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小夜子の書き出しブックトーク【駈込み訴え】

『駈込み訴え』 太宰治・作(青空文庫)

本稿は2024年7月に下北沢駅前劇場で上演する『ANGERSWING/アンガーズウイング・アンガースウィング』に寄せて、“書き出し”の一文をご紹介するブックトークです。
ANGERSWINGのキーワードを拾って、「そういえばあんな本読んだなぁ」「読もうと思って読んでなかった」「これを機に出会った」という作品たちを、それぞれの冒頭1行と共にご紹介します。

今回のテーマは「愛」。
書き出し文はこちら。

✤✤✤

申し上げます。申し上げます。旦那様。

✤✤✤

男は駈込んでいって、自分の師である「あの人」が、どれだけ酷く傲慢な男であるか、自分が彼にどんなことをしてやったのか、どうして今に至ったのかを、まくしたてるように訴えていく。愛するほど憎らしい。愛憎の物語。

ブックオフオンラインコラムより
http://pro.bookoffonline.co.jp/hon-deai/bungaku/20180201-dazaiosamu-kakekomi-uttae.html

太宰治作品の中で一番好きな作品は、と聞かれたらこの「駈込み訴え」と答えます。

書き出し、素晴らしいでしょう?笑

書き出しの一文ってものっすごく大事だと思うんですが、太宰作品は魅力的な書き出しが多いような気がします。

冒頭からただならぬ緊迫感の中読み進めると、これが実は誰のことを話しているか、徐々にわかっていきます。


声に出して読みたい太宰治

そう、これはイエス・キリストが密告されている場面。ということはもちろん語り手は……。

テーマの「愛」ですが。

もう短いからとにかく読んで!という感じなのですが、狂おしいくらいの愛なんです。

愛しいがゆえの「なんでわかってくれないんだーーー!!!」という悲痛な叫びを感じるし、その中に太宰らしい身勝手さも感じます(笑)

そうそう、書き出しの素晴らしさもさることながら、終わり方もすごく良いんですよ。

役者なら声に出して読みたくなっちゃうんじゃないかしら。すごく演劇的!

これは、体が弱って筆を執れなくなった太宰が、美知子夫人に口述で書き取らせた作品というのが大きいのかもしれません。

本当に驚愕です。口述筆記でしかもほとんど書き直しがなかったとか…!

(余談ですが私は、30〜40分かけて家で1人音読してみたことがあります。そのくらい声に出したくなるってこと!)


太宰治とキリスト教

一人称で続いていく密告劇。

苦しくなるくらいの愛。一見矛盾した行為。

太宰治は作品中にキリスト教モチーフを散りばめることがよくあるのですが、この作品はまさにその場面の物語。

キリスト教は「隣人愛」とあるように「愛」が教義の中心なのです(違ったらごめんなさい)。

それを説くイエスと彼に対するどうしようもない愛憎。そんな人間らしさがこの作品の面白さの1つだなぁと思います。

愛ってなんでしょうね。

そんな素朴な疑問に辿り着いたりもします。

『ANGERSWING』の最大のテーマもやはり「愛」。

そしてやはりその愛は拗れてゆき…

拗れた愛は解けるのかはたまた…!?

今回はこの辺で。

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