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【親の金でハワイに行く④】チーズケーキファクトリーを予約するまで(最終章)
今日はハワイ旅行最終日。
心配していた母の熱も下がり、なんとか出かけることができる状態になった。昨日までは39度もあったのに、驚くほどの早さで寛解へと向かった。果たしてそれはハワイの精霊の力か、あるいは神聖なるウミガメの力か。
はたまたずっとハワイの土地を守ってきてくれたであろう偉大なるクジラの力か…。
ホエールウォッチング
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この船に乗って朝早くに海に出るツアーに僕たちは申し込んだ。沖合まで30分ほど進んでから船長がクジラを探すらしい。
病み上がりの母が長時間船なんて乗って、また病状が悪化しないか心配だった。
クジラを見たいと言っていた母と一緒に来れるのは嬉しいが、病み上がりに船など乗るものではない。僕は自分に密かなミッションを下した。母を守るんだと。もしも母の体調が悪くなったら、自分が陽気な船長に申し出て船を戻すように頼んでみよう。陽気とは言え風邪にかかったことはあるはずで、その辛さも知っているはずだ。僕はそのくらいの覚悟も辞さなかった。
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…人の心配なんてしている場合じゃなかった…。忘れていた、昔から乗り物には弱い。なんなら通勤電車の中でも酔うし、幼い頃におじいちゃんのお墓参りに行く途中の車で盛大に吐き引き返したりなど日常茶飯事だった。
船酔いで気持ち悪くなり、立っていることすらできなかった…。おまけに前方からの強風でハゲている。船酔いハゲだ。
この船、まじで揺れる。我らが神奈川県が誇るよみうりランドのジェットコースター、バンデットより揺れる。クジラの潮吹きでも見れたら最高だなと思っていたのだが、先に僕の口から虹色の潮が出そうであった。そんな僕の苦しみなど知る由もなく、船はスポットに着き、クジラを探す速度に移行してゆっくりと走り出す。そしてついに…
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クジラが現れた。
いや、非常にわかりづらいと思うのですが、どうやら親子のクジラが僕たちの周りを泳いでくれているようだった。
僕らが行った1月の時期はクジラに会える確率が高いらしく、会えなかった場合返金できるように書いてあるほどツアー側も自信がある。ただ実はこの写真は妹が撮ってくれたもので、僕はこの時完全にダウンしてクジラどころではなかった。
クジラが、ぶしゅ…!と潮を吹きツアーの参加者を歓声を上げる。もらいゲロという現象が存在するが、僕はクジラの潮吹きにもらいゲロをしてしまいそうになっていた。頼むからそれ以上潮を吹かないでくれ。俺の口から何かが出そうだ。
ふと横を見ると、母が楽しそうに笑っていた。
…ならばもう全て良し。
クジラの子供はよくシャチに襲われて食べられてしまうらしい。名前も知らないクジラの子供よ…お前は俺みたいな親不孝にならずにちゃんと大人になるまで生きるんだぞ。クジラの親子の未来を祈り、船は陸へと戻り、僕はその後顔面蒼白で船着場へとうずくまった。
カラカウア通り
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カラカウア通りはホノルルのメインストリートだ。たくさんのホテル、レストラン、お土産屋さんが並び歩いているだけで楽しい。
楽しんだとはいえ、やはり母の具合が少し悪くなってしまい、父とホテルの部屋で休んでいる間、僕は妹と2人でショッピングに行くことにした。アサイーボウルを買ってはしゃぐ妹。僕はアサイーがなんなのかいまだに知らない。
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妹と2人、友達や会社の人へのお土産を買いながら道を歩く。
思えば妹からも随分白い目を向けられてきた。高校生までは自慢のお兄ちゃんだったはずだ。都内有数の進学校に入学し、バスケ部のキャプテンとなって学級委員もやり、バレンタインデーには大量のチョコレートを抱えて家に帰ってきていたあの時までは。
だが、大学受験で何かが壊れた。二浪したことで妹と同じ学年になった。笑ってくれたが、物凄く気を使わせた気がする。その後も大学を中退し、就職もせずに演劇をやる穀潰しである僕を、リクルートの会社に入り毎日23時まで残業をしていた彼女はどんな目で見ていたのだろう。僕が2年前に家を出てから、妹はすぐに家を出た。一人暮らしをしない僕に気を遣って順番待ちをしてくれていたのかもしれない。
