雀荘メンバー時代その4(店長の横領を阻止せよ編)
「地獄の雀荘から地獄の雀荘へ」
(雀荘メンバー時代その3の続き)
福島で雀荘メンバーを始め、約3年が経過していた。
あれだけポンコツだった俺も(以前の日記参照)、この頃になると後輩に仕事を教える立場となってきていた。
俺「お客さんが楽しんで打てるようにマナーはしっかり守って、負けたりしても不機嫌な態度は取らないようにね」
メンバーを始めた当初、舌打ち、首傾げ等を呼吸するように行っていた俺は、後輩にこんな事を言いながら、どの口が言ってるんだと自分で思った。
後輩は元から結構優秀なメンバーが多かったのだが、その中にはお客さんから三倍満をアガり、
「ロン、デバサイです」
と言いながら倒牌した猛者がいた。
ここまでくると胸ぐらを掴まれても抗える余地はないだろう。
数々の荒技を繰り出してきたこの俺ですら負けたと思ったぐらいである。
どうやらそのメンバーは、デバサイを「出上がり三倍満の略」だと勘違いしていたらしく、それだったら仕方ないかと一瞬思ったが、それでも絶対ダメである。むしろダメである。
そんなハプニングがある中、俺は元々働いていた雀荘を辞め、そこで働いていた先輩の従業員と共に新しい雀荘をオープンさせ、そこで働く事になった。
俺はその新しい雀荘で、今までのアルバイトという立場から、一気に副店長にまで昇進した。
(従業員が2人しかいないからである)
しかし、オープンしてすぐの頃はお客さんが全く来ず、もっぱら広告配りを行っていた。
その頃は冬に差しかかる時期になっていて、毎日寒い中ひたすら外に立って広告を配る作業は地味にキツく、雪が降った日などは、もはや地獄であった。
しかし本当の地獄は、広告配りを終え、店に戻った時に始まるのだ。
それは、オーナー、店長、俺による半永久サンマである。
お客さんが全く来ないからか、暇つぶしも兼ねてとりあえずこの3人でサンマをしようとの事だった。
そして、もちろん3人で場代を払う。
この店側3人で出した場代が売り上げとなり、そこから給料が払われるという事だろう。
つまり、俺は自分の給料を貰うためにお金を払い、その払ったお金を後で給料として貰うという仕組みだ。
意味不明である。
これほどまでに不毛な麻雀をした事があっただろうか。
しかし、お客さんが来ない以上はまあ仕方ないのかなと思うも、卓内には俺ら何してんだろう感が終始漂い続けていた。
そのまましばらく新規のお客さんが来ず、不毛なサンマで場代を払い続けた末、初めての給料を貰った時には、貰ったというより、戻ってきたという感覚だった。
スロットに10万入れた後に5000枚出してプラマイゼロまで戻したあの感覚を思い出していた。
「めんどくさい牌」
このお店には、店長の提案で、金イーピン(金1p)という牌が採用された。
業者に頼んで色を入れてもらった訳ではなく、そこらへんで適当に金のスプレー買って適当に塗っていただけなので、見ての通り、見た目がめっちゃしょぼい。なんか汚い。すぐ色落ちる。
新規のお客さんから、
「なんかめっちゃ汚れた1p入ってるんだけど」
と言われるのは聞き慣れたほどだ。
この金1pは、面前で使ってアガると「ドラ扱いにはならないが、祝儀が2枚貰える」というかなりのめんどくささを持った牌であった。
※しかも、このお店の祝儀は一枚二千点相当という低めな設定な事と、1p自体が端牌で使いにくいという事で、そこまでこの金1pが重要視される事はなかった。
なぜこんなルールにしたのか。色々と噛み合っていない。
新規のお客さんはその牌の見た目から、まずドラだと勘違いする。
そして、赤牌と複合したりすると何点の何枚だかもう分からない。
例えば、
客「ツモ!ん、これ倍満?あ、一発と裏と金もあるから三倍満までいく?チップは5枚?あれ、6枚?ごめんちょっと計算して!」
俺「全然分からん」
ってなる。(なっちゃダメ)
また、
こんな手が来たら、もうどっちを切っていいか分からない。ただただめんどくさい。
なぜこんな事で悩まなくてはいけないのか。
そんな事もあり、俺はこの金1pが本当に嫌いだった。
途中、みんながある程度金1pの使い道が分かってきたあたりで、金1p切ってペン3pなどという本当にどうでもいい高度なテクを使う輩が現れたのは衝撃的だった。
これには石橋プロもお手上げである。
そんなある日、(こんな訳分からん牌使って楽しいと思うヤツいるのかよ…)とか思いながら打っていると、隣の卓から大きな声が響き渡った。
客「ツモ!400、700の2枚オール!
