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クレバス2020 創作ノート① 大きなことのなかの小さな私達

シアター風姿花伝にて、9月27日に初日を迎える劇作家女子会。feat.noo公演、クレバス2020こと『It’s not a bad thing that people around the world fall into a crevasse.』

本作はタイトルが長いだけでなく、登場キャラクター総勢41名、場面が71場もあるボリューミィな脚本。
元々は作家のモスクワカヌが(つまり私ですが)、2020年5月7日から6月25日までnoteで連載していた「毎日1本、50日間連続で、家で1人で誰でも演じることが出来てスマホがあれば撮影も配信もできる1人芝居を書いて公開する」という企画で発表された50本の脚本が原型になっています。

※本公演の脚本は以下のリンクから閲覧ができます。
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/item/Itsnotabut.pdf

noteの企画は元々、緊急事態宣言による自粛期間中、演劇の映像配信が盛んになりだした時期に、映像配信のスキルや機材がなく、そうした流れに取り残されてしまう俳優が自宅で1人でも演じられる脚本を書けないか、という友人との会話から立ち上がってはじまりました。
試しに自分の身近なところで起きていることを題材に書いてみたら楽しくて、1日で7本くらい書けて、「おお、なんかこれはいいな」とワクワクしたのを覚えています。

2020年のあの頃、仕事も外出の必要もなくなって日々の生活は穏やかでしたが、演劇という面に関しては、私自身には動画編集の技術も機材もなく、色んな人に声をかけて配信のための演劇をつくるパワーもなく、コロナ以前の演劇からもコロナ以降の演劇からも取り残されたようにぼんやりしていた時期だったので、そんななかで自分が毎日楽しくできることを発見できたことにもテンションがあがりました。

ちょうど緊急事態宣言中。
どうせ書くなら、自分が生きている「今この時」「この時代」「この空気」について書こうと思ったのは、特に大きな動機やきっかけがあったわけではありません。

「2020年3月以降の日本の人々の生活を書く」というコンセプトは、ごく自然な思いつきのように自分の中から湧きでてきました。

世界中が未曽有の事態に直面しているなか、後世の人々が振り返るための公的な記録や歴史の教科書に載るような出来事は、おそらく多くの専門機関が記録します。

だけど世界の危機のさなかでも、朝起きてご飯を食べて仕事に行ったり、仕事を失くしたり、誰かといたりいなかったり、家や路上やネカフェ等で生活していたり、ステイホーム出来たりできなかったり、そもそもコロナ禍の前から非常事態を生きていたりしている1人1人の話は、世の中の大きな流れのなかで簡単に見えなくなってしまう。

私自身も含め、ほとんどの人は何にもなれないまま、まるで最初からいなかったみたいに死んでいく。それでも自分達は取るに足らないものではないというぼんやりとした信頼のようなものが心を去らない。書くのなら、そんな小さな個人の話を書きたいなと思いました。

外出自粛の期間中ではありましたが、同居している友人や、都内から避難してきた友人、ZOOMやLINEで飲み会をする友人や劇作家女子会。のメンバー、ふとしたご縁で知り合った若人から話を聞いたり、ニュースや散歩中にすれ違った道行く人達の会話にヒントをえたりしながら、たまに「間に合わなーい!」と言いつつ、おおむねあまり苦しまずに50作品を連続で書き上げることが出来ました。


本作はフィクションではありますが、私自身や話を聞かせてくれた人々の実体験がエッセンスとなっています。

普段戯曲を書く時は自分1人の作業になることが多いのですが、自分1人での創作にこだわらず、大勢の他者の目や言葉を通して見えてくる世界を書かせてもらいましたが、それを言葉や文字にするということは、水のかたちを定めようとするのと同じくらい無謀なことなのかもしれないな、と思います。

世界も時間もあれからどんどん流れて行って、見え方や捉え方が刻々とかわっていく。

それでも、書くということ、書かせてもらうということには、自分の枠を超えて世界や他者の心のすごさに触れたと思える瞬間を、幾つも私にもたらしてくれました。

この作品に参加してくれたインタビュイーの方々と、今参加してくれているスタッフキャストの皆様。
そしてクラウドファンディングでのご支援や観劇で関わってくださる方々に、感謝しているのはもちろん、とてもワクワクさせてもらっております。

演劇という形で上演の目途がたたない時期に書かれた本作はどんな舞台になるのか、私も本当に楽しみです。

【公演情報】
劇作家女子会。feat.noo クレバス2020
It's not a bad thing that people around the world fall into a crevasse.

作:モスクワカヌ(劇作家女子会。) 
演出:稲葉 賀恵

◼️公演日程:
2023/9/27(水)~10/1(日)

◼️会場:シアター風姿花伝

チケット取り扱い

Confetti(カンフェティ)

公演特設サイト


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劇作家女子会。は「死後に戯曲が残る作家になる」を目標に集結した、坂本鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌによる劇作家チームです。 演劇公演やイベント、ワークショップ、noteで対談記事を公開する等の活動をしています。 私達をサポートして頂ければ幸いです!