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「私にはR-1しかないんです……」3年ぶり決勝に挑むゆりやんの決意

4年連続決勝進出から2大会不参加を挟んで、ゆりやんレトリィバァが『R-1』に帰ってきた。一時期は「絶対に優勝しなければならない」と思いつめて、他人に怒りの矛先を向けたこともあるという彼女が、再びこの頂点を目指す理由とはなんなのか? 今大会に賭ける思いを聞いた。

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観客投票にすら腹を立てていた日々

——『R-1グランプリ』決勝進出おめでとうございます。

ありがとうございます、嬉しいです。

――昨年夏のぼる塾との対談で、「2年くらい前まで『R-1勝たないと人生終わりや』って思っていた」、「『全員に勝つ』としか思ってなくて、とにかくキレまくってた」と仰っていました。普段メディアで拝見してると自由奔放なキャラクターのイメージがあったので、意外だったんです。

そうですよね、怖いですよね。2015年から2017年の中盤くらいまで、どんどんヒートアップしてブチギレてました。

――なぜそんなにヒートアップしていたんでしょうか?

NSCで首席とって……あ、本当は歯石とっただけなんですけどね(笑)、ありがたいことに同期のみんなよりチャンスをもらうのが早かったんです。でも別に自分には何もないから、一生この状況が続くわけじゃない。できることをやらないといけないと考えたら、やっぱりネタだな、というのは2013年にデビューした頃から思っていました。

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2015年に初めて決勝にいけて嬉しかったんですけど、「このファイナリストの名刺は長くて1年しか使えないな」って思ったんです。でも結局2016年も優勝できなくて、3度目こそ優勝しないと意味がないと思いました。それに向けて毎日『R-1』のことばっかり考えていたら、「とにかく絶対優勝」って思いが強くなりすぎました。
あるまじきことなんですけど、ほかの人に矛先を向けてしまっていましたね。劇場ではお客さん投票のバトルライブに出ていた時期で、「どうせ女の子のファンやから自分の好きな人にだけ入れてんねやろ、だから女芸人の私に入れへんねん」って勝手に腹立てて……ありえないですよね。劇場で一緒に戦ってる人たちがただ面白いからウケてるだけなのに。愚かでした。

――その状態から抜け出せたのは、何かきっかけが?

2016年末にブルゾンちえみちゃん――今は藤原史織ちゃんですけど――が大ブレイクしたんです。同い年で海外志向で面白くて、私がやりたかったことはまさにこれやん、って思いました。だから絶対勝たないといけないって、誰もそんなこと言ってないのに勝手に焦りました。怖くて、毎日悪夢ばっかり見てましたね。

それでしんどくて先輩に相談したら、「ライバルのことは考えなくていいんだよ」って言ってくださったんです。「ライバルにめっちゃ仕事があるからってゆりやんの仕事がなくなるわけじゃない。逆に、もしライバルの仕事がゼロになっても、ゆりやんがやることやってなかったら自分もゼロになるだけやから。自分は自分やん」って。そのとき、本当にハッとしました。「ほんまや」って。人は人、私は私であって、自分は自分で楽しんで頑張ろうと思えました。

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「ゆりやんはネタの人じゃないからなぁ」

――『R-1』で結果を出すことへの執着が強くなったきっかけとして「自分には何もない」と思ったから、という話が最初にありました。その「何もない」って、どういうニュアンスなんでしょう?

ネタが面白いことももちろんそうだし、賞レースで勝っているとかMCができるとか、漠然と「結果出してる人」みたいなことでしたね。あのー……嘘みたいなことを言うんですけど……今はすべての人が素晴らしいって思うんです(笑)。ネタに限らず、特技とかも全部芸事にリンクするって常々感じるんですけど、当時はそんなことに気づきもしてませんでした。とにかく自分には何もできない、と感じてたんです。

その状態からネタを頑張ろうと思ったのは、舞台でのネタ終わりにある人に感想聞いたとき「あそこはこうしてみたら? でも、ゆりやんは別にネタの人じゃないからそんなん考えんでええと思うけど」って言われたのもきっかけのひとつかもしれません。「あ、私ネタ好きやのに、ネタの人じゃないと思われてるんや。それは嫌やな」って思ったんですよね。

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――今となっては誰しもが「ネタの人」だと思ってますよね。

いえいえいえいぇいェイェイェイ……すみません、喜んでました。

――(笑)。ネタ番組で見ていても、どうウケをとろうとかではなくて自分が面白いと思ったことをやりきるパワーがすごいなといつも思います。

RGさんとなかやまきんに君さんと、藤崎マーケットのトキさんを大尊敬してるんです。どんなときも常にずっと何かやってくださって、その背中を見ていて「私もこうなりたい」と強く思ったのを覚えています。

――なんとなくわかる気がします。RGさんとゆりやんさんはファイトスタイルが似ているな、と重ねて見ているところがありました。

嬉しい〜。まさにそうですね。スタイルの面で、おこがましくも勝手に尊敬してます。トキさんはどんなに腹立つことがあっても全部「……おもろ」って言うんですよ。私もそうなりたいと思って生きてます。

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――一方で、これだけ売れていても賞レースにこだわる理由はどこにあるんでしょう?

