指差せば一斉に咲く

桜を見上げていると肌に透ける血管を見ているような心地がする。枝の先まで血色良く咲いた花が脈打つように微かに揺れる。風に呼応してさわぐ群衆のように花弁が散っていく。鼓動が近い。全力疾走した後に身体の中に心臓の波打つのを聞くと恐ろしくなる。血液を全身に巡らせて生命を駆動する器官の正体がこの脆弱なリズムであることはあまりにも不安定だ。生と死を隔てる薄膜に思わず触れてしまった時、その手触りは焦げ付くほどリアルである。生が生成される場はそれゆえ最も死に近い。生とは維持ではなく恒常的な生成なのだ、生きるためには走り続けなければならないのだと死から聞こえる。桜の下にいるというのはこのように恐ろしい。死体が埋まっているというのも確からしく響く。混沌へ還るように誘う無音の叫び声が聞こえてくる。生の極限にあるものはこのように背後に迫る混沌を暴く。

私は無秩序の地平から、連続の濃度で降る言葉以前の言葉を言葉にしなおし、秩序を組み立てる。混沌に抗う私の生命活動である。この営みが私を囲う秩序のその外側に迫るような挑戦であればあるほど、その企ての証拠としての言葉は力を帯びる。このような言葉はそれを受けた者の認識の配列を組み替える。これはあるいは他者との出会いとも言えるかもしれない。その意味で言葉は身体に似て私と他者の結節点である。外から飛来した言葉が建設された私の秩序を解体し、また強力に立ち上げるその時に、まぶしいほどの無秩序がほんの一瞬目を眩ませる。変身するキャラクターがその一瞬光り輝くように、変身する世界はその瞬間にまばゆい世界の裸身を垣間見せる。その言葉が繰り返されたものであっても、初めて出会い直す時、あなたの国を破壊しながら創り上げるその効力は全く変わらないだろう。


文:柳澤祐太

劇団ケッペキ
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