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大学時代その1(井の中の蛙編)

「地元最強共集結」

(前回の続き)

ひたすらパンツを見続けた高校生を終え、俺は大学生になり仙台に住む事になる。

大学に入学すると、俺のクラスには幸か不幸か、麻雀打ちがたくさんいた。

そいつらと少し話をしてみると、全員が地元最強だという(俺も)。

麻雀の話をしてると自然と仲良くなり、俺はそいつら約8人と一緒に行動する事になった。

みんなで一緒に授業を受け、みんなで一緒に帰る日が続いた。

そして金曜日の授業が終わった後、麻雀で誰が本当の最強か決めようぜという話になった。

地元最強しかいなかったので、みんな「雑魚どもかかってこいや」みたいなテンションだった。

しかし、中学生から小手返しの練習をし、教科書の代わりに小島武夫の本を熟読し、東風荘の超ラン卓で凌ぎを削ってきた俺も、それは同じであった。

そして、友達のアパートで麻雀が開始された。

その麻雀は、テーブルの上に消音マットを敷いて、手積みで行われた。

その時は全員で8人いたが、テーブルは一つしかないので4人ずつ交代でやる事になった。

俺は最初抜け番で、岩手県出身の地元最強の後ろで観戦する事にした。

ところが後ろで見ていると、明らかに初心者である。

牌効率がどうとかではなく、開幕3900点放銃で3900点ぴったり払っているのだ。

(何が岩手最強だ…好きでもないのに小岩井コーヒーばっか飲みやがって)

その半荘、岩手最強は順当にラス。トップは仙台最強が取った。

というか仙台最強は3人ぐらいいて、途中誰がどこの最強なのかよく分からなくなっていた。


そして次の半荘、俺が福島最強として麻雀に臨んだ。

俺は起親スタートだった。

俺はまず配牌を貰うと、中学生時代に死ぬほど練習した小手返しで相手を威嚇。

後ろで見てたどっかの最強が、「それできるのすごいよね!」なんて声をかけてくる。

俺は「ああ、癖でな」とか言っちゃうぐらいの感じで、いかにも打ち慣れてますアピールをして牽制する。

まずは手つきで相手を怯ませるのだ。(誰も気にしてない)

俺は親番で順調に点棒を稼ぎ、トップ目に立っていた。

(地元最強とか言いながら、所詮は東風荘の上ランレベルか…)

しかし、上家の青森最強に親が渡った時に状況は一変する。

そいつが親でサイコロを振り、出た目は10だった。

(右10だから、下家の俺の山からだな)

そう思って、山を数えて切ろうとした瞬間にそいつはもう配牌の第一ブロックを取っていた。

この男、配牌を取る場所を暗記しているのか、一瞬で取ったのだ。

みんな何も言わなかったが、この時すでに俺は少しビビっていた。

(こいつ、明らかに打ち慣れてやがる…)

そして、さらに追い打ちがかけられる。

青森最強は、配牌のチョンチョンを一回で取るのだ。

今までこんな取り方見た事なかった俺は、また戦慄する。

(こいつどれだけの場数踏んでるんだ…チョンチョンなのにチョンで取りやがる…)

すると、今まであまり気にしなかったが、そいつは打牌が早いし、切り方とかもなんかいかにも手慣れた感じだ。

牌捌きで怯ませるつもりが、思いっきり怯まされていたのである。

更にそいつは、周りの人が牌を取り忘れたり、点数を間違ったりすると親切に教えてあげるのだ。

打ち慣れてるだけではなく、優しさも兼ね備えている

俺だったら、誰かが牌を取り忘れたまま打牌した時点で、
ハイ少牌ー!上がり放棄ー!残念!」で終わらす。これは父から譲り受けた技である。

(こいつ器の大きさも俺の比じゃねえ…)

戦意喪失していた俺は、結局そいつにまくられてしまった。


「青森の怪獣」

その後抜け番になり、その青森最強と色々話をした。

そいつは首が異常に短くて、肩幅が異常に広くて、誰かに似ていたのだが、どうしても思い出せなかった。

モヤモヤした俺は直接そいつに聞いた。

俺「誰かに似てるって言われない?」

青森最強「ジャミラでしょ」

そうだ!ジャミラだ!お前ジャミラそっくりだな!

