【劇作家女子会。のQuest① 座談会】「何かをなそうとする女性はジャンヌ・ダルクになるべきか」

劇作家女子会。のQuest①として、劇作家女子会。は、演劇の現場で使える、オープンソースの(web上などで公開され、誰でも自由に利用できる)ハラスメント防止のためのガイドライン作りを目指しています。
色んな劇団で、或いは現場ごとに自由に使用ができるガイドライン作りのために、私達は何を知り、何を考え、何を実行していくべきか。
その答えを探すために、私達はこれまでに、演劇の現場で活動している様々な方々からお話を伺い、思考を重ねてきました。
このQuestでは、これまで私達と話し合ってくれた方々との軌跡を、対談記事として順次公開していきながら、ハラスメント防止のためのガイドライン作りを目指していきます。

劇作家女子会。のQuest①「演劇の現場で使える、オープンソースのハラスメント防止のためのガイドラインを作ろう!」
第3回目は、予定していた記事の公開が見送りになった件をふまえて、ここまでインタビューを続けてきたことで劇作家女子会。が考えたこと等を座談会形式でお送りします。

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劇作家女子会。リモート打ち合わせ中の写真。

■公開を予定していた記事の掲載見送りとその経緯について

坂本 「演劇の現場で使える、オープンソースのハラスメント防止のためのガイドラインを作ろう!」にむけた勉強会。第3回目の今回も、モスクワカヌがインタビューをさせて頂いた方との対談記事を掲載する予定だったのですが…。

モスクワカヌ 記事の公開直前に、インタビューをさせて頂いた方から「記事の公開を見送ってほしい」という連絡があったんだよね。で、その経緯もふまえて、これまでインタビューを続けてきたなかで劇作家女子会。の私達が考えたことを、話し合ってみようということになりまして。

坂本 今回は劇作家女子会。の座談会形式でお送りします!

黒川 そもそも、記事の掲載見送りについてはどういう経緯だったの?

モスクワカヌ そうですね。あまり詳細な説明はできないのですが、第3回目の記事に登場してもらう予定だった方は、過去に自分の劇団でパワハラ加害者になった経験がある、という自覚のある方だったんです。

黒川 ほうほう。

坂本 ハラスメント加害者の経験がある、という意識のある方だったのね。

モスクワカヌ そうそう。その方は、今は自身のその経験をふまえて、演劇界のハラスメント問題を改善しようという取り組みにも参加されています。劇作家女子会。としては過去から現在までの経緯を踏まえて、インタビューをお願いしたんです。やっぱり話をしてくれるハラスメント加害者の方って少ないし、意義のある話になると思ったから。

坂本 そうだよね。意義のあるインタビューだったんじゃないかなと思う。

モスクワカヌ ただインタビューを記事にして、内容の確認をお願いした時点で、その方から掲載見送りの打診があったんです。

オノマ そうね。その方のお話では、インタビューを受けた後であらためて「以前加害者側に立ってしまった自分の立場から、ハラスメントについて何か発信する資格があるのだろうか」という点に立ち戻ることがあったみたい。

モスクワカヌ 元々記事には、その方が以前加害者となってしまったハラスメントの案件については、詳細を記載しない方針でした。それについても、「自分が加害側であったことを抜きにして、対談でお話したような内容を語ることは出来ない」という思いが生まれたとお話がありました。かといって、記事で案件そのものをつまびらかにすることも難しい状況で。

オノマ 私たちも全てを把握しているわけではないのですが、色々と決着がついていないみたいですね。

黒川 そうか。解決していないのか…。

坂本 まあ、ハラスメントの問題って、そもそも解決するのかって話もあるけれど。 

モスクワカヌ 個人的には、その葛藤や掲載の可否についての議論も、すごく意義のあるやり取りだとは思ったのね。でも現時点では、記事の公開は難しいのかなって考えてる。

オノマ ハラスメントが起こった現場では、被害加害だけでなく、それこそ大勢の人間の色んな関係性があるよね。当事者達の間での解決、というかある種の合意、決着がついていないのなら、対談記事の掲載は難しいかな…。