2019年と2020年は違う気持ちでやってみようと思って『R-1』に出場しませんでした。でもやっぱり……(膝に肘を置いて)私には『R-1』しかないんです。

――山田勝己……?

(笑)。2年の間に考えて、やっぱりこれしかないなって。ずっとここで優勝したいと思ってやってきたことをあらためて再確認しました。今年こそ絶対優勝したいです。

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勝手に「自己肯定感強い人」と思われてる

――楽しみにしています。そして話が変わりますが、ゆりやんさんは以前からファッション誌や女性誌に出る機会が多いですよね。特に最近は「ポジティブ」、「自分らしさ」、「自己肯定感」といった文脈で取り上げられることも増えていると思います。

なんか、女芸人で元気で太っててブサイクで、ってなると勝手に「自己肯定感強い人」みたいに思われがちなんですよ(笑)。「自分を認めて受け入れて生きてる」みたいに想像されてるんですけど、そういうわけでもないです。トレーニングを続けたことで今は「こんなにしんどいことしてるのに自分を卑下するのはダメや」とか「もっと自分を可愛がろう」ってちょっとずつ感じられるようになってきました。でももともとは自己肯定感めちゃくちゃ低かったです。

長所と短所を書く欄があったら、短所はスラスラ書けるんですよ。でも長所は全然書けない。誰に見せるわけじゃないものでもそうでした。好きな人にも「無理やって」、「もうええわ」とか言われるほうが嬉しかったし。逆に優しくされると「気持ち悪」、「こんなヤツにそんな優しくするのおかしいで」って思ってましたね。

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――そのあたりはトレーニングを続けて変わってきた、と。過去のインタビューでも「恋愛観が変わった。無理に相手に合わせなくなったと思う」と話していましたね。

無理やったら無理、嫌なもんは嫌って言わないと、って思うようになりました。私、本当に動物が無理なんですね。遠目で見る分には可愛いと思うんですけど、触るのは怖くてできないんです。でも以前は好きな人が犬好きやったら「可愛いですね」って触ってました。今なら「可愛いけど怖いから触られへん」って言わないと自分がしんどいだけやな、って。

――そういうふうに自分の感情を大事にするようになったことで、仕事なりプライベートなりでいい影響はありましたか?

えらいもんで、めちゃくちゃもてるようになりました。荷物が。

――“もてる”の字が違うやつ……。

手偏のほうでした(笑)。えらそうに言いましたけど、恋愛面は大きな変化はないです。でも前みたいに、ボロ雑巾のように扱われても立ち上がって追いかけるようなことは絶対しないですね。

あとは最近、人間ドックに行って、麻酔なしで胃カメラの予約しちゃったんです。ほんまに逃げ出したくなるくらい痛いし気持ち悪いししんどすぎたんですけど、いつもトレーニングのときに「いつかは終わる」、「痛い痛い騒いでも終わらない」って思ってるので、その応用で乗り越えられました! 意外なところで役に立つもんですね。」

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【衣装協力】
ブルーワンピース、シースルーワンピース(共にloud-air)、イヤリング(critical:lab)、スニーカー(mikiosakabe)、その他スタイリスト私物

loud-air

critical:lab

mikiosakabe

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レッドリボントップス、レッドパンツ(共にloud-air)、イヤリング(critical:lab)
その他スタイリスト私物

critical:lab

loud-air

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【衣装協力】
シャツ、カーディガン、ショートパンツ、ロングパンツ、サンダル(すべてMSGM)
その他スタイリスト私物

MSGM


ゆりやんレトリィバァ プロフィール
2013年 NSC大阪校 35期生 首席卒業。特技は英語、ダンス。
2017年 2月 第47回NHK上方漫才コンテスト 優勝
2017年 12月 NTV女芸人NO1決定戦 THE W 優勝
2018年 11月 Amazon prime「ドキュメンタル シーズン6」優勝

インタビュー動画 「BEHIND THE STAGE」

ゆりやんレトリィバァINFO

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ライター/斎藤岬 
撮影/越川麻希
スペシャルインタビューMOVIE:CAMSIDE
ヘアメイク / 岩澤あや
スタイリスト / 山本杏那



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