思い出したテンションの高まりでこんな事を言ったがめちゃくちゃ失礼である。

しかしそいつは器がデカすぎるのか、それとも言われ慣れているのかは分からないが、全く気にしていない様子だった。

ジャミラに麻雀の話を聞くと、すでに雀荘でフリーで打っているのだと言う。

完全に負けた気がして納得がいかなかったので、俺は抜け番の間にそいつにぷよぷよで勝負を挑んだ。

その友達のアパートには色んなゲームが置いてあり、ちょうどスーファミのぷよぷよが置いてあったのだ。

俺は昔からゲームには自信があり、ぷよぷよで俺に勝てるやつは俺の兄ちゃんだけだと思っていた。

そのアパートでぷよぷよを見つけた瞬間、勝ったと思ったが、あまりガッつかずに「たまたまここにぷよぷよあったから、とりあえず次の麻雀までこれやって時間潰そうぜ」みたいな感じで誘った。

そうしておいてからフルボッコにする事で、ヤツのプライドを打ち砕く作戦である。(どうでもいい)

するとジャミラは、

「いや俺GTRしか組めないし、凝視もあんまりできないよ」

とか訳の分からない事を言っている。

いいからコントローラーを持てと言って、スーファミの電源を入れた。

しかし、最初なかなかぷよぷよが起動せず、例の如くジャミラがあの儀式を行なっていた。

(これは青森も一緒か…)

3回ぐらいカセットフーフーした後やっと画面が映り、10本先取の勝負が開始された。

俺の戦法は、すぐに5連鎖を作って、一瞬で相手のフィールドに致死量のお邪魔ぷよを送って勝つというシンプルなものだった。

しかし始まってみると、5連鎖を作ってる最中に、俺のフィールドになぜか一瞬で大量のお邪魔ぷよが降ってくるのだ。

そしてそのまま復活できず、ばたんきゅ〜である。

ジャミラは、俺が5連鎖を組んでいる間にめちゃくちゃでかい2連鎖を組み、すぐに発火してきていたのだ。

ジャミラ「階段積みは隙が多いからね

(ぷよぷよに隙とかあるのかよ…)

何度やっても速攻をくらい、俺は負けまくっていた。

9連敗した辺りで完全にキレてしまった俺は、ゲームの途中でジャミラの気を逸らし、コントローラーを抜く奇策に出た。
これも父から譲り受けた技である。

しかしジャミラは怒るわけでも焦るわけでもなく、冷静に素早くコントローラーを差し直し、そこから簡単に逆転してくるのだ。

もしかしたらジャミラは、あまりの強さからコントローラーを抜かれる事にも慣れていたのかもしれない。

気がつけば、1勝も出来ないまま俺がフルボッコ。

またしても逆にプライドが打ち砕かれていた。

自信のある麻雀とぷよぷよで、まさかのジャミラにマウントを取られる大誤算。

心が折れかかった瞬間、テレビ台の奥の方にスト2を発見する。

勝利の女神はまだ俺を見捨ててはいなかった。

まさにリーサルウェポンカラータイマー点滅からのスペシウム光線。

スト2に関しては、小学生の頃からかなりやりこんでいて、地元ではもはや無双状態

何度やっても俺に勝てず、泣き出す者や、リアルストリートファイトに持ち込もうとする輩が後を絶たなかった程だ。

(麻雀やパズルゲームが得意でも、格ゲーは別もんだぜ)

仮にジャミラが出来ないと言っても、無理矢理やらせる気でいた。

ワクワクする気持ちを噛み殺しながら、カセットフーフーを行った。

俺はガイル使いであった。

戦法は典型的待ちガイル

ひたすらしゃがんだ状態で待ちながらソニックブームを打ち、相手が飛んできたらサマーソルトで落とすのだ。

俺は、その正確無比な入力精度と圧倒的ディフェンス力から「福島が誇る緑の要塞」と呼ばれていた。(自分で名乗っていた)