坂本 私、演劇の現場でハラスメントの加害者になった経験のある人って、けっこう多いと思うのよ。自分の劇団とかもってて、そのなかでパワーを振るってしまったみたいなことは。過去にそういう加害をしたことを踏まえて、今ハラスメントについてこう思っている、という話は、すごく大事な話だなと思うから、その話をお蔵入りにするのはもったいないけどね…。

オノマ 匿名にして公開するという方法も考えたけれど、それこそ現場にいた関係者の人達は読めばわかると思うし。ハラスメント被害者の方や関係者に対して、不誠実な内容になる可能性がある。いずれ何らかの方法で形にしたい気持ちはあるけれど、今webに掲載することは出来ないね。

モスクワカヌ うん。掲載見送りの打診をもらった時…、もちろん記事にするまで時間もかけているし、企画がストップしてしまうことへの焦りや危惧も感じたけれど、インタビュイーの方が、対談に応じてくれたことであらためて得た考えであるとか思いとか、実際に起きているハラスメントのデリケートな部分とか…それをないがしろにして企画の進行を優先させることは出来ないなと思いました。だから今回は、記事の公開が難しくなった経緯やこれまでのインタビューをふまえて、私達が考えたことを話し合えたらいいなと思う。

黒川 そうだね、私達も一度立ち止まって話し合うのはいいことだと思う。

坂本 そうね。今回の記事の掲載見送りや新型コロナウイルス(※1)の影響もあって表にはまだ出せてないけれど、なんだかんだ色んな人にお話を聞いてきているものね。

オノマ ちょうどいいから、自分達でも、それを振り返る時間をとりましょうか。


■インタビューを続けてきて、今私達が思うこと

オノマ ここまで、色々な方にインタビューを続けてきましたが、皆さんいかがですか?

黒川 私は、そもそも自分がハラスメントを比較的受けにくいタイプであったりとか、公演でも主に脚本だけを担当することが多くて、あまり現場に長くいた経験がなかったんです。だから演劇界のハラスメントについてはほとんど自覚的じゃなくて。だから石原燃さんの対談(※2)とかでも、私はほぼ喋ってないんですよね。

坂本 そうだったね。

黒川 自分の意識の低さに「あっ!」てなったっていうのが、この企画を始めた最初の印象でした。これだけ演劇界としても大きなトピックになってきているけれど、自分の中ではいまいち問題がある、という意識がされてなかったし、 傍観者だったなぁというのがすごく感じたことでしたね。リコさんはどうですか?

オノマ そうですね。私も陽子ちゃんと同じように、自分自身が直接的なハラスメントを受けたことはあんまりないと言うか…。 さっき陽子ちゃんがハラスメントを受けづらいタイプだって言ったけれど、私もそうなんだと思う。面と向かって行われるハラスメントには、体格とか、目つきとかも関わってくるよね。でも、その自分がハラスメントを受けにくい要素をもっているということを、皆と話していて気が付きました。

坂本 リコちゃんに面と向かってハラスメントはしにくいと思う、確かに。

オノマ それもあって、今までの意識が低すぎたなと思うことがあるし、演劇団体の主宰をやってるから、 私の知らないところで座組内に何かあってもおかしくないんだな、ということもすごく思いました。

坂本 確かに。

オノマ 後は…何か言おうとしてて忘れた、何だっけ?   あ! 教育関係だ。

坂本 よかった、思い出して。

オノマ 私は自分の団体「趣向」で、「趣向ジュニア」(※3)という高校生くらいの年代の人と演劇を作る企画を続けています。そこでは、ある問題や課題について、彼らが考えることや、現実に体験したことを話してもらう、それをフィクションのなかに取り入れて戯曲にするということをやっている。だけど、その作り方に「危なさ」を感じることもあって。

坂本 「危なさ」ってどういうこと?

