「換気扇」「虫けら」(2323/12/04)

 皆様、いかがお過ごしか。
私は今、自分を呪っている。前世で悪事を働いた自分を。
 私は神を信じていなかったし、もちろん仏も信じていなかった。ましてや輪廻転生なんか知りもしていなかった。
 今になって先人の言うことは聞くべきなのだと身に染みている。

 人間として悪事を働いた私は、六道輪廻の考えに則りきちんと畜生道に落とされてしまった。
 蝿として生まれ変わった私は、人間時代とはうってかわって至極真っ当に生きてきたつもりであるが、やはりこの世界は畜生に厳しい。
 人間の頃にはなんとも思っていなかった換気扇が、虫けらである今の私にとっては別の悪道への入り口にしか見えないのである。

 体と同じくらいの大きさがある2枚の翅をこれでもかと震わせ、ただひたすらに前だけを見て進もうとしている。
 しかし、1匹のちっぽけな虫けらの力ではやはり人類の道具に敵うはずもなく、じりじり、じりじりと高速回転する4枚の羽根の音が近付いている。
 首を断つギロチンの刃とはこうも大きく、鋭いものなのか。どんどんと音も大きくなる。
 友人たちもこの数秒でどれほどいなくなったことか。まだまだ音が大きくなる。
 人間の頃を思い出すと、換気扇が虫を追い出すイメージはなかった気がする。換気扇の口がすぐそこに迫る。
 となるとあの断頭台を免れる可能性は充分にあるのでは。身体を震わせているのはこの大きな音か、それとも恐怖か。

 ふと、景色がゆっくりとなる。今この瞬間になって初めて、冷静に目の前を見渡すことができる。
 四畳一間であったのかとか、家主はおっさんであったのかとか、生きるにはどうでもいいんだろうが、でも知ろうともしなかったのだと、なんだかひどく猛省が始まって、そういった自分を自分のま

お題提供:ピカソケダリ メロス(換気扇)/ポポポ(虫けら)

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