いやーこんな点数申告したの初めてだよー!ガハハー!」
めっちゃ楽しんでるヤツいた。
「vs横領店長」
この新たな雀荘で働き続けて約1年。
オープン当初はどうなる事かと思ったが、売り上げもどんどん上がり、最初は2人しかいなかった従業員も6、7人まで増え、全てが順調に進んでいた。
しかし、この頃からお店でトラブルが起き始める。
はっきり言うと、店長がお店のお金を横領しまくっていた。
雀荘メンバーをした事がある人なら「あーはいはい、それね」という感じの金銭トラブルであろう。
ちなみにこの店長は勤務態度も最悪で、本走中以外は基本的に、寝ているか、漫画を読むかのニ択であった。
そして一度漫画を読み出すと、仕事が残っていようが何しようが、しばらくはその場から動かずにひたすら漫画を読み続けた。
俺が長時間ずっとワン入り(従業員一人が卓に入り麻雀を打つ)で本走に入っていたある日、店長が勤務中にも関わらず、仕事を放棄したまま、俺が本走に入っている間だけで店にあったYAWARA全29巻を読み終えてしまった出来事は、まさに圧巻の一言である。
長い本走を終えクタクタになった俺に対し、仕事もせず、ずっとサボっていた店長がYAWARAを読み終えたテンションのまま、
店長「くらえー!柔ちゃんの一本背負い!」
とか言ってふざけて俺に掴みかかって来た時は、もし俺にテレシコワの技術があれば、カウンターで即裏投げをお見舞いしていた所である。
この店長は、どうしようもない人間である俺が、どうしようもない人間だなと思った数少ない人物の一人である。
その後しばらくして、店長が20世紀少年を読破したあたりでする事がなくなったのか、今度は横領を始めたのだ。
しかし俺もダメ人間なので、途中から思いっきり横領に気づいていたものの、正直自分に影響がなければ何でもいいと思っていた。
ところがある時から、俺や、バイトの人達の給料の支払いが遅れ始める。
店長が横領しすぎたせいでレジ金が不足していたからだ。
バイトの人達はその状況を分かってはいたが、店長に直接言えないからか、副店長である俺に不満を口にする事が多くなってきていた。
バイトA「僕が貰う分の給料が店長の財布に入ってるという事ですよね?絶対おかしいですよ!」
バイトB「何で一番仕事しない人が一番お金もらってるんですか!」
バイトC「いつになったら僕の給料出るんですか!」
俺「お前は元々ないだろ」
等、バイトの人達も不満が溜まり、みんなの仕事のモチベーションは下がっていく一方だった。
ここまで周りに影響が出てしまっては、さすがに店長に横領をやめさせなくてはいけない。
バイトの人達がみんな辞めてしまったら、この雀荘の存続に関わるからだ。
もちろん俺自身も不満が溜まっていたが、このお店がなくなり、ニートに逆戻りするのも困る。
オーナーも結構適当でこの状況が分かっていないらしく、バイトの人達、そしてこの雀荘を救うには、もはや俺が何とかするしかなくなっていた。
オーナーに店長の横領の事を直接話すと、なんかとてつもない事件になりそうな気がしたので、俺はとりあえず店長に直接言ってみる事にした。
しかしこんな店長ではあったが、一緒に新しいお店を立ち上げ、売り上げが上がらず辛い時期でも2人で力を合わせて頑張ってきた関係でもあり、いきなり、
「横領するのやめて下さい」
と、単刀直入に言うのは何か憚(はばか)られた。
そこで色々考えた結果、やんわりと気づいてる事をほのめかして、店長に横領をやめさせる作戦に出る事にした。(ビビリなだけである)
「店長、暴走」
この時の店長の横領の方法は様々だったが、メインの手法は、セット料金をまるまる抜く事であった。
例えばセットのお客さんが来て、セット料金が一万円だったら、そのセットの伝票を抹消してレジから一万円抜けば、それだけでもう何もなかった事になる。
ある日、セットが帰った後にゲームシートを見ると、いつものようにセット伝票がなくなっていた。
お金を抜き終わり、する事がなくなったのか、店長は完全に休憩モードに入っており(常に休憩モードだが)、コーヒーを飲みながらまた漫画を読んでいた。