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会社へのお土産なんて一番安いもので良い。お世話になっている人にだけ何かを買いたいと思ってはいたのだが、あまりの値段に財布の紐が開かない。その横で、妹は次々とお土産を買ってカードで払っていく。どうしてこうなったのか、いつからこんな差が生まれてしまったのか、わかるようでわからなかった。
チーズケーキファクトリー
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歩いていると、チーズケーキファクトリーというホノルルで大人気のレストランの前に通りかかった。
写真だとわかりづらいのだが常に長蛇の列ができており、実は初日に食べようとしたのだが断念した。サイトから予約しようとも試みたのだが、地元民でしか予約できない仕様になっていたのだ。
「予約できるか直接聞いてみたら?」
妹がふと立ち止まり、そんなことを言い出した。確かに、昼間の今なら比較的人も並んでおらず、お店の人に直接聞けそうだ。だが…僕にはそんな勇気はなかった。人気レストランの忙しそうなウェイターを捕まえて、予約できる?なんて。そんなことできたらもはやネイティブじゃないか。
「いや、俺は話しかけない主義だから」
というよくわからないことを言いながら、レストランを離れようとした。だが2、3歩進んで足が止まった。
妹にはもう随分とカッコ良いところなんて見せられてなかった。父にも迷惑をかけてばかりで、たくさんのお金を払ってもらっている。母はチーズケーキファクトリーでの食事を楽しみにしていた。今日はハワイ最終日だ。このまま離れたら…なんだか後悔する気がした。
僕は突如踵を返し、人混みをかき分けて店の中へと進んでいく。列に並ばず入っていく僕へ向けられる不審な目線を拭いながら、ひたすらウェイターを目指す。
「今日の夜、予約したいんですけど…」
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チーズケーキファクトリーを僕たち日本人が予約する方法は、おそらくただ一つ。直接レストランに行って話しかけるだけである。(不確定情報です、ごめんなさい)
予約したいんだけど…と言うと、何時?とか何人?とか僕でもわかるように聞いてくれるので頑張って答えよう。さすれば道は開かれる。
妹が、僕が予約してくれたことを嬉しそうに両親に話している。父はふざけて、僕を三歳児かのように偉いねと褒め称える。それで充分だった。今までしてきたことを考えれば、こんなことはなんの償いにもならないが、家族が少しでも笑っていてくれるのならばそれで良かった。あの時踵を返すことができて、本当によかった。
そして何より…うますぎる!!いくつものお店に行きましたが、一番好きなレストランでした。チーズケーキファクトリーはダイナーの位置付けなので決して敷居も高くなく、何より安い。(全部父が出しました)にも関わらず、全ての料理が美味しくて特にステーキや鶏肉が本当に美味しかった。
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もしあの時立ち止まって話しかけなかったら、一生後悔していたかもしれない。ウェイターに話しかけなかったら、僕は家族の笑顔をまた一つ無くしてしまっていたのかもしれない。
ハワイの夕焼け
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太平洋に沈みゆくハワイの夕焼けは、いつでも優しく僕達のことを包み込んでくれる。この夕焼けをみて1日を終えることができたのなら、きっと何があっても大丈夫だ。
僕はこれでハワイを去る。日本語だけで行けるだろうと思っていたら、全然英語を求められたハワイを去る。年齢的にもこれが最初で最後の家族との海外旅行だと思っていた。だからこそ、二つ返事で行きたいと答え、最後の時間かもしれないと思いながら大事に過ごした。ただ最後だなんて誰も言っていない。また絶対に来よう。今度もまた、親のお金で。
略式:ハワイ
とはいえ。
人生を歩んでいれば、どうしても後悔してしまうことは当然ある。あの時言えなかったこと、誰かを傷つけてしまったこと、挑戦をしなかったこと。過去は決して変えられない…でももし、もしも変えられるとしたら…?
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…という話を、下北沢にて5月中旬から上演します…!!
これをみてハワイに行きたくなった人、何かをやり直したい人、みなさんこぞってぜひ見に来てください…!
下北沢という日本のハワイで、お待ちしております。
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