見出し画像

雀荘メンバー時代その3(クズとクズ編)

「どうしようもない日々」

(前回の続き)

雀荘メンバーを始めて2年ぐらいが経過していた。

相変わらず、本走(麻雀)は負け続けていた。

この頃になると、給料なんてもとから存在しないものとして働いていた。

毎月給料日の日に、時給に換算するとどれくらいかを計算をしていたのだが、時給が「一円五十銭」と言う数値を見せた月以来、計算するのをやめた。
こんな計算、悲しくなるだけである。

バイトに向かう時は、バイトではなく修行に行く気持ちでチャリをこいでいた。

別の仕事をしている友達が、

「俺働いてるとこ給料安すぎるからそろそろ辞めたくなってきたわ」

と言ってきた事があった。

俺「でもそこ、働いて逆に給料が減っていくって事はないでしょ?

友達「そんな事ある訳ないでしょ。そんな事あったら働く人いないでしょ」


あるんだよ。いるんだよ。

俺は給料が減らない仕事が羨ましくてしょうがなかった。

そんな事思ってる時点でもう普通じゃない。

雀荘のバイトが終わった後にパチンコ屋に行って、なんとか生活してるという話をしたら、友達に、

「お前ってギャンブルばっかしてカイジみたいだな。別に逆境にも強くないカイジ」

と言われた。

つまり、クズと言っていた。

というかただでさえクズなカイジが、逆境にも弱かったらもうドクズである。

またその頃になると雀荘の従業員が増え始め、俺は店長とではなく、バイトのS君と2人で遅番に入る事が多かった。

そしてこのS君もまた、なかなかのクズであった。

この男も本走で負け、給料が残らないメンバーの一人で、さらにはパチンカスという事もありめちゃくちゃ親近感が湧いた。

お客さんが全員帰った後に、よくS君とどっちがクズかを競っていた。


俺「お前って結構クズだよな」

S君「俺は自分がクズって自覚してる分、お前よりはクズじゃないよ」

俺「俺も自覚してるよ」

S君「んじゃ、引き分けだな」

俺「おう」


S君との会話は、基本的に何も生み出さなかった。

お互いに、周りにもクズがいる事で安心感を得たかったのかもしれない。(得てはいけない安心感である)

どちらかが本走に行かなければならない場合、基本的に給料が多く残っているほうが本走に入った。

俺はS君が本走に行く度に、死ぬ気で応援していた。

S君が負けなければ、俺が本走に入らなくて済むので、給料が減らないからだ。

お客さんがいるので、もちろん声に出して応援してはいけないが、心の中で全力で応援した。


ここまで気持ちを噛みしめ、心の中で全力で応援したのは、小学生の頃の授業の途中、隣の席の男子が、あと3分我慢すれば授業が終わるというタイミングでう◯こを漏らし、唯一気付いたであろう俺に涙目で訴えかけてきた時以来である。

(休み時間に入れば何とかなる…!慌てるな…!)


しかし全力の応援虚しく、S君が本走で勝つ事はほとんどなかった。

S君の給料がヤバくなったら俺が本走に入り、俺の給料がヤバくなったらS君が本走に入った。

そして月の終わりになると、うまい具合に2人の給料がほぼ純カラになった。

給料日になり、雀の涙ほどのお金をもらうと、よく2人で朝食を食べになか卯へ向かった。

酷い月は、牛丼を食べれば大体給料がなくなった。

S君の給料が俺より多い時、S君がドヤ顔で牛丼に小うどんを追加していた時は悔しかった

ある日、なけなしの給料で牛丼を食べながらS君と話をした。


俺「俺らって、こんな苦しい思いしてまで雀荘で働く意味あんのかな」

S君「我々クラスまじで麻雀の才能ないから、早く辞めた方がいいと思う」

俺「俺もそう思う。んじゃお前はなんでまだ続けてんの?」

S君「就活ダルイじゃん」

俺「ダルい」

S君「それに、普通の会社で働いていけると思う?」

俺「思わない。お前は?」

S君「思わない」

俺「んじゃこのまま雀荘で働くしかないじゃん」

S君「おう」


もう一度言うが、S君との会話は基本的に何も生み出さなかった。

雀荘でバイトを始めてから2年、給料はどんどん下がっていった。
このままの状態ではいずれ家賃すら払えなくなるかもしれない。

しかし完全にカイジ思考の俺に転職するという発想はなく、パチンコで勝ち続ける事に全力を注いだ。



「ボウリング」

何の生産性もない日々を過ごしていたある日、いつもより早くバイトが終わった後、先輩に連れられボウリング場へ向かった。

なぜボウリングかと思う人もいるかもしれないが、理由は簡単である。

福島は他にする事がないからである。

もはや福島県民にとって、ボウリングはなくてはならない存在である。

福島のボウリングは、他の県のカラオケに匹敵するポジションにいると言っていいのではないだろうか。

しかしそんな福島に住んでいるにも関わらず、俺は昔からボウリングの才能がゼロだった。

中学生の頃ボウリングに行くと、俺が下手すぎてガーターしか出さないので、救済措置としてガーター防止のバンパーをセットしてもらっていた。

しかし俺は、この絶対ガーターにならないようにするためのバンパーをセットした状態で、2連続ガーターを出す奇跡を起こし、周りをドン引きさせた過去を持つ。

恐らくプロでも、これを狙ってやるのは至難の技である。
特に、ボウリングの上手さ全国No. 1の福島県民(適当)としては、絶対やってはいけないプレイの一つだ。
もし福島県知事にこのプレイを見られていたら、県外追放になっていても文句は言えなかっただろう。