オノマ 作り手としては、作品のために俳優に無理やり話をさせることと、 自主的に話してもらった内容を作品にすることは全然違う。けれど、自主的に話してもらうにしても、私は年上だし、劇作家だし、そのことに圧を感じることはあると思う。これが「危なさ」の一つ目。若い人と一対一にならないように、若い人が話したくないことを話さないように、注意しているけれど、それでもガイドラインと、他の対等な大人の目、私の現場を注意して見ている目がほしいなと思いました。
そして、それにしても観客からの見え方としては同じななんじゃないか、ということが「危なさ」の二つ目。

坂本 うん?

オノマ 観客の側からすると、若い人が主体的に自分の話をしているのか、作品のために演出や主宰に無理に話をさせられてるのか、舞台で上演されているものを見るだけでは区別がつかない。だからお客様によっては「暴力の現場で自分も加害者になっているのでは?」という気持ちになる。これは以前、「趣向ジュニア」を見た方からそういうコメントがあってね。

モスクワカヌ 私も「趣向ジュニア」の公演にはお手伝いのような形で関わることが多いのだけど、高校生が自身を当事者として話す内容のなかには、けっこうヘビーなものもある。

オノマ まずは演じる彼らが守られるような配慮が必要。でも、見る側が安心して観劇できる工夫ももっと必要なんだなと思った。

黒川 「見る人が安心できるように」というのはどういう意味で?

オノマ 彼らの語るものが劇作に影響を与えることもあるけれど、ラインを越えて作っているわけじゃないってことは、パンフレットに注意書きをするとか、何か提示した方がいいんだろうな。

モスクワカヌ 観劇をする人に、「この作品を見ることで、自分がハラスメントに加担しているのではないか?」と心配させないようにってことだよね?

オノマ うん。あとやっぱり高校生達にとって、自分は権威だから。パワーをもってしまうから。作品づくりのために彼らを利用したり搾取するようなことにならないよう、すごく自覚的でなくてはと思いましたね。ガイドラインを作ります。自分のために。鈴さんはどうでしょう?

坂本 私はねー、もともとハラスメントには関心が高い方だったから。自分が受けやすいし、人にもやってしまいがちな立場だし。なんかいちいち「そうだよねそうだよね、そうしていけばいいんだな」ということを色んな人と話せたり、共有できたりしたのかよかったというのがある。

黒川 うんうん。ハラスメントへの感度とか意識のたかい人たちと話を聞けたのはよかった。

坂本 そして同時に、発信するのが大変すぎる、ということも思いました。

オノマ それは、ハラスメント被害を受けた時に被害者側が発信するのが大変ということ?

坂本 いやそうじゃなくて、我々が記事を作ること。今回記事の掲載を見送ったこともそうだけど、 やっぱり内容がデリケートなことすぎるし、誤解も受けやすいし。私たちはずっと「楽しくやろうよ」という感じで劇作家女子会。をやってきたけれども、この企画に関しては、 楽しく見えるというのはあまり良くないんだろうなとか。

オノマ なるほどね。

坂本 なんかそういうことを考えてやってきたことが、私たち今まであまりないじゃない? だからすごい難しいなと思ったわ。

オノマ そうですね。私たちの記事に「楽しそうすぎる」というダメ出しを頂いたこともあったしね。

坂本 そうそう。劇作家女子会。は「集まって楽しくやろう 」ということがコンセプトだったけれど、そういう持ち味からだんだん離れていってしまうんじゃないかと、心配もしていて。もちろんハラスメントはシリアスな問題だし、真面目に取り組んでいくべき課題だけれど、私たち、劇作家女子会。のコンセプトは大事にしたい。そういう矛盾というか、相反するものを抱えながらの発信は大変だなって思ってる。

黒川 ワカヌちゃんはどう?

