど、正直なところ、逃げもありました。当時、芸歴8年目以下やったかな? 若手だけのライブに出てたんですけど。
なかむら:メンバーがエグかったんですよ。
京極:霜降り(明星)さん、ミキさん、ゆりやん(レトリィバァ)さん、今でいうとコウテイさん、からし(蓮根)さん、さや香さん、ネイビーズアフロさん、蛙亭さん……どぎついメンバーと同じ括りで戦っても無理ちゃうかと思ったんです。当時は大阪のことしか知らんかったっていうこともあって、勝手に東京のほうが勝負できるやろうと思い込んでいて逃げるかたちで出てきたんですけど、もちろん東京にも面白い人はたくさんいる。結局逃げ切れなくて、解散することになってしまったんです。
――なかむらさんは解散後、1人で東京へ来たわけですよね。
なかむら:マジで怖かったです! 誰1人、友達がいなかったですから。
京極:東京に初めて来たとき、バスタ新宿まで迎えに行ったんですけど、大阪から奈良に行くくらいの荷物やったんで大丈夫かな?と思いました。元々、実家にいたっていうのもあるけど少なすぎて。
なかむら:手提げ2個でしたねぇ。
京極:家も決まってなかったんで、面識のないこいつと同期の3人が暮らしてる家に住まわせたというか。今も住んでる家なんですけど、みんなのたまり場になってるようなところで。僕も住んでいる3人と関係ないヤツの紹介で1回、遊びに行ったことがあったんです。そのとき、3人のうちの1人をコンビニへ連れていって、「もうすぐ君たちの同期のなかむらっていうヤツが東京に来るねんけど、住ませたってくれへん?」って言ったんです。その3人にしたら、得体の知れへん先輩に知らん同期を住ませてくれって言われて、意味わかんなかったでしょうね。で、その家に放り込んだんです。
なかむら:上京して2日目くらいでしたかね? 初めてその家に行ったとき、3人に“え、あれほんまやったん?”みたいな顔されました。最初は煙たがられてめちゃくちゃ気まずかったんですけど、住むとこがないので皿洗いしたりして(受け入れてもらえるように)がんばりました。
コンビ結成してすぐ、性格の矯正をされた
――それぞれ解散を経験して組み直したとなると、次こそは成功したいという気持ちも強かったと思うんですけれど。
なかむら:ラストチャンスやとは思ってましたね。1~2年くすぶったり、出鼻をくじかれたりしていたら無理なんやと諦めてたかもしれないです。……あの、インタビューそっちのけの話、してもいいですか? 今思い出したんですけど、東京に来て(芸人たちに)「はじめまして、なかむらしゅんです。これからよろしくお願いします」って挨拶するたびに、「お前があの天才か!」って言われたんです。こいつ、僕のことを天才が大阪から来るって紹介してたみたいで。あれ、めちゃくちゃきつかったわ!
京極:焦ってたんで、僕も。解散すると、ちょっとだけ“あいつ、終わったな”感が出るじゃないですか。終わってないって証明するには次のコンビで結果を出さなあかんなと思った結果、その示し方を間違え続けてしまって。
なかむら:え、それで言い続けてたん? その超天才は、なんも知らんと手提げ2個で東京来たんやで?
京極:手提げ2個は天才感強いやろ(笑)。でもまぁ、ハードルはちゃんと超えてくれたなと思います。芸人としても、僕の場合は東京でのほうが成長できてますからね。前のコンビは僕のやりたい放題やったんですけど、こいつとコンビを組んで対等な立場になったとき、まず性格の矯正をされたんです。
なかむら:僕には言わないんですけど、同期にめちゃくちゃえらそうなことを言うことが多かったんですよ。やから、「京極、それ言うたらあかん。人としてあかん」って注意して。コンビとして調子が上がってきて、俺のほうがお前らより勝ってるみたいなことを言い出したときも、「勝ったときこそ謙虚に! オッケー?」って言い聞かせましたね。芸歴は下ですけど、僕のほうが年上なんでね。
――めちゃくちゃ大事なことを教わってますね(笑)。
京極:まぁ、4年前のことやから、まだ21歳ってことで多めに見てもらえないですかねぇ。ほんまにいいタイミングで、いい大人に出会いました。あそこで怒られてなかったらあのままやったと思うんで、そういうヤツでよかったです。
なかむら:穏やかになったのはいいことなんですけど、『さようなら花鳥風月ライブ』(注:ニューヨークのYouTubeチャンネルが発端で起こった、神保町所属芸人たちによるいろんな事件をおさめようというライブ)では、僕らだけなんの揉めごともなくて盛り上がれなかったんですよ。みんなと仲いいのはいいことなんですけど、あのライブに関しては(話題になることがなくて)変な汗をかきました。
京極:今は誰とも揉めてないですからね。僕も昔どうやってたんか、揉め方を忘れちゃいました。しかも、後輩からやっと出てきた“京極が嫌い”っていうエピソードが、一緒にゲームしてるときに……みたいなもので。
なかむら:一緒にゲームしてるって、まず楽しいところからのスタートやもんな。
京極:ほんまにそう。僕らのパートだけ、正直、全然盛り上がってなかったですね。
■9番街レトロ
2019年結成。京極風斗(左)となかむらしゅん(右)のコンビ。
2020年に第1回北河内新人お笑いコンクール 最優秀新人賞を受賞。
■撮影協力
浅草花やしき
東京都台東区浅草2-28-1
FEBRUARY KITCHEN
東京都台東区浅草2-29-6 天野ビル 1F
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ライター/高本亜紀 撮影/越川麻希
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