先輩に連れられボウリング場に着くと、その日はS君を含む計6人が集まり、3体3のチーム戦をする事になった。

1ピンにつき100円でスコアを勝負するという賭けボウリングなどは決してしていない。決して。

俺の第一投目は、当然の如くガーターだった。

投げてからコンマ2秒でガーターに落ちているレベルだ。

その第一投目を見たチームメイトが、俺のあまりの才能っぷりに深刻な表情を見せ、緊急会議が行われた。

チームメイト「ちょっとこれではシャレにならない事になる。相手チームに交渉してくるわ」

と言って、交渉へと向かった。

相手チーム「苦しい条件だがこのままじゃ勝負にならない。いいだろう」

相手も勝負師、簡単に勝てる勝負など望んでいない

そして相手チームとの交渉の末、俺に起死回生のアイテムが与えられた。



ゾウさんである。

※知らない人がいるかもしれないので一応説明するが、このゾウさんは主に、まだボールを上手く投げれない幼い子供が真っ直ぐボールを飛ばす為に使うアイテムである。

しかし、チームの勝利の為に本気だった俺に恥じらいなどの感情は一切なく、このゾウさんをかなり真顔で使っていた。

集中力MAXだった俺には、隣のレーンを使う女子高生共が、こちらを見て失笑している事など一切気にならなかった。

しかしこのゾウさんを使いこなすのが意外と難しく、ガーターこそ減ったものの、スコアを伸ばせず1ゲーム目は相手チームに負けてしまった。

しかし俺は諦めずにゾウさんを使い続け、試行錯誤の末、黄金の軌道を発見する。

玉を投げる時に、レーンの右端に立ち、スパット(レーンに付いている印)の、右から二番目にゾウさんの鼻を向けて玉を転がす事で、必ずピンの中央へと玉が向かっていくのだ。

ストライクを量産するこの黄金の軌道は「ジ・エレファントロード」と呼ばれ、相手チームに猛威を振るったのは言うまでもない。

エレファントロードの発見により、2ゲーム目はこちらのチームが勝ち、1ゲーム目の負けと相殺してプラマイゼロ付近まで戻した。

しかし、希望の光が見えた矢先に事件は起こる。

最後の3ゲーム目が始まり、もう慣れた手つきでゾウさんをセッティングしていると、おもむろに店員が近寄ってきて、絶望の一言を口にしたのだ。

店員「あの、すいません…ゾウさんの使用はお子様限定でして…」

なんとこの重要な局面で、最終兵器を没収される大誤算。

さらに店員が駆けつけた事で周りから注目を浴び、俺は醜態を晒す事になる

なぜならその時俺は、ゾウさんの鼻の角度の微調整の為に、パターのラインを読む石川遼並に本気を出していたからだ。


まさに公開処刑である。


さすがにお店のルールには抗えず、俺は泣く泣くゾウさんを返却した。

店員にゾウさんを奪われた俺は、さしずめ、カイジに最終兵器の「グラ賽」を奪われた班長、大槻と言った所か。

それがないと何もできない雑魚、完全なカモ
俺は、相手チームの養分と化した。

その後、当然の如く、俺のスコア表には大量のG(ガーター)の文字が並んだ。

終わってみると、俺のせいでこちらのチームは大敗

一人当たり約50000ペリカの圧倒的大敗…!散財…!


それからというもの、いろんな意味でもうこんな辛い思いをしたくないと思った俺はボウリングを猛練習した。

多い時は、週3でボウリングに行った。

そしてしばらくすると、練習の成果があってか、信じられないほどスコアが伸び始めたのである。

もちろん周りの人も一緒にボウリングをやっていたので、全員がとてつもない成長を見せていた。

最終的には、ボウリングに参加していた全員がハイスコア200を超えるという珍事。

する事がないからってボウリングしすぎである。

もうその頃になると、ボウリング中に、

「いやーちょっとインスパットだったねー」

とか、

「ここでスネークアイかよ」

とか、専門用語を使っちゃったりしていたぐらいだ。

最初の頃はゾウさんを使っていた俺でさえ、その頃にはマイボールを携え、マイシューズまで買おうか悩むぐらいに調子に乗っていた。

しかし、それから雀荘のバイトが忙しくなり、だんだんとボウリングに行く回数が減っていってしまった。


その後、虚しい思いをする給料日を迎え、いつものようにS君となか卯へ向かった。

なけなしの給料で牛丼を食べながらまた話をした。


俺「雀荘以外でいい仕事見つけたんだけど、一緒にやらない?」

S君「何?」

俺「プロボウラー」

S君「それいいね。でも多分プロボウラーのヤツらって、幼い頃からずっとボウリングしてきた化け物みたいなヤツばっかだよ。今からなろうとしても無理でしょ」

俺「たしかにそうかも。無理だな」

S君「我々クラス結構クズだし、諦めよう」

俺「んじゃこのまま雀荘で働くしかないな」

S君「おう」


何も生み出さなかった。

続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?