ここしかないと思い、軽くジャブを放った。
俺「あれ、さっきのセットの伝票ってどこにあるんですかね?」
店長はまさか問い詰められる事があるとは思わなかったのか、ガチでコーヒーを吹き出すぐらいの様子であからさまに焦っていた。
ここまで分かりやすい動揺のリアクションを見せるのは、この店長か、思いを寄せていた柔ちゃんに急に「泊まりに行っていいですか?」と言われた時の新聞記者の松田さんぐらいだろう。
店長は思いっきり動揺しながらも、苦し紛れに返答した。
店長「ん?セ、セット伝票?あれ?そこ置いてない?か、風で飛んでったか…?」
店長は突然の事で完全にパニックに陥ってしまったのか、小学生でももっとマシな嘘つくぞというような嘘をついていた。
なぜ大事な伝票をしっかり管理しないのか。
なぜ屋内で風が吹いているのか。
ここにコバゴーがいたら、間違いなく「いや、吹いてないですね」で一蹴している所である
全然意味が分からなかったが、さすがにバレたと思ったのか、この日から横領がストップした。
その後みんなに給料が無事支払われ、もう大丈夫かと思われたが、もちろんそんな訳はなかった。
不動産屋から、家賃延滞の知らせが届いたのだ。しかも結構笑えない額だ。
毎月店長が、不動産屋に直接お店の家賃を払いに行っていたのだが、どうもしばらく払っていなかったらしい。
セット料金を抜けなくなったからか、今度はお店の家賃代をまるまる横領していたのだ。
もうやれる事は全部やってくるタイプ。妥協一切なし。
また問い詰めようとも思ったが額も額だし、また風のせいにしてくる気もしたので、もう俺の手には負えないと判断し、いよいよオーナーに報告した。(遅い)
これでとりあえずは落ち着くだろうと思われたが、結果は不幸にも店長をさらなる暴走へと導いてしまう。
もうセット代も家賃代も横領できなくなり追い詰められた店長は、最終的にこのお店で行われた麻雀大会の優勝賞金10万円を横領するというとんでもない行動に出たのだ。
もうバレようがバレまいが関係ないと言わんばかりの力技である。まさに規格外。ゴリ押し。全ツッパ。
窮鼠猫を噛むという言葉があるが、追い詰められすぎてもう軽く虎クラスを噛んでしまっている。
しかしこれはさすがにやりすぎだったか、ついにここで大きな問題が発生した。
大会優勝者に賞金が払えなくなってしまったのである。(当たり前である)
つまり店長は、優勝者に賞金が払えなくなるのに優勝賞金を横領した結果、優勝者に優勝賞金が払えなくなってしまったのである。
店長の横領はついに、お店側だけでなく、お客さんをも巻き込んでしまったのだ。
この出来事は、大会に参加したお客さん多数、オーナー、そして店長を含む従業員を混じえての大会議が行われる事件へと発展した。
俺はこの雀荘で働き始め、素晴らしい人物との出会いや素晴らしい思い出が数え切れないほどあったが、店長の横領を始めとした数々のトラブルから、色々疲れてきてしまい、だんだんと働くのがイヤになってきてしまっていた。
そして、そんな気持ちで働いている内に、いつしか麻雀自体が好きではなくなってしまったのだ。
中学生の頃、お父さんに一盃口から教わり麻雀を覚えて以来、こんな気持ちになったのは初めての事である。
そして、この新たな雀荘で働き始めて約2年半、俺は雀荘メンバーを辞める事を決意した。
東京へ行って、麻雀とは関係のない新たな仕事に就こうと思ったからだ。
このお店を辞めたら、恐らくこれからの人生、麻雀に関わる事はないだろう。
そう思うほどに、麻雀や雀荘に対して嫌悪感を抱いてしまっていた。
少し寂しい気持ちもあったが、すぐに決断しないと気持ちがブレてしまうかもしれないので、その後すぐにその雀荘を辞め、上京した。
気持ちを入れ替え、晴れて東京の地に降り立った初日、何をしていいか分からないので、とりあえずフリーを打ちに雀荘へと向かった。
続く。
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