アートとイラストレーションの違い

以前「アーティスト」とは「科学者」や「研究者」と同じであり、「アート作品」と科学の「基礎研究」は同じなのだ、という持論を説きましたが、

「アーティストとは何者か」

この引用を利用して今回はアートとイラストレーションという混同されがちな似て非なるものは、一体何が違うのかを解説します。

科学の研究には「基礎研究」と「応用研究」の2つに分けることができるそうです。

「基礎研究」とは「何のためになるか分からないけど、この世界でまだよく分かっていないことを研究してみること」です。この世界ではまだまだ分かっていない事がたくさんあります。しかしそのまだよく分かっていない事を解明してみても、それが世の為や人の為やお金になるかも全く分かりません。意味がない事かもしれません。しかし世紀の大発見になるかもしれません。そんな未知の分野を開拓していく研究です。

一方「応用研究」とは「すでに分かった事をより何かの役に立つために実用的にしていく研究」です。医薬品会社や化粧品会社などにこの専門研究所を設けていることが多いです。人々が求める新薬やビジネスとして意味のあるものを研究開発するケースがあります。世の為人の為に、すでに分かっている結果をより実用的になるよう研究していく事です。

これはまさに「基礎研究=アート」「応用研究=イラスト」の違いそのものだと考えます。
「基礎研究」がアートと同じスタンスであることは以前に申し上げましたが、「何のためになるか分からないけど、この世界でまだよく分かっていないこと(=新しい美意識や価値観)を研究してみること」です。

「イラストレーション」とは企業やクライアントがまず存在していて、そこから経済活動の発展や直接的な人々の役に立つ方法を、
「すでに分かった事(=既存の美的価値)を何かのため(=人々のニーズや企業の利益のため)に、より実用的にしていく研究」です。

これが私の考えるアートとイラストの違いです。

どちらかに優劣があるという訳ではなく、共に同じ研究者であることには違いありません。応用研究の結果から世紀の大発見をする場合もありますし、基礎研究から難病の特効薬を発見する場合もあります。
そしてもちろん基礎、応用、どちらかを選ばなければいけない訳でもなく、両方の研究を行き来することもできるのです。

アーティストでもイラストレーターでも「人々の心を動かす研究者」であることは同じです。
若いクリエイターの皆さまは
「まだこの世に無いものを研究したいのか」
「誰かのためになることを研究したいのか」
はたまたその両方か、
自分の研究テーマをしっかりと見据えれば、今後の制作活動も明るくなっていくと思います。そして自身は研究者であるのだと、誇りを持って制作を続けていってください。

大阪の現代アートギャラリー「gekilin.」オーナー https://www.gekilin.com/