モスクワカヌ この企画、私が言いだしっぺなんですよね。私自身が演劇に関わる現場でハラスメント被害にあったことがあって、当事者性が高い側にいる。だから始める前は、 自分がこういう企画に取り組むことには意味があるだろうと、何て言うんだろうなぁ、割と自信みたいなものがあったんです。でも 、この企画の絡んだ行き違いというか、私の配慮不足が招いたことなんですけれど、問題が起きて年末に体調を崩してしまった時(※4)、正直一度心が折れたというか…間違いだったと思った。

黒川 間違いだった?

モスクワカヌ ハラスメント問題のような、デリケートでまだ解決が見えないような課題について、 やる気があるというだけで心身が弱い自分が取り組むのが果たして正しいのか」という迷いがでちゃって。

オノマ 大変だったよね、年末年始。

モスクワカヌ 鬱でまったく動けなくなってしまって…。こんな自分が取り組んでいいことじゃなかった、自分はこの問題の解決や改革のために行動している人たちの足を引っ張るだけの存在なんだと思いつめてしまったんだよね。今は一番状態がひどい時ほどじゃないけれど、正直またいつ動けなくなるかわからない、こんな自分が始めてしまってよかったんだろうかみたいな迷いは…正直、今も迷ってます。こういうことは、強い人が取り組むべきことだったんじゃないだろうかって。


■何かをなそうとする女性が、ジャンヌ・ダルクにならなくてもいい

オノマ ワカヌちゃんのいう強さっていうのは心身ともにタフってこと?

モスクワカヌ そうですね。ハラスメントは被害があって加害があって、解決されてない問題がたくさんあることですから、問題意識をもって関わっていると、どうしても色々言われることがあるし、思い通りにいかないことや理解されないことだってある。それに対していちいち凹んでたりとか、私みたいにパニック起こして鬱転してから一か月以上動けません、みたいなことになっちゃうと、ダメだなあって。

オノマ ダメかなあ?

坂本 ダメじゃないよ!

オノマ 一か月動けない時は一か月動かないんだよ、ね、鈴さん!

坂本 そうそう! なんかさー、ワカヌちゃんがきっと勘違いをしているのではという点があるんですけど。

モスクワカヌ はい。

坂本 強さとは、というところでさ。ワカヌさんが持ってる強さとしては、いろいろあるけれど 、 今は仲間がいるということがとても強いと思うんだよね。

オノマ うんうん。

坂本 こうやって4人でやってるから、1人が一か月休んでもいけますみたいな状態であって。 それはあなたが持つ強さでもあり私が持つ強さでもあり。だから「 今日は私はもうだめだ、ごめん!」となったとしても、なんとかなる体制なわけじゃない。 そこはさ、「弱くてごめんね」って言うところじゃなくて、「頼んだ!」て言うところじゃないかな。

オノマ 「俺は今は寝る、後は頼んだ」ってことね。

坂本 いや、ごめんねとは思うけど(笑)

モスクワカヌ 思いますね、すごく…。

坂本 でもしょうがないじゃん! 

モスクワカヌ いや、倒れた時に、こういう問題に取り組む資格、みたいなものを考えちゃったんですよ。

黒川 資格?

オノマ なんかやだー! 『人間の条件』(※5)の時みたい。

モスクワカヌ あはは。あの時もさんざん話し合ったよね。

オノマ 生きるのには資格がいる、とか、みんなそう言うこと言うんだから! もう!

黒川 リコさんは資格いらない派だもんね。

オノマ 生きてるだけでいいんだよ、人は!

