「足枷」「冷気」(2023/12/07)

 牢獄は冷える。
 とめどなく流れてくる冷気だけでも耐え難いというのに、体制を変えるごとに触れる足枷がヒヤリとして、眠気を散らされる。

 うまく寝付けずにいると柵の前から微かな声がした。
「ギャバン、起きているか」
 ひどく弱々しい声の主は親友、イサクだった。
「イサク、なんたってこんなことを」

「すまない、ギャバン。私には妻も子もいるのだ。詳しくは話せんが、これは"政治"だよ」

「……となればもちろん私は死刑か」

「本当にすまない。せめて私だけは後を追うつもりでいる。すまない……」

 イサクがここまで消耗している様を見るのは初めてだった。

 私は、幾度となくこの男に助けられてきた。
 それに私には守るべき家族もいない、忠誠を誓った国王ももういない。
 政治に利用されるのは癪だが。

「わかったよイサク。君が死ぬ必要はない。家族を守ることだけを考えてくれ」

「いいや、これでは君を売っただけだ」

「違うよイサク。これは君への恩返しだ。金細工職人の君と違って、私が持つ資産はこの命しかないのだよ。」


お題提供:ピカソケダリ メロス(足枷)/ポポポ(冷気)

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