「テトラポッド(消波ブロック)」「ガス代」(2023/11/27)

「テトラポッド売ってます」
 くたくたの段ボールに黒い油性ペンでそう書かれていた。

 海岸沿いの道路に面した何かの工場のような建物のガレージで、とても清潔とは思えない風貌の初老の男性が座っている。
 男性の目の前には広げられたブルーシートと、手のひらサイズのものからキャリーバッグほどはあろうかというくらいのものまで大小様々なテトラポッドが乱雑に置かれている。テトラポッドの露天商と言った具合だ。
 私は思わず声をかけてしまった。
「おっちゃん、これ何?」
 すると男性は嬉しそうに答える。
「何って、テトラポッドやん。海岸にいっぱいあるやつ。かわいいやろ?買っていかんか?」
 私はその男性の笑顔を見て、悪い人ではないと直感した。
 それでいて少し可哀想であるし、人助けだと思って一つ買ってみようと思い立つ。
「じゃあ、一個もらおっかな。」
 男性はまた笑顔になる。
「おおきになぁ。これでおっちゃんやっと風呂入れるわ。ずっとガス代払えてなかってん。」
 その言葉を聞いて、私も嬉しくなる。人助けだと判断した自分を褒めてやりたい。

 お金とテトラポッドを交換し終え少し世間話をしていると、どこからかスーツ姿の二人組の男女がやってきた。
「すみません。テトラポッドを販売していると聞いてきたんですけども。」
 初老の男性は答える。
「ああ、売っとるよ」
 それを聞いて男女二人組は顔を見合わせ、いそいそと名刺を差し出した。
「私どもは、株式会社〇〇〇〇〇の者でございます。テトラポッドというのはですね実は私どもが商標登録をしておりまして、テトラポッドという名前を使って商売をすることは権利侵害にあたります。」
 突然の訪問と共に衝撃の事実を突きつけられた初老の男性は開いた口が塞がらない。
「権利侵害って……」
 スーツの男は続ける。
「つきましては、今後一切のテトラポッドという名称の禁止と、今までの売上の提供を約束していただけるなら、この事実は無かったことにしようと思うのですが、いかがでしょう?」
 初老の男性は肩を落としつつ、渋々納得した。
「わかった。またガス代払われへんのか……。もう波に打たれるのはいややなぁ。」



お題提供:ピカソケダリ メロス(テトラポッド(消波ブロック))/ポポポ(ガス代)

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