モスクワカヌ うーん。でもやっぱ、そういう資格はいらないって、頭ではわかるというか、思っていても、やっぱりちょっと考えちゃうのはあります。始めて、続けてきていて。

坂本 なるほどね。

黒川 でも、私達がやろうとしていることには、応援というか共感してくれている人も多いと感じるよ。私達以外の演劇人も、ガイドラインはつくられるべきだ、というのは考えているし、作成したガイドラインの貸し出しをするというアイデアも、とてもよいと言ってくれていたり。

坂本 ありがたいよね。

黒川 この企画をしていて、周囲の人たちがエンパワーメントしてくれてるな、というのはすごく思う。皆が関心を持っているし、公益性が高いことだし。だからそういうことを1人で背負う必要はなくて、力を借りていけばいい。それこそ1人のパワーをもった人が、他の人を率いていかなくてもいい体制をつくっていくことが、ハラスメントが起こりにくい環境づくりとも通じるんじゃないかと思うし。

オノマ そうよね。1人のカリスマとか権力者が、団体と人を従えるようなワントップ制を否定していきたい、というか。権威とお金のある相手には、人はどうしても弱い立場になりがちだから。

黒川 1つの現場で、立場の強さ弱さのバランスが悪いというか、対等な関係性だという契約や認識がないと、ハラスメントが生まれやすい環境にはなるね。労働条件の合意とか、契約がきちんとしていない演劇現場も多いし。

オノマ 確かに。演劇界のハラスメントの問題は、演劇界の雇用問題につながるという問題意識をもつ人も多かった。

黒川 何かしようとする女性がジャンヌ・ダルク(※6)になる必要はないんだよ。自分が力をつけて先頭に立つとか、カリスマになって人を集めていく戦い方ももちろんあるとは思うけど、火あぶりにされがちだし。

坂本 火あぶりにされがち…。

オノマ まあ、本当はそもそも人を火あぶりにしちゃいけないんですけどね。最近読んだ『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(※7)という本に、「人間というのは正義の名のもとに人を罰するのが好き」という記載があって。SNSとか見てると、人を罰するためにネットの海をさまよっているアカウントも多いから、本当にそうだな、と思った。そういう動きは全然よくないんだけど、現状では1人で、かつ目立つ人って攻撃をうけやすい。

坂本 そうだよね。

オノマ だったらチームで頑張りますって、いい判断だと思う。

モスクワカヌ そうですね。この企画は、私一人じゃ絶対すすめていけないと思う。

黒川 それと同時に、私からはでない企画だったし、これをやろう! と立ち上がる気持ちも、最初は私にはなかったから。ワカヌちゃんが去年の3月くらいに、劇作家女子会。でこれをやりたいんだ、と私たちに言ってくれた時は感動した。

モスクワカヌ あら、そうなんだ。知らなかった。

黒川 特に言ってなかったから(笑)


■企画のこれから

オノマ 読者のなかには、「やるって言っといてなかなかガイドラインできないじゃないか!」ってなる人もいるかもしれない。でも歩みが速くないことは…容認してほしい。

坂本 別に悪いことじゃないよね。サクサクすすめられるようなことでもないし。

オノマ 考えながら、そして皆他のこともやりながらすすめていくわけだからね。あとやっぱり、デリケートな問題ということは大きい。

モスクワカヌ 急いでつくれるものじゃないな、ということは、企画を進めていくほどに思った。もちろん時間がかかる覚悟はしていたけれど、自分達が思った以上に早く動けない。それに、動くべきことでもないよな、と思いました。優先すべきは私達が想定したり、期待したりするスケジュールではないから。

黒川 そうだよね。

モスクワカヌ 今考えているのは、途中でハラスメントのガイドラインの下書き、たたき台みたいなものを作って、広く意見を求める、ということをしてもいいのかもしれないということ。

黒川 これまで話してきたもののなかでは、ロイヤルコートシアターのもの(※8)とか青年団(※9)のものとか、比較材料や参考になるようなガイドラインもあがってきているけれど、もう少し読みやすかったり、中高生が手に取りやすかったりするものにしたい、ということは最初から言ってきているものね。それが具体的にどんな形になるのかは、まだ見えてないのだけど…。そのイメージを共有しながら、今後の対談とかすすめていけるといいかもしれない。

坂本 確かにね。読みやすいの大事!

