見出し画像

メルヘン宇宙~いろんな星のショートショート~ オフローズ・宮崎駿介

神保町よしもと漫才劇場所属 オフローズ・宮崎の連載第六回。
いろんな星で起こるお話を一回読み切りで展開していきます。
今回は、ある星に降り立った”星ソムリエ”のお話です。

第六回 『星ソムリエ~三つ星の星~』


私はこの道40年の星ソムリエ。

今まで星の数ほどの星に星をつけてきた。
ある星は星のためにワイロを寄越し、またある星は星のために銃を突きつけ、またまたある星は星のために泣いた。

それほど私がつける星には価値がある。

私は、札束で顔をはたかれようが、銃口を口に突っ込まれようが、涙の洪水に溺れようが、すべて諦めさせ、頑なに私の信じる評価基準に則って星に星をつけてきた。

私が星を評価する基準は5つある。


①技術の高さと完成度

この星に降り立った瞬間、私はむすっとした顔で次のように思った。

(すっげぇ!建物でっけぇ!SF映画みたいだぁ!しかもなんか良い匂いするぅ!こんな星あったんだぁ!星三つだぁー!)

私はこの星で最も有名な歴史ある厳かなスゴいバーに入り、バーテンダーにおすすめの酒を頼んだ。バーテンダーは私が異星人であることをすぐに見抜き、この星のとっておきのカクテルを出した。私はそのカクテルをひとくち飲み、仏頂面で次のように思った。

(おっいしぃ!なにこの液体、おっいすぃ!なんか見たことない色してるしぃ!いくらでも飲めちゃう!星六つだぁー!)

私はカクテルを転がしながらバーテンダーにこの星のことを問う。最初は観光の話ばかりだったが私がしつこく問い詰めると、バーテンダーは諦めて、この星の明るく綺麗な部分に隠された深く暗い闇について語り出した。
私はメモに書いた九つの星のうち一つをとりあえず消しゴムで消し、店を後にした。


②独創性

バーテンダーの言っていた地区に来ると私はふざけて書いた星を全て消した。なぜなら私は無表情で次のように思ったからである。

(ここきったねぇ!なんかアレの臭いするぅ!うんこぉ!うんこのおいにぃ!さいあくぅ!帰りたぁ!)

私が道の真ん中でぼろ家を眺めていると路地から少年がもの凄い勢いで飛び出してきた。その少年はなにかに追われている様子で大きなテントウムシのようなものを抱えている。

少年が別の路地に消えたすぐあとに如何にもガラの悪い大人二人組が私に少年の行方を尋ねた。

私は無愛想な顔で次のように思った。

(さっきのでっかいテントウムシ気になるぅ!あんなのはじめてぇ!持って帰りたーい!)

私は質問の答えを適当にはぐらかし、二人が諦めると、少年の後を追った。


③コストパフォーマンス

少年は意外なところで見つかった。
誰もいない大きなプールの真ん中で大の字になって浮かんでいる。私は少年に聞こえるように大きな声で問いかけた。

少年は私に気付くとクロールと平泳ぎを足して背泳ぎを引いてバタフライで割ったような泳ぎ方で私と反対のプールサイドに上がろうと急ぐ。

私は殺風景な顔で次のように思った。

(ちょっとなんでぇ!なんで逃げるのぉ!やさしくするからぁ!逃げないでぇ!)

私が大人の足で少年が泳ぎ切る前に反対側に到着するとそれに気付いた少年はすぐに踵を返し私のいない方向へ泳ぎだした。

それを見た私は再び反対へ、それを見た少年は再び反対へ、それを見た私は……しばらく繰り返しても少年が諦める様子はない。

私は能面のような顔で次のように思った。

(しんどいもうむりぃ!)

私と少年の攻防を見ていたらしいプールの管理人が私に声をかけた。私のいないプールサイドに少年が上がるのを見届けながら私は管理人の話を聞く。

なんでもあの少年は親を亡くし、家を無くし、そのうえ少年自身が借金の形となり追われているという。

管理人が諦めたので、後味が悪いまま少年の向かった方に急いだ。


④素材の質

私はこの星で一番大きな公園の中にいた。少年の姿は見失ったが、先ほど見たテントウムシの出所はこの公園に違いない。

私はすれ違う人々を諦めさせながら、公園の奥へ奥へと進んでいった。

進みながら私は生気のない顔で次のように思った。

(これで見つかったら運命じゃなぁい!こっちな気がするぅ!あの子が呼んでる気がするぅ!)

しばらくすると周りの木々よりも一回りも二回りも大きい葉っぱを持つ巨木にぶつかった。巨大な葉っぱをなんとか裏返すとこぶし大のアブラムシのようなものが大量にくっついている。アブラムシはテントウムシの好物だ。

私は巨木を注意深く観察し、ついに一匹の大きなテントウムシを見つけた。私は人懐っこいテントウムシを撫でながら表情を変えずに次のように思った。

(うわっ!すべすべぇ!かわいー!あー食べちゃいたい!)

長い時間大きなテントウムシを愛でていると、草陰から少年が顔を出し、笑顔で私に近づいてきた。

少年は、このテントウムシは良い人間にしか懐かないのだ、と無邪気な笑顔で言う。

少年の話を聞きながら、私は少年に負けない満面の笑みで次のように思った。

(いただきますぅ!)

少年には後がなかった。


⑤一貫性

私に心を許したからか、少年はいともあっさり諦めた。少年を食べ終わると、私はこの星に来てから食べたものを思い出す。

いろいろ食べた中でも最後の少年がこの星の一番だ。私はこの星の評価を決める。

三つ星だ。

背中に星の無い大きなテントウムシを抱え私は帰路に就く。
私が三つ星をつけたからには、銀河中の美食家たちのこの星への来訪が後を絶たないことだろう。


挿絵⑥

■オフローズ
2016年結成。カンノコレクション、宮崎駿介、明賀愛貴のトリオ

著者/オフローズ・宮崎駿介
絵/オフローズ・明賀愛貴

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?