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【親の金でハワイに行く①】30代独身男性のハワイ旅行記
貯金残高いつでも一桁、水道代を払うのさえ億劫で、カードの支払いの電話は鳴りやまない。会社員として働いた金は、自分の身体に鞭を打ってさらに働くための1日2本のモンスターとタバコ、身体を寝かしつけるためのGABAの錠剤とサプリメントに消えていく30代限界独身サラリーマンです。
そんな僕にある日親父からの一本の電話が。
「退職金が出たから、その金でハワイ旅行に行こうと思う。お前も来るか?」
葛藤があった。
さすがは親父、生まれながらにものが違う、自分と同じ遺伝子を持っているとは思えない。
だがしかし…自分はそんな親父の期待には応えられなかった怠惰な人間である。
二浪して入った大学は二留して辞めた。演劇をやりたいからなどという理解不能な理由で僕はおそらく1000万単位で学費を無駄にし、挙句の果てには30代になって就職をするという典型的なクズ人間パターン。それなら大学出とけよ。
そんな自分が家族と旅行なんてしても良いのだろうか…後ろめたさからかしばらく会ってない彼らと、上手く喋れるのだろうか…。
秒針が一つ進む。僕は言っていた。
「行く。」
きちんと退職金が出るような会社に勤められる未来さえ見えない僕は、この機を逃すまいと二つ返事で承諾。
出発半年前より会社に根回しを開始し、死に物狂いで残業に次ぐ残業、寝不足でもはやよくわからないリズムで鼓動をうつ心臓を抑えながら、6日間の有給取得という前人未踏の領域、会社初の偉業を達成…!!
この時僕は日々の残業に耐えるためにエナジードリンクを1日3本までプッシュ。ハワイ旅立ち時の貯金残高はちょうど0円。
働いて得た金を働くために使うという何のために生きているのかよくわからない現代日本人が抱えるこの大きな矛盾をみんなと同じように僕も抱えながら、ハワイで僕はこのコンクリートジャングルで固まり切った心を少しでも癒せることを期待していた…。
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著者:田島実紘
30代限界サラリーマン。会社員をしながら、劇団スポーツという演劇団体を主催。一見するとバイタリティーあふれる経歴と恵まれた育ちからとんでもない生産性の低さで全く社会貢献できない定額納税者。
ANAラウンジ
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飛び立つ前に、親父の力によりANAのラウンジに入ることができた。
まさに選ばれしものだけがくつろぐことができる場所である。
全ての席には当然のようにUSBポートが設置され、わけのわからないボンボリのような明かりがラグジュアリーな空間を演出する。
食べるものがものすごくあるのに、席の隣に小さなテーブルしかついてないのは富裕層特有の余裕の表れか。ファミレス並みのテーブルを用意しておけよ、食えないだろ。
この機を逃せば、生涯自力でラウンジに入ることはできないだろう…ならば…
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食う…
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食う…!
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食う…!!
椅子の横についているちょっと大きいひじ掛けくらいのスペースであり得ないほど食べた。
なんと、ビールも含め各種アルコールも飲み放題。
ここに乗せているものは全て食べ放題である。
もはやラウンジに入ってくる富裕層に元を取ろうなどという魂胆を持つ者はいない。だが、突如そこに現れてイレギュラーの存在、年収300万円の僕は違う。
8時間のフライトのことなど考えず、腹がちぎれるまで食いつくした。
いよいよハワイに飛び立つ。
家族との会話も今のところ順調だ…だが…ここにきて少し不安になってしまた。果たしてこの選択は本当に正しかったんだろうか…6日間の有給取得を取って社員に白い眼を向けられるくらいなら(完璧な根回しなど存在しない)、家で適度にゲームをしていた方が良かったのではないか。
そもそもハワイに行ったくらいで僕は癒されるのだろうか…。マリッジブルーならぬ、ハワイブルーを発症し、いよいよハワイに飛び立つのであった…。
アウラニ・ディズニー・リゾート&スパ
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ハワイに着いて空港を出てわずか1時間後、僕はスティッチに抱きつかれていた。
スティッチ…幼いころディズニーチャンネルで見てた、あのいたずら者のスティッチ…。
そうか、君はハワイの出身だったね…あんなにも好きだったはずの君のことを、絶対に忘れないと誓った君のことを、僕は今まで忘れてしまっていた。
誰かとハグをしたのなんていつぶりだろう…温かい、ただただ温かかった。
予想の遥か上を行くハワイのおもてなしに、すでに僕の固まった心は溶かされ始めていた。
一体どうしてこうなったのか…。
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アウラニ・ディズニー・リゾート&スパの写真たち
妹のリクエストでハワイにある唯一のディズニー施設に訪れていた。
リゾートアンドスパであるためアトラクションは無いが、ミッキーたちが心ゆくまでハワイのおもてなしをしてくれる。
広大な敷地の中には、ホテル、プール、ビーチ、レストラン、お土産屋さんと様々な施設が充実。
全くよくわかっていないのだが、パークが無いのにホテルだけあるという状態は割と珍しいらしい。(僕たちはここに泊まるわけではない)
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グリーティングをすることができる
僕たちが予約していたのはレストランでの朝食。
プールサイドに案内され、席に着くと10種類ほど書いてあるメニューを渡されそこから選ぶことができた。
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妹曰く、珍しいとのこと。
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正直に言えば僕はANAラウンジでの暴飲暴食からの機内食というダブルパンチを喰らっており、全くお腹は空いていなかったのだが、そんな僕でも止められなくなるほど美味しい…!