オノマ 近年、ハリウッドで、キスやセックスシーンを撮影する際のガイドラインが発表されたんですけれど、そのガイドライン、数十ページあるんだって。(※10)

モスクワカヌ ええ~。

坂本 ええ~。

黒川 アメリカっぽい。契約文化って感じだね。

オノマ それがすごく細かく書いてあって、例えば「オーディションの時にプロデューサーがあなたが泊っているホテルの部屋に来そうになった場合」とか、そういう時の対処法まで書いてある。

モスクワカヌ 具体的!

オノマ やっぱりそうした事例が多くあるのだろうね。たとえば昔は、セックスシーンの撮影をする時、その日だけ現場にくるプロデューサーとかいたらしいのね。

モスクワカヌ うわあ。

オノマ あとスタッフの人が動画をとっちゃうとか。

黒川 ひどい話だね。

オノマ ちょっと前まではハリウッドでもそういうことが行われていたけれど、今変わろうとしている。でもセクハラ関連だけでも数十ページになるから、パワハラ関連もあわせて具体的な事例をあげていくみたいな作り方にすると、大変な量になるよね、ガイドライン。

坂本 大変だあ。

黒川 ただ、具体的な事例があると読みやすいのはあるかもしれない。

モスクワカヌ 最初から数十ページあります! どーん! だと、読んでもらうのが難しいかもしれない…ていうか私、読まないかも。

オノマ 俳優さん達は読むんじゃない? 自分を守るためのものだったら。

モスクワカヌ でも最初から数十ページのガイドライン読める人は、普段からハラスメントにあいにくいんじゃないだろうか?

坂本 あー、それはそうかも。

オノマ そんなことないよ、ハラスメントにあいやすいから自衛のために数十ページ読もうという人もいるよ。

モスクワカヌ でも「なんかよくわかんないし面倒くさい」という人も絶対いると思うし、そういう人のほうが被害にあいやすい気がするんだ。もともとそういうのが読めない人にもわかりやすいものを作ろうという話だったじゃない?

坂本 両方あるといいのかな。ぱっと読みやすいものと、細かく事例のあるものと。

黒川 なるほどね。抽象的なやつだとやっぱり使いづらいよね。広く演劇をしている人たちに使いやすいようにと考えないとだし。読みやすいものと、辞書のように具体例を索引できるようなものがあるほうが親切なのかもしれない。

オノマ でもその辞書は、日々増えるよね。

黒川 なんかウィキペディアみたいに、皆に書き足してもらえたりしたらよいのかな。

モスクワカヌ それいいね。集合知だ。ただ編集が自由だとイタズラしたり個人攻撃する人も出てきそうだけど…。

オノマ そうね。その対策は必要。

モスクワカヌ でもすごくいいね。事例の共有や注意喚起もできそうだし。

オノマ 匿名でないと書けないこともあるかもだしね。

黒川 やり方は難しいかもだけど。これから具体的なガイドラインのたたき台を作っていくこととあわせて大事だね、やっていかなきゃだね。

モスクワカヌ まだちょっと先になるけれど、それを目標に道筋をつけていきたい。

オノマ で、2ページくらいの読みやすいやつは、漫画とかYouTubeでアニメとかに出来ればいいんじゃないかな。

坂本 協力したいと言ってくれる人もいるしね。私達の活動を興味をもって追ってくれてる人のなかに。

モスクワカヌ ありがたいね。

黒川 ありがたい! でもいいね。さっきワカヌちゃんの「自分みたいな人間が背負うべきだったのか」という話から、「みんなでやればいいじゃん」って話になって。

モスクワカヌ 数分でしたね。

オノマ 数分で元気になりましたね。

黒川 素晴らしい。

モスクワカヌ なんかごめんね…! でも悩んでるのも本当だよ!