しかし、スト2を起動した直後に異変が起こる。

起動画面でジャミラが、なにやらカチャカチャとコントローラをいじっているのだ。

それは裏コマンドであった。(スト2起動画面であるコマンドを入力すると、ゲームスピードを変えることができる)

これはスト2をある程度やっている者にしか分からない裏技だったが、ジャミラは麻雀を始める時に最初に牌山を少し前に出すのと同じぐらいの感じでそのコマンドを入力していた。

起動から入力までの一連の動作が、完全に体に染み付いている。

ここで怯んだら負けだと思い、必死で「まあ当然知ってるよね」みたいな態度を取りながらキャラ選択画面に進んだ。

ヤツはノータイムで春麗を選択した。

(ジャンプしてきたらサマーソルト…、様子を見てきたらソニック…)

自分に言い聞かせながら、対戦が始まった。

するとこの春麗、ジャンプする訳でもなく、様子を見る訳でもなく、開幕からただ歩いてくるのだ

意表を突かれ、とっさにソニックを出そうとした時には投げられていた。

そこから起き上がりに攻撃を重ねられ、反撃する間もなくまた投げられる。

気がつくと投げだけで負けていた。

福島が誇る緑の要塞は、青森の首のない怪獣の攻撃により一瞬で大破

終いには「ガイルはもっと(ソニック)打ちまくった方がいいよ」などとアドバイスされる始末。

完全に精神崩壊した俺は、ザンギエフに負けたあたりで涙目で電源を切った。


その後、ボンバーマンをやれば、

毎回爆弾に挟み込まれ


マリカーをやれば、

どのコースでもショートカットされ、


将棋をやれば、

開始早々、銀単体で攻め込まれ、


気がつけば全てにおいて敗北。大敗。撃沈。

ジャミラに唯一勝てるのは首の長さだけだった。

そしてさらにトドメの一言。

「俺の地元には、俺よりもっと強いヤツがいるよ」

俺はただの井の中の蛙だったのだ。

というかもう井ですらない、水たまりレベル。

俺の周りに弱いヤツしかいなかっただけだったのである。

それと同時に、邪悪な印象を抱いてしまった俺は、青森県に近づくのはやめようと思った。

ただそれでもやはり、東風荘で鍛えられた事もあり、麻雀でジャミラ以外に負ける事はほとんどなかった。

というか山形最強が一人圧倒的弱さを誇り、毎回負け頭になっていたのだ。

山形最強は、最初に麻雀を始める時は元気がいいが、毎回麻雀で負け、最終的に5キロぐらい痩せたんじゃないかと思うほどのやつれた姿になり、この世の終わりのような顔をしながら、

俺もう麻雀やめるっちゃ

と言うのが恒例になっていた。

彼が一度、10連続ラスという伝説を残した日の帰り際には、もはや印南と区別がつかないレベルになっていた。


それからしばらくして、俺はジャミラに誘われ、フリー雀荘へと行くようになった。

そこでフリーのルールやマナーを身につけると同時に、雀力をさらに磨いた。

そうしている内に、ジャミラが「もっと強くなりたい」という理由で、雀荘でバイトを始めだしたのだ。

その後、週一ぐらいのペースでジャミラが働いている雀荘に通うようになり、店員の人達とも少しずつ仲良くなっていった。

そんなある日、ジャミラから、

「店には言ってあるから、俺の代わりに1日だけバイトで入ってくれない?大体麻雀やってればいいから。あの店慣れてるし大丈夫でしょ」

みたいな事を言われ、急遽初めての雀荘メンバーをする事となった。

そしてその初めての雀荘バイトの日、さっそく事件は起きた。

長すぎるので一旦ここで終わります。

次回「馬主事件」に続く。

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