実は僕は、出発前には旅行中にかかったお金を計算して、少しでもいつか親父に返せたらと考えていた。
だが、これだけの量の料理が立て続けに現れ、写真にはないがプラスでドリンクも頼んだところで、僕は怖くなって値段の計算をやめた。
美味しいご飯、美しい景色…これだけでもすでに充分だが、ここはディズニーリゾート。本領はこんなものではない。
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各テーブルにディズニーのキャラクターたちが挨拶に来てくれるのだ…!
冒頭で僕がスティッチに抱きつかれていたのはそのため。
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もう食べさせる気なんてないんじゃないか…?
というくらいのサービス精神で次から次へとこちらを楽しませてくれる。
正直フライトの間一睡もできなかったのだが旅の疲れは全て吹き飛んだ。
お金の計算をするのは完全に諦め、全てを忘れてハワイを満喫することを誓いホテルを出るのであった。
パラダイスコーブ(ビーチ)
ディズニーリゾートアウラニから車ですぐの場所に、パラダイスコーブというビーチがある。
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小さなビーチなのだが本当に静かで雰囲気がよい。僕たちがここにきた理由はただ一つ。
ウミガメに会えるからだ。
とは言え、もちろん野生動物であり必ず会えるとは限らない。
なんの知識もないのだが、基本的には会えないものだと思ってビーチに向かった。
ところが…
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いた。
めちゃくちゃ普通に3頭ほどのウミガメが優雅に泳いでいた。
すげぇ…普通にウミガメが泳いでる…。
ウミガメなんて、会社の上司2人と一緒に新江の島水族館に行くという謎すぎるイベントで展示されているのを見て以来だ。
ハワイはなんて素晴らしいんだ、ハワイブルーになる必要など本当になかった。ハワイは僕の心を着実に溶かし、感動を与えてくれる。
僕がウミガメに見とれていると、母が話しかけた。
「あんたもなんか、幸運がもらえると良いわね」
…そう、ウミガメはハワイの人にとっては神聖な生き物で、幸運を呼ぶ海の守り神的存在らしいのだ。自然保護の観点という点もあるが、無暗に近づいてはいけない。
一挙に現実に引き戻される。母は、僕が浪人したあたりから、若干微妙にスピリチュアルになってしまった。僕がダメすぎるあまり、浪人、留年、中退、全く売れない役者生活などを繰り返すあまり、本当に少しだけそういうものに心を預けるようになってしまった。
完全に僕のせいだ。僕のせいで母は、「ちょっとだけ」スピリチュアルになってしまった。
「そうだねえ…」
ウミガメから視線を外さず、母の方を見ないようにしながらそう言うのが僕の精一杯だった。
そしてくしくも…次に向かう場所もまた、スピリチュアルである。
僕たちはしばらくこのビーチでのんびりした後、ハワイ有数の「パワースポット」に向かった。
ポハク・ラナイ
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最後に紹介するのはハワイのパワースポット、「カイアカ・ベイ・ビーチ・パーク」に位置するポハク・ラナイと呼ばれる「パワースポット」。
別名バランスロックとも言われる石で、上の石が絶妙なバランスで下の石の上に鎮座している。簡単に言えば、めちゃくちゃ大きな石が、隙間がめっちゃあるのに二つ重なっている感じで。確かに、ちょっと異質で神聖な感じはなんとなく受ける。
霊力を蓄えている石で、あの「大谷翔平」選手もここにきたとか来てないとか。
母はずっと僕に、
「大谷翔平も来たんだよ…!あんたもなんか願い事しなさい!」
と言ってはしゃいでいた。
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パワースポットに興味がなくても訪れる価値ありです。
正直、このハワイの旅行の中で一番きれいなところだと思いました。
写真じゃあんまり伝わらないけど。
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そしてこのポハク・ラナイ…石の隙間に手を入れて願い事をすると、それが叶うと言われている。
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当然のように家族全員で行う流れに。
母さん、父さん、妹とポハク・ラナイの隙間に手を入れて願い事をしていく。
願い事…もう自分の願望なんて久しく持ってなかった気がする。会社の歯車となるのに意思なんて要らなかったから。
なんだろう…会社の売り上げを上げることか、いやそんなものが自分の願いではなかったはずだ。ではなんだろう…俳優として売れること…劇作家として売れること……本当に??もう何年もそんな活動はしておらず、事実上の引退と言っても過言ではないのに。そんなことを口に出す勇気が俺にはあるのか…?
自分の番が終わり、当然のように何を願ったのかを聞かれる。
「まぁ良いじゃん、そんなことは。」
思春期の中学生も青ざめるような返答をして、僕は颯爽と踵を返す。
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ハワイの空と海は底抜けに明るい。
もはや暴力的とも言えるくらいの綺麗な青は、満員電車での通勤と度重なる残業、休日出勤によって毒された僕の心を、1日で癒して行った。
それでもまだ、自分の願い事を言うことなんてできない。心の中でパワースポットにだけこっそり教えることすら、今の僕にはできない。
ただそれでも…それでも今の自分に言える願い事があるとすれば…。
また、スティッチに会いに行きたい。
これが今の僕の、精一杯だった。
(②へ続く…!)
https://note.com/gekidansport/n/n472bd9391e80
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