オノマ そうだよね。一か月寝込んでたんだから。

モスクワカヌ いや、ハラスメントに関わる色んな活動や発信をしている人達って、タフな人が先陣きってるイメージあるから。

オノマ 強い人たちも連帯しているからね。強い人達だって人間だからさ。色々言われて平気なわけじゃないと思うのよ。まあ、平気な人もいるのかもしれないけれど。

モスクワカヌ でも、それは外側から見てると、ちょっと怯んじゃう気持ちもあって。この戦場に私なんかが立っていいのか、みたいな。

オノマ まあ、それもわかるわかる。

坂本 まあでも、皆でやれば怖くない!

黒川 そうですね。

オノマ ちょっといい結論でてきた気がしますが。

モスクワカヌ そうですね。皆でやっていきましょう。

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2018年に台湾旅行に行った時の写真。また四人でどこかに行けるよう、願っています。

【文章中の脚注】
(※1)新型コロナウイルス:「新型コロナウイルス(SARS-CoV2)」一般の風邪の原因となるウイルスや、「重症急性呼吸器症候群(SARS)」「中東呼吸器症候群(MERS)」の原因となるコロナウイルスのひとつ。2020年7月現在ワクチンが開発されておらず、世界中で感染が拡大している。
(※2)劇作家の石原燃さんをゲストに迎えた対談。劇作家女子会。のQuest①「演劇の現場で使える、オープンソースのハラスメント防止のためのガイドラインをつくろう!」で実施しているインタビューの第一弾として、2019年11月に公開された。下記リンクより記事の参照可能。
https://note.com/gekisakujoshi/n/n392bcbda98e6(前編)
https://note.com/gekisakujoshi/n/naf6009767091(後編)
(※3)趣向ジュニア:オノマリコが自身の団体「趣向」で、未成年と演劇を作る際に使用する名称。2016年から活動を続けている。主な上演に、大阪南部の私立高校、精華高等学校演劇部との共同創作『大阪、ミナミの高校生』シリーズがある。
(※4)2019年の年末から2020年の年明けにかけて、モスクワカヌの鬱状態が悪化した期間。2020年7月現在復調している。
(※5)人間の条件:2017年5月に座・高円寺1にて上演された劇作家女子会。のミュージカル作品。「人間が人間である条件とは?」をテーマに、劇作家4人による共作を行った。
(※6)ジャンヌ・ダルク:15世紀のフランス王国の軍人。神の啓示を受けたとしてフランス軍に従軍し、イングランドとの百年戦争で重要な戦いに参戦して勝利を収め、フランス王シャルル7世の戴冠に貢献した。その後の戦いで捕虜となりイングランドへ引き渡された末に異端審問にかけられ、19歳で火刑に処せられた。
(※7)『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』:2019年に新潮社より刊行された、ブレイディみかこ著のノンフィクション。2019年ノンフィクション本大賞受賞。
(※8)ロイヤルコートシアターのハラスメントガイドライン:Royal Court Theatreにより2017年に発表された「セクシュアル・ハラスメントとパワー・ハラスメント防止策/文化の変革のための企画、提案、展望」(https://royalcourttheatre.com/code-of-behaviour/)のこと。
(※9)青年団のハラスメントガイドライン:平田オリザ氏を中心に1982年に結成された劇団・青年団で運用されている、独自のハラスメント防止規定。
(※10)2018年にSNSで始まったセクシャル・ハラスメント撲滅を訴える「Time's Up」ムーブメントをきっかけに設立された団体「Time's Up」が発行したガイドライン。(https://timesupfoundation.org/work/equity/guide-equity-inclusion-during-crisis/)


劇作家女子会。は「死後に戯曲が残る作家になる」を目標に集結した、坂本鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌによる劇作家チームです。 演劇公演やイベント、ワークショップ、noteで対談記事を公開する等の活動をしています。 私達をサポートして頂ければ幸いです!